「僕の改革 世界の改革」 第14夜(第2幕 21 ~ 24)
ー21ー
そうして、僕らは、やる気じいさんの元を去った。もちろん、僕らの連絡先を書いた名刺を残して。
でも、やる気じいさんは仲間になってくれるかどうかは微妙なところだった。じいさんは名刺を渡した際に、あまりいい顔はしなかったからだ。
でも、じいさんは、こうも言ってくれた。
「ワシにはこの化石たちが待っておる。それに、ここでこうして化石を掘っておる方がワシには似合っとるような気がするんじゃ。ただ、なんらかの力にはなりたいんじゃがのう…」
帰り道、学生服君が言った。
「オイラ、もう一度やり直してみようかな…ワガママばかり言わずに」
そして、リンが言った。
「さあ!やる気が出たところで、次に行きましょう!これから、まだまだ、ああいった人たちに出会えるわよ。そうしたら、この世界を救う方法も見つかるわよ。きっと!」
僕も同じ気持ちだった。
ー22ー
それからも、僕らはやる気を充実している人たちに出会っていった。
彼らに共通していたのは、やはり『なんらかの目的』を持っていることだった。
人生を生きていくための理由のようなものを…
そうして、彼らの中から、我々の軍隊に入ってくれる人たちも少しずつだが出てくるようになった。
そんな、ある日…
「隊長さん。手紙が来てますよ」
大木さんがそう言って渡してくれたのは、あの化石掘りの『やる気じいさん』からの手紙だった。
僕はさっそく封を切った。
手紙には、こんな風に書いてあった。
残念ながら、ワシはやはりここから離れるわけにはいかんのじゃ。
じゃが、代わりと言ってはなんじゃが、ワシの親友を紹介する。なかなかに優秀なヤツなので、必ず役に立つと思う。
ただ、性格に多少問題があるので、機嫌を損ねぬように気をつけるコトじゃな。
それでは、元気でのう。
ー23ー
トルルル…トルルル…
内線で電話が入ってくる。
僕が手紙を読み終えるのとほぼ同時だった。
「隊長さん、本部から連絡が入ってますけど」
大木さんにそう言われて、僕は受話器を取る。
受話器の向こうで、女の人がこう言った。
「こちら本部受付ですけれど。こちらにお客様がいらしてまして…」
「では、こちらの場所を伝えてください」と、僕は自分の基地に来てもらうように頼む。
「ハイ…それが、お伝えしたのですが、『疲れて、これ以上1歩も歩くのはイヤだ』とおっしゃられているもので。できれば、至急こちらにおこしいただきたいのですが…」
「わかりました。すぐにそちらに伺います。ちなみにどなたですか?」
「ハイ、白髪のご老人で。シノザキ博士とおっしゃる方です」
誰だろう?もしかして『やる気じいさんの親友』って、この人かな?
そんな風に考えながら、僕は本部ビルへ向かった。
ー24ー
本部ビルに到着し、受付でお客さんの居場所を訪ねる。
案内された部屋には、頭のてっぺんが禿げ上がった白髪のおじいさんが座っている。どこか化石掘りのおじいさんに似た雰囲気がある。
この年代のやる気を持ったおじいさんというのは、皆、似たような感じを受けるのかも知れない。
おじいさんは、僕が来るまで話し相手をしていた女性の隊員に文句を言っている。
「これは、どこの茶かの?あんまりうまくないのう。ワシはうまい茶がなければ、やる気が起きんのじゃがのう」
「はい、そうですね。でも、ウチはみんなこのお茶なんですけど」
「いかん!いかんなあ!人間、飲み食いが命じゃ。飲むモノ、食べるモノ、体に入るモノに関心なくしてしまってはいかん!そんなコトじゃから、やる気もなくなるんじゃ。ワシがいい茶を紹介してやるから、今度からそれにしなさい!」
「話しかけては悪いかな?」とも思ったけど、そんなわけにもいかないので、思い切って声をかける。
「こんにちは」
「それじゃあ、私はこれで…」
僕があいさつをすると、女性の隊員はそそくさと去っていってしまった。
「お前さんかのう。ヤツの知り合いというのは」
「化石掘りのおじいさんのお友達の方ですね」
「友達?あいつがそう言ったのか?」
「ええ、渡された手紙にそう書いてありましたけど…違うんですか」
「あいつがそう言うのなら、そうなんじゃだろう」
「そうなんじゃろ、って…」
「そんなコトはどうでもええ。それより、ワシの仕事じゃが…」
「ええっと…シノザキ博士でしたっけ?『博士』っていうからには、何か研究をなさっているんでしょうか?」
「ああ、そうじゃ。『深層心理』について研究しておる」
「深層心理?」
「そうじゃ。最近、多くの者達がやる気を失っていると聞いてのう。ワシも、独自に研究を進めておったところじゃ。それで、この話じゃろう。こりゃ、うってつけじゃと思うてな」
「そうですね、ここは無気力生物に対抗する組織ですからね」
「まさか、こんな場所が存在しておるとはなぁ…」
「報酬はありませんけど、構いませんか?住むところと食べる物くらいは支給されますが」
「報酬?そんなものこの研究が成功すれば、いくらでも入ってくるじゃろう。お前さんはそんなコトを心配せんでいい!」
「ハア…そうですか」
「確かに、あいつが言った通り、お前さんなら信用できそうじゃ」
「信用…できそうですか?」
「このくらい年を取り、いろいろと経験をして来れば、一目見てその人間が信用できるかどうかは判断できるようになるものじゃ」
「そんなものですかね」
「若者よ。これは大切なコトじゃぞ!こういうのは一種の才能じゃ。人の信用を勝ち得ると言うのは、並み大抵のコトではない。努力だけでどうこうなるものでもなかったりするものじゃ。人に好かれるというのは、よいことじゃ。若い頃から大勢の人間に好かれておれ。それが、やがてお前さんの財産になるじゃろう。どのような人生を歩むコトになろうともじゃ」
こうして、研究者としてシノザキ博士が新しく組織に入ってきた。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。