春のまだ少し寒い日のこと
脈打ち 脈打ち 脈打つ 心臓
侵され 冒され 透けゆく 私は
春も近づき暖かくなっている頃だった。気がつけば体か震えていた私は、それを昨晩に夜更かしするために飲んだインスタントコーヒーのせいにした。
スケッチブックに廉価な二次創作のキャラクターをかき上げる。震えは止まらない。気がつけば、スケッチの上はぐちゃぐちゃになっていた。
まるで氷でできたかのような心臓は、いつになったら溶けて初めからなかったとわかるんだろう。
寒さを感じないほどに外の世界と隔絶してしまった私の自我は、悪しき隣人である肉体の奴隷労働を通してのみ世界を見る。もっとも、その自我は外の世界なんぞ信じちゃあいないし、そんなことより己の脳髄の脈拍を数えるのに執心らしいが。
ふと見える窓の外の景色は、世界を象るものとしては木端の価値しか持ち合わせておらず、興味なくカーテンを閉めた。もっと狭い箱庭の世界を駆け回った方が生産的だと。ただ、いくら効率がよくともアキレスと亀の如き輪廻する数直線のパラドックスに邪魔され、果てに辿り着くことはないのだが。
悪しき隣人は睡魔を訴えた。窓の外の景色も知らず、汚れた部屋を己の三千世界として空っぽの今日が終わる。