総合特区物語
無理をして短期間に大量の原稿を書いたため、しばらくの間、何も書けなくなってしまったヘイヨーさん。
完全に、実力以上の能力を発揮しようとした後遺症です。
それでも、「再び筆を取ろう!」と思える日がやってきました。
「さて、次はどういう作品にしようか?」と、立ち止まって迷います。ここで、「究極の作家」について、もう1度考え直しました。
「これまで自分が書いてきた小説は、えらく自分勝手なモノだったのではないだろうか?自分の世界を最大限に極め、それを読者に押しつける。そのようなモノだったのでは?」
もちろん、そういう作風もあります。独自の世界を形成するコト自体は間違っていないはず。けれども、あまりにも読者を軽視し過ぎていたきらいがありました。
一言で表現すれば「作者のみが存在し、読者が存在していなかった」のです。
そこで、ヘイヨーさんは考えます。
「この辺りで1つ、読者が望むような小説を書いてみようか?」と。
同時に『あの人』のコトを思い出します。
「あの人が理想としていた世界。あの人が望んでいたような社会システムの物語を書いてみてはどうだろうか?」
そう考えたヘイヨーさん。今度は「都市小説」に挑戦し始めます。
都市小説というのは、人ではなく街を主体として描く小説。いわば、街が主人公ともいえます。
そこで、特定の人間の主人公を設定せず、何人ものキャラクターが入れ替わり立ち替わり登場する群像劇のような形にすることに決めました。そうすることで、背後にある街そのものを浮き上がらせようとしたのです。
「舞台となる街」の設定には、トコトンこだわりました。「特区」と呼ばれる、税金や政策で優遇される制度を取り入れます。それも「教育特区」「医療特区」「経済特区」など、特定の分野における優遇ではなく、ありとあらゆる政策を自由に行える「総合特区」
簡単に言えば、日本国内にある街なのに、まるで独立国家のようにオリジナリティあふれる地域になっているというコトです。住んでいる人たちも自由で、生活は独特。
ただし、完全な「理想郷」にしたくはありませんでした。あくまで、現実世界の延長線上にある街です。人々は理想を求めるのに、現実という名の厚い壁にぶち当たり、その都度悩んだり迷ったりする。
その結果、ちょっとだけ理想に近づく。そういう物語にするつもりだったんです。
メインのキャラクターの1人は小学生にしました。子供の視点から見た方が、独自の街がより新鮮な視点で表現できると考えたからです。
さらに、そのキャラクターに妹を作り、同級生の友達も何人か作りました。
それから、全く別の登場人物として「街の市長さん」を生み出します。このキャラクターは、実は別世界での姿は「伝説の悪魔」であり、かつて世界を滅ぼしかけた伝説の悪魔がその行いを後悔し、現実の世界で人々の幸せのために生きるという裏設定にしました。
ヘイヨーさんが「あの人」のためを思いながら、自分勝手に行動したために、結局幸せにしてあげられなかったのを後悔したのに重なります。
物語の中の登場人物に、自分の人生を重ねるのは得意でした。そうやって、リアリティを出すのも。
こうして誕生したのが「総合特区物語」です。
でも、この作品はひな形だけ作り上げて、お蔵入りになります。まともな形の小説になるには、もうしばらくの時を待たなければなりませんでした。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。