ダモクレスの剣(つるぎ)
世界には「触れなくていいモノ」があって、「触れるべきではないモノ」というのがあって、触れることによって未来が変わってしまうものなのです。
それは「ダモクレスの剣(つるぎ)」と呼ばれています。
「ダモクレスの剣の逸話」
古代ギリシアの時代。現在のシチリア島にあたる土地に、栄華を極める王様がいました。
王にはダモクレスという名の臣下がおり、ある時、うらやましく思ったダモクレスは「王様がいかに素晴らしく、恵まれた環境にあり、幸せであるか」褒めそやします。
その言葉を聞いた王は、後日、ダモクレスを呼び出し、玉座に座らせました。
最初はご機嫌だったダモクレスでしたが、ふと頭上に目をやると、天井から1本の剣がぶら下がっているのが目に入ります。それも、糸1本でつながっているだけ!
恐れをなしたダモクレスはあわてて玉座から転げ落ちます。
王は「自らの地位が、いかに危ういものであるか?増長すれば、瞬く間に信頼を失い、失墜してしまうものである」というコトを身をもってダモクレスに伝えようとしたのでした。
かつて、ジョナサン・ケイナーという高名な占星術師が存在していました。
ジョナサン・ケイナーは、同じ逸話を使って、こう語りました。
「ダモクレスの剣は、確かに危ういかもしれない。けれども、触れることさえなければ、落ちてくることもない」
元の逸話を使って、全く別の解釈をしたのです。つまり、「心配し過ぎるな」ということです。言い換えれば「ネガティブな未来は、想像した瞬間に現実化し始める。言葉にすれば、現実のものになってしまう」
「夢はかなう!信じ続ければ!」
それは、青年が少年時代より、心の中に強く刻み込んできた真実の1つでした。でも、青年はこの時まで知らなかったのです。ポジティブな夢だけでなく、ネガティブな夢さえも信じた瞬間にかない始めるということを。
*
「世界を変える戦い」を続けていく中で、浜田君は毎日ため息ばかりつくようになっていきます。
あの人は「病気なの?」とトンチンカンなコトを言っています。ま、病気には違いないでしょう。きっと「恋の病」に決まっています。
浜田君は、あの人に向かって厳しい口調で「お前のせいだよ!」と返します。これで、理由は明らかですよね?
青年は、こういうとこ察しがいいのですぐに気づきました。青年とあの人が夫婦みたいに仲良くしているのを見て、あてられてしまったのでしょう。
浜田君に厳しいコトを言われて、あの人はいつもビクビクするようになっていました。
青年は、そんなやり取りを眺めながら、遠い昔の出来事を思い出していました。小学校の初恋の時のコトを…
小学5年生の時、少年には好きな女の子がいました。
決して目立たず、特にかわいくも美人でもなく、どちらかといえば地味で欠点ばかりの子でした。でも、1つだけいいとこがありました。彼女は、誰に対してもやさしかったのです。
クラスでみんなが嫌がる当番を決める時、決まって最後にはその子が手をあげてくれるのです。汚れ役は、みんなその子が引き受けてくれていたのです。
そんな姿を遠くから眺めていて、少年はいつの間にか彼女のコトを好きになっていました。
でも、素直にその想いを告げることはできません。逆に、心とは反対の行動を取ってしまうのです。
たとえば、同じ班になった時も表面上は喜びませんでした。遠足の時、隣の席になっても「なんで、お前なんかの隣なの?」みたいな態度を取ってしまいました。
全部、愛情の裏返しだったのです。
そんな思い出もあって、浜田君のあの人への気持ちは痛いほどよくわかります。だからといって、どうするわけにもいきません。ふたりがくっついてしまったら、あぶれるのは青年の方なのですから。
それでも、青年は想像してしまったのです。ふたりが仲良くして、それでも最終的には彼女が自分の元に戻ってきてくれる未来を。それは物語として、とても魅力的なモノに思えました。
ただ単に幸せな関係を築くだけでなく、波瀾万丈、紆余曲折あってから最後の最後に結ばれる方が素晴らしいストーリーに思えませんか?
読者のみなさんだって、そう思いますよね?「ただのハッピーエンドの物語」なんて読みたくはありませんよね?そんなの単なるのろけ話だもの!
どんな物語だってそうなんです。穴だらけのデコボコ道を進み、急な坂道や、切り立った崖や、ボロボロのつり橋を渡って、最後の最後に楽園にたどり着けるから、ハラハラドキドキして「あ~よかった!」と最後のページで安堵できるんです。
そこまで考えて、青年はあの人とふたりきりの時に、こう言ってしまいました。
「浜田君は、君のコトを好きなんだよ」
青年は、天井からぶら下がっているダモクレスの剣に触れてしまったのでした!