「僕の改革 世界の改革」 第38夜(第6幕 11 ~ 15)
ー11ー
何日か旅を続け、『無気力生物たちの街』が近づいてきたある日のコト。一軒の小屋が見えてきた。懐かしい小屋だ。アレは、確か…
そうだ。『死にゆく詩人』とそれを支える女性の小屋だ。
アレから2人はどうなってしまったのだろうか?元気でやっているだろうか?
僕は「せっかく近くまで寄ったのだし…」と思い、小屋の扉をノックした。しかし、返事は帰ってこない。
何度か続けて扉を叩いてみるがやはり返事はない。扉に手をかけると、どうやら鍵はかかってないようだ。
「悪いかな?」と思いながらも、僕はゆっくりと扉を開けた。
ー12ー
小屋の中は真っ暗だったが、うっすらと入ってくる日の光でボンヤリと部屋の様子がわかる。
僕は部屋の中に声をかける。
「こんにちは」
返事はなかったが、なんとなく人の気配がする。
ガサゴソと布の擦れ合う音が聞こえた。間違いなく誰かが居る。
「あの…」
おそらく、あの詩人だろう。頭から毛布をかぶったまま出てこない。
「悪いとは思ったのですが、ひさしぶりに近くに来たもので、せっかくだと思って…覚えていらっしゃいますか?昔、雨の日にお世話になって、雨をしのがせてもらった上にスープまでごちそうになって…」
しかし、毛布から顔を出したのは詩人ではなかった。
ー13ー
毛布から顔を出したのは、死に行く詩人ではなく、それを支えていた女性の方だった。
「アへッ?」
僕は驚いてスットンキョウな声を出した。
「あの…あの方は?詩を歌っていた、あの男の人…」
しばらくの沈黙が続き、お互いに何も喋らないままの時間が続いた。
僕は「何か言わなくては」と思ったけれど、何を言えばいいのかわからなかった。
すると、彼女が小さくつぶやいた。
「消えてしまったの…」
「消えて?」
「ある日、真っ白な服を着た人たちがやってきて、それで…」
「その人たちって、もしかして、白き…夢?」
「そう。白き夢」
間違いない!僕の前に現れたあの僧侶と同じだ!!きっとあの僧侶の仲間に違いない!!
「でも、消えたって?どういうコト?」
「消えてしまったの。ある日突然、私の目の前からポッと。消えてしまったの…」
「それって死んでしまったってコト?」
「わからない…死んじゃったのかも。そうじゃないのかも。わからない。わからないけど、消えちゃったの…」
ー14ー
それから、女性は毛布をかぶったまま出てこようとはしなかった。
僕はどうすればいいのかわからなかったが、とりあえず食事の準備を始めた。あの時のお礼にとシチューを作ってあげるコトにした。そこら辺に置いてあったありあわせの材料で作ったお肉も入っていないシチューだったけれど、それなりに上手く作れたと思う。
ずっと毛布をかぶったままだった彼女も、きっとお腹が空いていたのだろう。できあがったシチューの匂いを嗅ぐと布団から顔を出した。そして、一緒にテーブルにつくと僕の作ったシチューを食べ始めた。しかも、不格好なそのシチューを「おいしい」と言ってくれた。
僕はひとりぼっちだったし、彼女もひとりぼっちだった。だから勇気を振りしぼってきいてみた。
「あの…」
「何?」
「よかったら、一緒に行きますか?」
「どこへ?」
「『どこへ』ってわけじゃないんだけど…旅へ。出かけませんか?とりあえずは『無気力生物たちの街』へ」
「ウ~ン…」と、女性は返事をしかねている。僕は続ける。
「1人じゃ、何かと大変だろうし。1人は寂しいし」
「今は…」
「ン?」
「今はまだ…」
「まだ?」
「でも、いつかきっと、この状態からも立ち直れる日が来るでしょうから。そうしたら…そうして、再びあなたと出会ったならば、その時には…」
「ハイ。そうですね」と、僕は答えた。
ー15ー
僕は小屋を後にした。かつて死に行く詩人が住んでいた小屋を。
でも、まさか死に行く詩人がほんとうに死んでしまうなんて…あるいは死んでしまったわけではないのかも知れないけれど、消えてしまうだなんて。
それに『白き夢』彼らは何者なのだろうか?
どこから来てどこへ行くのか?何が目的なんだろう?人々をこの世界から消してしまうコト?消してしまうって何?
それから何日か歩いて僕は『無気力生物たちの街』へと到着した。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。