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「僕の改革 世界の改革」 第32夜(第5幕 11 ~ 15)

ー11ー

それから、公園住む他の住人たちにも声をかけて回ったが、答えは同じだった。
皆、口をそろえて「今のままでいい。無理して働く必要などない」と言うのだ。彼らには、根本的に『働く意思』というものが欠けていた。多分、遠い昔には存在していたのだろうが、いつの間にか失ってしまったのだろう。

「司令官。ムダですよ、この人たちは。我々も何度か同じように声をかけてみましたが、結果は変わりませんでした」と、部下の1人が進言してくる。
「なんとかならないものかな?」と、僕は訪ねてみる。
「働く気があるなら、とうの昔にそうしています。その気がある者は、ここにはもう残ってはいませんよ」
「彼らも無気力生物の一種なのだろうか…」
「でしょうね」
「でも、どこか…どこか違っているように思えるのだが」
「そうでしょうか?私には同じように見えますが」
「そうだろうか…ほんとうにそうなのだろうか…」

彼らは、ほんとうに生きるコトをあきらめた者たちなのだろうか?
僕には、むしろ彼らの方が生きるコトに執着しているように思えた。ただ単に懸命に働いている人々よりも、よほどたくましく映るのだった。

どこかに決定的な見落としがあるような気がした。でも、それがなんなのかわからない。わからないままに、僕は進む。生き続ける。
ここで生活している人たちは、僕が見落としているその『何か』を知っているのだろうか?


ー12ー

僕らは、次に河原へと向かった。
川沿いに青い屋根の小屋がズラリと並んで立っている。

ここにも、たくさんのホームレスの人たちが住んでいたが、そこの住人たちはもう少しマシな生活をしていた。どこからか拾ってきた木材やトタンなどの廃材で小屋を建て、雨風はしのげる環境で暮らしている。
河原は畑と化しており、住人たちがジャガイモやニンジンなどの作物を植え育てている。
そこに住む人々は川でエビや魚を釣り、拾ってきた料理道具を使い、自分たちで育てた作物と一緒に調理する。包丁・まな板・鍋・カセット式ガスコンロ…と一通りの物はそろっているようだ。


ー13ー

僕らは、ここでもホームレスの人たちを説得したがダメだった(もっとも、自分たちで小屋まで建ててしまっている彼らのコトを『ホームレス』と呼ぶのもどうかと思うが…)
彼らは、ここで自由に生きているのが好きなのだ。必要最低限の食事を確保し、あとは好きに暮らす。寝ている者。本やマンガを読んでいる者。どこで手に入れてくるのか、酒を飲んでいる者やタバコを吸っている者たちもいた。
「たくましいな…」と思った。
果たして彼らは生きるコトをあきらめているだろうか?
僕にはそうは見えなかった。むしろ、生きるコトに執着し、輝いてさえ見えた。
そんな彼らがちょっとばかりうらやましくも思えた。


ー14ー

「司令官、だからムダですよ」
部下がそう声をかけてくる。
「あいつらは我々とは別の人種、別の生き物なのですから」
「そうかな?私にはそうは見えないが」
「そうですよ。だって、あいつらには働く気のカケラもないじゃないですか」
「そうかも知れん。そうかも知れんが…だからといって、別の生き物というのは極端だな。彼らも立派な人間さ。もしかしたら、我々よりもずっと賢く生きている人間なのかも知れないぞ」
「だとしても、それは賢さではなくズル賢さですね」
「ハハハ…うまいコトを言うな。だが、それも人が生きていく上での知恵であり、進化の過程の1つなのかも知れないな」
「そうでしょうか…コレは退化ですよ。どう見たって」
「世の中は少し効率が悪くなり過ぎた。ムダな物を作り、ムダな物を販売し、ムダな物を流通させる…そんな世の中だ。彼らの生き方は質素だが、そこにこそ答えが隠されているのかも知れない。私には、そんな気がするのだが」
「それにしても、司令官自らがこんな場所に出向かなくても構わないではありませんか。他にもやるべきコトは山程あるでしょう。命令をしてくださいよ、我々に…」
「そうだな。では、帰るとするか」
そう言いつつも僕にとっては充分に収穫があった。
世の中に反発する人々の姿を直にこの目で見て確認するコトができたからだ。
だが、それは貴重な経験とはなったが、同時に大きな疑問の種ともなっていくのだった。


ー15ー

その後、意外な人物が僕の元を訪れた。
シノザキ博士だった。

「ひさしぶりじゃのう」
シノザキ博士は何の前触れもなく、突然、僕の部屋を訪ねてきて、あの頃と変わらぬ表情でそう言った。本当にひさしぶりだった。アレから何年経っただろうか?
でも、感覚的には、最後に会ったのがほんの数日前であるような気もした。僕の記憶の中でのシノザキ博士は、あの日から変わっていないのだ。
リンと最後の別れを告げた日…あの日以来、シノザキ博士とは全く連絡も取らずにいた。物理的な時間はどんどん過ぎていくのに、心の中の時間はいつまでも止まったままのような感じだ。

「本当に、おひさしぶりです」
そう言ってから、僕はまた考える。
こういう関係をなんというのだろうか?何かうまい言葉が見つかりそうな気がするのだが…
単なる友人とは違う。ライバルでもないし、親友というのも違和感がある。

『悪友』『竹馬の友』『戦友…』
そう、戦友だ!!僕とシノザキ博士とは年齢は離れていたが、共に戦った戦友のような感じがした。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。