ヘイヨーさんの誕生
あの人の結婚を知り、青年は失意のドン底に落ちてしまいます。
そうして、長い月日、無為な時間を過ごしてしまいました。誰とも連絡を取らず、ボ~ッとしてばかりいて、生きているのか死んでいるのかさえわからない状態で。
それと前後して、自分自身に新しい名前をつけました。
「大西平洋(おおにしへいよう)」と。
「この人生が波瀾万丈に富んでいるのは、名前のせいなのではないだろうか?」と考えたからです。
だから、「海みたいに広い心を持っていて、何事にも動じず、よいモノも悪いモノも全部全部、海の中に溶かしてしまおう」という意味を込めた名前にしました。
太平洋と大西洋をくっつけた名前です。これには、自分でも「上手い名前を考えたな」と思いました。
ありそうでなさそうで、個性もあって。姓名判断でも運勢のいい名前(姓名判断は、旧字体で「さんずい」を4画と数えます)
そうして、自分のコトを「ヘイヨーさん」と呼ぶようになりました。
どれほどの時間が過ぎたでしょうか?
ヘイヨーさんも、ようやく立ち直り、また少しずつ小説も書けるようになってきました。
相変わらず長い作品を書くのは苦手でしたが、いつまでもそんなコトを言ってはいられません。なにしろ「世界最高の作家」を目指しているのです。
「究極の作家」の定義がどういうモノかはわかりませんでしたが、少なくとも長編小説の2本や3本、サラサラ~のサラ~ッと書いてみせなければならないコトだけは確かでしょう。
それと、少年時代から夢見ていた「究極の作家」は「読んでいる読者を震撼させる」というものでもありました。
「読者を驚かせたり、喜ばせたり、悲しませたり、笑わせたり、感動させたり、涙させたりしながら、長尺のモノも書けなければならない。これは結構、やっかいな条件だぞ…」と、ヘイヨーさんは考えます。
具体的に、それがどういう形になるのかはわかりませんでしたが、漠然としたイメージ自体はつかめつつありました。
そこで、練習がてら1本の長編小説を書き始めます。