誰もわからない脚本
さて、アングラ劇団の方に参加したせいで、お話が別の方向に行ってしまいましたが…
メインは「自分たちの劇団を作る方」だったんです。
結局、メンバー募集雑誌を見て声をかけてきてくれたのは、背の低いメガネっ娘の亀山さんひとりだけだったので、残りはキザオ君の集めてきた友達で劇団を結成することに決めました。
ここで、2つのプロジェクトが同時に進行していくことになります。
1つは「新しく作る劇団の旗揚げ公演」
もう1つは1年後に行われる「中野区の区民文化祭での公演」です(これは、中野ボランティアの会長である村田さんが取って来てくれたイベント。役者もボランティア団体のメンバー)
キザオ君としては「旗揚げ公演」の方が重要なんですけど、青年としては圧倒的に「区民文化祭での公演」の方が重要だったんです。規模も大きいし、いろんな人に見てもらえるので。
これが1つの問題を生んでしまいました。
…というのも、青年は主宰(劇団の裏方運営)だけでなく、キザオ君から「上演する舞台の脚本も書いて欲しい!」と頼まれていたからです。
作家を目指す青年としては絶好のチャンス!絶好のチャンスなんですけど、残念ながら実力が伴ってなかったんです。
この時の青年って、「世界を変える!」とか「世界を滅ぼす!」とか「世界最高の作家になる!」っていう意識だけは高かったんです。でも、能力がついてこない。完全に意識高い系の人間!
逆を言えば「先に意識を高め、言葉で宣言しておいて、あとから現実の方を追いつかせる」っていう戦法なんです。事実、このやり方がうまくいくこともあったし、のちにこの能力は開花します。
ただし、この時点では未熟だったんです。弱冠22歳だった上に、社会に出てきてからまだ3年ちょっとしか経っていなかったから、圧倒的に経験不足だったんです!
アイデアだけは、秘密のノートにどんどん溜まっていくんですけど、小説なんてまともに書いたことがありません。まして、「長編小説」だとか「2時間近くある演劇の脚本」なんて絶対に無理でした。
それでも、「1本だけいけるな!」って確信があったんです。「1本だけだったら、みんなが満足し、楽しんでくれて、作品としての価値も高いモノが作れる!」っていう確信!それだけの大きなアイデアと完成させるだけの自信がありました。
「その1本をどっちにするか?」で迷って、1年後の「区民文化祭の上演」に回すことに決めちゃったんです。
…というわけで、キザオ君に頼まれた脚本の方は断りました。何度も何度も頼まれたんですけど、全部断りました!
結果、これがマズイことになります。
仕方がないので、キザオ君は知り合いの脚本家志望の男性に脚本を依頼しました。「中崎さん」っていう年上の男の人で、性格は非常にいいんですよ。でも、あげてきた脚本の意味がわかんないんです。誰もわかんないんです!
役者はもちろんのこと、演出のキザオ君もよくわかっていません。もしかしたら、書いてきた中崎さん自身もわかっていなかったのかも?中崎さんはいろいろ説明してくれるんですけど、その説明も意味がわからない。
「マッチ売りの少女」をベースにした哲学的・観念的なストーリーなんですけど、「何がやりたいか?」もよくわかんないし、おもしろさもわかんないんです。
青年は「これだったら、自分で書いた方がよかったかな…」と後悔しましたが、残念ながらこの時点では実力もなかったので、どうしようもありませんでした。
結果、誰も本質がわからない脚本を使って、舞台の稽古を始めることになってしまったんです…
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。