「ディケンズの分解メス」の限界
この時の青年の心理は複雑でした。今になって振り返ってみても、分析するのが非常に難しいくらいに。
なので、ここに書かれている文章が当時の青年の心理を100%完璧に表現しているとは思わないでください(そもそも、人の心を100%的確に言葉にするだなんて不可能でしょうけど…)
1.「あの人」に対して、なんらかの非常に強い想いを持っていた。
2.ただし、その想いは「愛」とか「恋」とかいうものとは違っていたかも知れないし、ある意味でそれらを超越していたとも言える。
3.もしかしたら、望んでいたのは「作者」と「読者」の関係かも知れない。
4.この時の青年は「結婚したい」という願望を持ちつつ、同時に「束縛されたくない」という思いも持っていた。
5.そして、「結婚」は人生において最大の束縛であり、結婚は人生の墓場であるとも考えていた。
6.青年は「作家としての人生」と「人としての人生」を同時に歩もうとしており、その矛盾に苦しんでいた。
7.青年の持つ能力は「拡大」であり、エネルギーの続く限り無限に人々に触れ、自分の心の世界を拡大していく。
8.対して、あの人の持っていた能力は「安定」であり、自らを犠牲にしてでも、自分の身の回りにいる人たちに全力を尽くして守ろうとする。
9.2人の能力は相反するモノであり、このままだと溶け合わない。けれども、上手い方法を見つけ出せば、お互いの欠点を埋め、長所を伸ばし、よい影響を与え合って生きていけた。
10.この時の2人の関係は、まるで「アリとキリギリス」
11.あの人は、自分のすぐ側にいて、やさしくしてくれる人を好きになってしまう性格だった。
12.2人は遠く離れた場所に住んでいた。
13.もしも、2人が一緒になるなら、どちらかが自分の夢を諦めなければならない公算が非常に高い。
14.青年が作家としての人生を捨てて、東京に引っ越し、マジメに働いてお金を稼いでくる。あるいは、あの人が学校の先生を辞めて青年の家の近くで生活する…などといった形で。
まだまだいくらでもあります。
青年は、当時の「ディケンズの分解メス」の能力を最大限に使い、限界地点まで想像力を駆使しました。
「過去にあった出来事」「現在の状況」「未来に起こりうる問題への対応策」などなど。
その結果…
疲れ果ててしまいました。
「一体、自分が何を望んでるのか?」「あの人とどうなりたいのか?」「どんな未来が一番幸せになれるのか?」わからなくなってしまったのです。
物凄くシンプルに語れば、「『作家としての人生』と『人としての人生』両方を幸せにする手段を見つけ出すコトができなかった」のです。これが、当時の「ディケンズの分解メス」の限界でした。
あの頃より遙かに成長した現在の能力ならば…
いえ、この問題に関しては、やっぱり答えは同じかも知れません。つまり…
「解答不能」