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「僕の改革 世界の改革」 第31夜(第5幕 6 ~ 10)

ー6ー

人々の心から希望が消え、その目からは光が消えた。
無気力生物は日を追うごとに増えていく。無気力レーダーなどに頼らなくとも、それは明らかだった。
街には仕事にあぶれた者達が寝転がるようになり、そうでない人たちも、なんのために働いているのか理解できぬまま、ただ黙々と働き続けていくのだった。

だが、我々は逆にそこに目をつけた。
「この国のこの政府が役に立たないのであれば、自分たちで変えていくしかないじゃないか!」
そう訴えて、新しいメンバーを増やしていった。


ー7ー

人々は、続々と『世界改革連合』を目指して集まって来る。
政府は信用を失い。かといって、代わりになるようなモノも存在せず。企業は安い賃金で労働者をこき使い、マスコミも宗教も世間を非難するばかりで実際には何もしてくれはしない。
人々は何を信じていいのかわからなくなっているようだった。そういった人たちが我々のもとに集まって来るのは、むしろ当然とさえ言えた。

我々の組織は国に認可されたものではなかったが、逆にそれが功を奏した。政府に関与していないということで信頼性が得られたのだ。
企業とは違い給料は出ないが、衣食住の保証はする。そういったやり方がさらに信用を呼んだ。
寄付をしたいと申し出る者があとを断たなかった。お金だけなく、直接物資を供給してくれる者たちも数多く現れた。

僕も前面に立ち、こう訴えかける。
「この国は地に落ちた!生き残りたい者は、革命家ポルトーテスの元へ!世界改革連合の元へ!我らが組織のもとへ集え!!」
そして、気がつくと、僕は隊長から司令官になっていた。


ー8ー

時は巡る。
数年という時間の間に、様々なモノが様変わりしていた。
無気力生物に関する研究を行っていた大木さんは研究所を1つ与えられ、ホーもマンガンも学生服君も、それぞれ隊長となり別の街の支部を任されていた。
それなりの地位を与えられ任務を与えられると、皆忙しくなりお互いに顔を合わせることも少なくなっていった。

組織は大きくなりその基盤も固まっていったが、僕の心の中には常に不安がつきまとっていた。

どんなに組織が大きくなろうとも…
どんなに高い地位に登り詰めようとも…
決してぬぐわれることのない不安だ。

それどころか、事が大きくなればなる程、ますます不安になっていく。
「こんなことでいいのだろうか?本当にこれが世界を変えるということなのだろうか?これがリンの望んでいた世界の改革?」
そういった疑問は大きくなっていくばかりだった。
だが、人々の手前、その疑問を表に出すようなことはできなかった。


ー9ー

そんなある日、部下の1人がやってきて、こんな噂を伝えてくれた。
「最近、街から人が消える事件が多発しているそうです」
「人が消える?」
「それも誘拐といった類ではなく、神隠しのようにある日突然人が消えるそうで。脅迫状のようなモノが送られて来るわけでもなく、全く連絡が取れなくなってしまうという話です」
「神隠し?」
「一説によると『白き夢』のせいではないかと言われております」
「白き夢?なんだい?それは?」
「詳しいコトはわからないのですが、白い衣装に身を包み、世界の終わりを訴えかける終末論者たちだそうで」
「世界の終わり…か」
「一種の宗教に近いモノであると考えられます」
「こんな時代だからな。終わりを想像したくもなるだろう」

何を信じればいいかわからない。
何を頼ればいいかわからない。
そんな世の中だ。世界の終わりを考える者たちが現れても不思議ではない。

それからずっと後になって『白き夢』と実際に出会うことになるのだが…
その時の僕には、そんな風にしか考えられなかった。


ー10ー

世間では、不況の嵐が吹いていた。
僕は部下を1人連れ、街へと出かける。この不況で職を失い家を失った人たちと話をするために。
街の中の公園では、住む家さえなくした人たちが思い思いの場所に陣取り寝転がっている姿が見られた。

僕らは、その中の1人のおじさんに声をかける。
「こんばんは。ご機嫌いかがですか?」
「キゲン?ああ…ええよ。結構じゃとも」
「おじさんは、ここに住んでいらっしゃるんですか?」
「そうじゃよ」
「失礼かと思いますが…お仕事は?」
「仕事?そんなモノはしとらん」
「仕事をしなくても生きていけるんですか?」
「生きていけるとも。現にホラ、ここにこうして生きておるじゃろう」
「そうですね。でも、あまり健康そうではないような…よろしければ、お仕事を紹介いたしますけど。お金は入りませんけれど、住む家と毎日の食事くらいは提供できますよ」
「ええんじゃよ。構わんでおいてくれ…」
「どうしてですか?」
「ワシらは好きでこうしておるんじゃ。それに、放っておいても食い物は手に入る」
「食べ物が手に入る?どうやって?」
「ボランティアの者が、週に何度か食い物を配ってくれるんじゃよ。ワシらはただ寝転がって、その時が来るのを待てばいい」
「……」
「それに、イザという時にはゴミ箱でも漁ればいい。贅沢さえせねば食い物などいくらでも手に入る」
僕はそれからも、なんとかおじさんを説得しようとしたが、ムダな努力に終わった。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。