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「悪魔はマフィアの首領(ドン)のごとく」「シノハラさんによる講演会」

そもそも青年が発した「一緒に世界を変えよう!」というセリフ自体、非常にあいまいなものでした。

その時点で何か具体的な策があったわけではなく、「やってる内にどうにかなるだろう。なにしろ『世界で一番大切な人』が側にいて信じてくれているのだから」といった程度のもの。完全に見切り発車だったのです。

たとえば、結婚ってそういうものじゃないですか?

何十年も先の未来を見通して結婚生活を始めるわけじゃなくて、「この人と一緒なら、どんな困難があろうとも乗り越えていけるだろう!」と思えるから、夫婦になるわけでしょ?

この時の青年が始めたコトは、それに近いものがありました。だから、このまま何年もこの活動を続けていれば、いずれ日の目を見て、社会的成功をしていた可能性だってあったんです。それも、かなりの高確率で!

ただし、それをあの人とふたりでやっていればね。でも、ここに浜田君という3人目が加わってしまいました。それすら、青年が自ら招いてしまったコトなのです。

青年自身、そこに苦しみます。浜田君が協力的でいてくれればいいけれど、何もしないばかりか邪魔ばかりするようになっていたからです。「こんな企画うまくはいかない!」「ここが駄目!あそこが駄目!」と文句ばかり言うのです。

さらに言えば、横からチャチャを入れて、あの人と仲良くしようとします!

でも、自分から呼び寄せてしまったために邪険に扱うわけにもいきません。青年は、浜田君のコトをどう扱っていいのか段々わからなくなってきました。


少年時代より心の世界に抱き続けてきた「伝説の悪魔マディリス」のイメージ。それは「敵に対しては異様に厳しいけれど、味方にはとことん甘い」というものでした。

「悪魔」という言葉からは連想しづらいかもしれませんが、信じてくれる者に対しては、できる限りのコトをやり、とことん尽くそうとします。時に、その命さえも投げ出して!

近い存在としては「ヤクザやマフィアの首領(ドン)」といった感じでしょうか?アル・カポネのような。

忠誠を誓ったファミリーに対しては、最大限の加護を与え、全力で守ろうとする。代わりに敵には容赦がない。特に裏切者は微塵の情けもかけずに抹殺する。そのようなタイプ。

もちろん、現代社会において実際に血みどろの戦いを演じるわけではありませんけどね。あくまで、心情や態度のコトです。

そのような存在に憧れていた少年は、年を重ね、自分が夢見た者へと段々と近づいていきます。そして、少年は青年となり、21歳の段階で部分的にとはいえ「心の世界に描いた理想の存在である伝説の悪魔」と融合していたのでした。

そんな青年からすると、浜田君の裏切りは許せるものではありません。けれども、同時に「ファミリーの一員である」という心理も働いています。この矛盾に苦しみ、対処方法が見出せずにいたのです。

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残酷にも時は刻々と過ぎていきます。

青年が悩み、迷い、疲弊し、精神的なダメージを回復できずにいる間も、自らが立てた企画は着々と進行し、ついにイベント当日となりました。

今回、「世界を変える戦い」で、青年が立てて実行した企画はいくつもありましたが、その中で特に大きかったものは2つ。

1つは「あのセミナー講師のシノハラさんを呼んで、講演会をしてもらう」というもの。もう1つは「ボランティアの集い」という関東在住のボランティア団体のメンバーを集めた交流会でした。

1つ目の「シノハラさんの講演会」が始まります。会場は何十人もの人でいっぱいです。青年は、成人式の時に使ったスーツに身を包み、いつもとは全く違った雰囲気で場に望みました。

あの人も、キラキラした瞳でこちらを眺めています。その姿が、青年の目にも入ります。それだけでも「あ~、やってよかったな!」と思いました。


でも、これって何かおかしくないですか?

集めたのはボランティアに参加したい人たちばかりなのに、やってきたのはセミナー講師?

確かに「ナポレオン・ヒル」「人生の成功術」「起業」のお話は、人々をやる気にさせるでしょう。でも、シノハラさんの目的は「絵を売ること」なのです。

決定的に何かが食い違っていました。そして、その「決定的な何か」は大きな問題を引き起こします。

青年としては「世界を変える」ためなら、なんでもよかったのです。自らが企画を立て、実行し、それをあの人が横から支え、キラキラした瞳でジッと眺めながら信じてくれる。その状況さえあれば、なんでもよかったんです!

あるいは、あの人自身、そのような状況に酔っていたのかもしれません。バレンタインの日に彼女が言っていた「宗教団体の教祖とそれを支える一番の信者」に非常に近い関係を現実のものとしていたからです。

でも、世間の人たちはそうは考えませんでした。よって、青年は粛清されます。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。