短編小説付き企業パンフをつくることになったワケ
プロジェクトデザインカンパニーMULTiPLE(マルチプル)代表の平藤(へいとう)です。豊かな自然に囲まれた埼玉県本庄市で大正時代から続く、株式会社小林建設さま(以下、小林建設)の企業パンフレット「小林建設のしごと。」(以下、パンフレット)をリニューアルさせていただきました。パンフレットに付録として短編集「人と、暮らしと、家」(以下、短編小説)が付いてくるちょっとおかしな(?)仕様になった経緯や制作プロセスをnoteにまとめました。
小林建設は、凡事徹底を企業理念とし、住まい手の暮らしに寄り添う家を、地域の木材でつくられた注文住宅を一軒づつ丁寧につくっている地域に根ざした工務店さんです。初回オリエンでいただいた要件は以下の4つでした。
傾聴でプロジェクトの方針を探る
はじめに、取り掛かったのは、企画提案をする前段階としての調査を3つの手順で進めていきました。
調査1:方向性をすり合わせるワークショップ
要件整理、合意形成、インサイトの抽出を目的としたワークショップを行い、自社の強み・特徴の整理をした後に、既存顧客の整理をしました。
顧客の整理の中では明確なターゲット像として、「ファミリー層」「住み替え層」「新世代層」の3つに棲み分けをすることができました。また、顧客層の特性としては、読書好きな方が多い(自宅にTVがない)、自然がそばにある暮らしを望む、といった傾向を知ることができました。同時に、近年ではインターネットなどの情報収集が得意な新世代層への配慮が必要なことを、ワークショップ参加者が理解することができました。
調査2:インタビューを通した"アーキテクトビルダー"の深堀り
小林建設は、家を建てる「施工」と、家をデザインする「設計」の2つの屋台骨からなり、設計から施工まで一気通貫した家づくりを提供しています。その特徴を「アーキテクトビルダー」という独自の言葉として表現しており、読み手が理解できるように言葉の深掘りを目的としたインタビューを実施しました。対象は設計部に所属する設計士さん(アーキテクト)と、工事部に所属する現場監督さん(ビルダー)へ個別にお仕事の内容や普段業務の中で心がけていることをお聞きしました。
調査3:類似パンフレットの収集
競合分析として、類似企業パンフレットを20社ほど収集しました。取り寄せたパンフレットは構成をスプレッドシートに落とし込み比較・分析しました。
短編小説付き企業パンフになったワケ
実は、受け入れてもらえない提案だと思っていたのですが、結果的に三話の短編小説をパンフレットへ盛り込むことになったワケを振り返ります。
ワケ1:未来の暮らしを想像できる企業パンフが圧倒的に少ない
住宅は高価な買い物であり、永く使い続ける商品です。家族の生活スタイルや、価値観、世の中の変化がある中で、数十年先を見据えた上で"ひとつ"に決断する必要があります。そんな大きな決断を伴う商品にもかかわらず、多くの企業パンフレットで、「こんな家や、あんな家を建てることができる(実績がある)〜」といったポートフォリオ型のパンフレットが多く目にする中で、購入後の未来の暮らしを想像することができない(提案していない)ことに個人的に違和感を抱いていました。そんな中、「どんな家で、どんな暮らしをしたいのか?」を問いかけてくるようなパンフレットが求められているのでは?と思うようになりました。
「レビットのドリルの穴理論(*1)」にあるような顧客思考に沿って自宅購入を考えると、顧客は家を欲しいのではく「理想の暮らし」を求めているのではないでしょうか?そのため「暮らし提案」をすることが差別化につながると考えました。また、モノと情報に溢れている現代だからこそ、コトを強調することが求められていると考えました。必然的に、制作コンセプトも「未来の暮らしを想像できるをパンフレット」としました。
ワケ2:代表事例が3つに集約されていたから
小林建設を象徴する事例がコンパクトに3つにまとめられていたため、事例の間取りや写真を掲載するだけでなく、各々の事例を深堀りする手段として、そこに住んでいる人の物語(フィクション)を伝えることで、読み手が潜在的にもっている未来の暮らしへのヒントや共感が生まれるのではないかと考えました。3つの事例の特徴を以下に記します。
①庭のある家
大きな敷地に広い庭スペースを確保することで畑やガーデニング、芝生を楽しめるような自然を身近に感じられる家。
②土間のある家
内でも、外でもない中間のスペースとして土間を設けることで泥がついた野菜を洗ったり、道具のメンテナンスをしたり、おのずと人が集まってくる家。
③平屋の家
必要なものを必要なだけシンプルに整えた、コンパクトで贅沢な平屋の家。
各事例の住まい手(イメージ)としては、過去実績を基に、①庭のある家→子育てファミリー層、②土間のある家→三世代の暮らし、③平屋の家→夫婦ふたり暮らし、として設定しました。
執筆を担当した、カツセマサヒコさん、藤原佳奈さんには、小林建設のモデルハウスツアーを実施し、家や暮らしのイメージを掴んでもらったうえで、家の間取りを伝え、暮らしのワンシーンをテーマとした短編小説を依頼しました。
ワケ3:チャレンジを受け入れてくれた
今回のちょっとかわった(?)パンフレットの実現には、なにより提案を受け入れていただいた、小林建設代表の小林伸吾さんのご理解があったからこそです。もちろん、複数案(アンパイ含めて)提案しましたが、もっともチャレンジングな提案を受け入れてくださいました。この場を借りして感謝いたします。ありがとうございました。これからも自分の中でボツ案にせず勇気を持って提案しようと思います。
ちなみに、短編小説の元ネタは、2020年にナチュラルローソン(メルカリ)がレジ袋有料化に伴い実施した「いい人の手に渡れ!」でした。当時短編小説をプロモーションに利用した画期的なアイデアがとても印象的でした。その後、この企画はWebメディア「モノガタリ」に昇華されているのでぜひチェックしてくみてください。
制作コンセプトをカタチに
制作コンセプト「未来の暮らしを想像できるパンフレット」を、実現する方法として、イラストと製本を取り上げて振り返ります。
現実と想像のあいだに
パンフレットには、現実(写真)だけでなく、想像(イラスト)の余白を意識した構成としました。特に3つの事例はイラストと短編小説の内容をリンクさせることで、家(モノ)だけでなく暮らし(コト)を訴求できるページ構成としました。各々の事例ページを飾るイラストは、短編小説のワンシーンを再現しています。短編小説を読んだ後に事例を改めて見返すと間取りにも物語が散りばめられていたりするので是非行き来して読んでいただきたいです。
2つの冊子を一体化させた付録製本
情報の性質が異なるため、短編小説と、パンフレット本編の情報と棲み分ける必要があると考えていました。しかし、別紙(別々)にしてしまうと、短編小説と事例の行き来をしにくいため、本編とは異なるサイズでデザインされた付録として糊付け製本として提案しました。
提案は受け入れられましたが、いざ印刷見積を取ると、想定をはるかに上回る印刷費となったため・・、印刷と製本の費用が比較的抑えられた二社に各々発注を分ける方法を選択しました。いまとなればよい思い出ですが、印刷オペレーションと工場へ出向いての製本レクチャーや検品に時間が費やしてしまいました・・笑
資料請求の際、別冊「チルチンびと」小林建設特集2023を同封して発送している〜とお伺いしていたので、製本された、パンフレットのサイズと開きは別冊チルチンびとと同じ仕様でデザインされています。
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小林建設パンフレットリプレイスプロジェクトの振り返りいかがでしたでしょうか?このパンフレットを通して、小林建設とその理念に共感する顧客との出会いの一助になれば嬉しいです。今回制作した小林建設パンフレット「小林建設のしごと。」をご希望の方は数量限定ではありますが、パンフレット請求フォームよりお問い合わせくださいませ。
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