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エッセイ 遠くから聞こえる海のおと(水上洋甫さんと海の詩について)

 三日目、最後は水上洋甫さんです。
 Twitterでは月に1回の「水上声希譚」という投稿スペース企画をしたり

 ポライエ書房というサークルで詩の本を出して、イベント出店をなさっていたり

 岩手県・宮城県を中心に詩や声の活動をなさっている方です。

 クリスマスのお話では小人のラジオを音響効果も含めて作っていただきました。
 私のnoteでは「ねこと殿さま」の朗読をしていただいています。


 突然ですが、私は手帳になんでも書く人間で、12月末ともなるとすごいことになっています。表紙はぼろぼろ、中は文字でびっしりです。
 予定がつまっている、というわけではなく、空いているスペースに限界までなんでもかんでも書いてしまうからで、耳なし芳一みたいというか。具体的には、こういう感じです。

全部何かの引用なため、著作権的な配慮でモザイクをかけています。

 だいたいが、書き物に関するものが多いです。持ち歩く、という手帳の性格上、元気のないときに読む目的のものがほとんど。水上さんの詩もあります。ご本人に許可をいただいたので引用させてもらいましょう。

「友ト」 水上洋甫

何を想い、
これまでどれ程の人が登ったのだろう。

その坂を急いで登る。
昔とは違い、今では女性が多くなった。

何に挑むため、
これまでどれ程の人が降ったのだろう。

その坂をゆっくり登る。
昔とは違い、そこには連れはいなかった。

どれも時が成したこと。
あれから変わったということ。
それは歩んでいるということ。
変わることができるということ。

追い越し坂の次の坂を、

私たちは共に登っている。
ゆっくりと。

「詩集 雫ノ光」 水上洋甫 2017.6  ポライエ書房

 私はそこそこ昔から文章(あるいは演じられるもの)を人目に晒す機会があった人間なので、文章の書き手個人に対する他人の推測が、いかに的を外していくものかをよく知っています。だから、書き手に関する感想ではなく、あくまで私個人に照らし合わせた感想しか持ちません。持ち得ないというか。

 そこを含めていただいて申しますに、ごく小さい頃から、やりたいこと(書きたいことというか)なんて持っていると、仲間がどんどんいなくなってしまうものなんです。
『サッカー選手になる!』っていう小学生が、高校になってもまだサッカーをやっているとは限らない。ましてや、大人になって、プロになる。いや、プロになれなくてもなお続けているとは限りません。正直、続けない人のほうが圧倒的に多い。

「継続は力なり」なんていうと聞こえはいいんですが、なまじ根気があるせいで『気がつくとひとりぼっち』なケースが多いです。止めることは全然悪いことではないんです。人は変わるもので、むしろどんどん自分の坂を見つけていくものです。大事なのは坂を登りつつけることではなく、登る人が幸福か、あるいは坂が幸福につながる道かどうかです。絶対にそれは断言できる。

 残念ながら私は素早く登る脚力も、道を変える軽やかさも持っておらず、愚鈍に道の端っこを登り続ける人間で、それだけいろんな人に追い越されたり、別れたりしてきているんですが、どこかで誰かも坂を登っている。そう思うだけでね、勇気が出るんです。坂、変えたっていいわけですし。それに、似たようでいて、私の坂も確かに変わっていっているとも思います。


 ところで、さっきのモザイク画像の左端のちょっと上、寺山修司の「少女の海」が書いてあります。海に関する文章を集めるのが好きなんです。

 もともと、水上さんの詩集を購入したのも、海に関する詩集であるとタイトルから判断されたからで、「詩集 ナキスナ」から海の詩を一個引用させていただきましょう。


「ナキスナⅡ」 水上洋甫

焼き過ぎた
マシュマロのような仮堤防を背に
笑った顔文字を
拾った枝で砂場に描く
波がさらってしまった
砂ごとさらってしまった
それから新しい何を描く
やっぱり笑った顔文字を
波が寄せては返す

「詩集 ナキスナ」水上洋甫 2018.6  ポライエ書房

 これは東北の海。震災の影響を受けた海です。寺山修司の空想の少女の海とは違います。手帳に「少女の海」を書きつけておいてなんなんですが、私は美しい文章に酔うためではなく、現実世界の明日に、また立ち向かう力をもらうために詩や小説を読む人間なんです。そういうものが書きたいな、と思ってもいます。

 引用の右端に出版年月を書いたら、ふたつとも6月ですね。多分文学フリマ岩手に出してるからだと思います。来年も、出店されるそうです。楽しみですね。

 年末の慌ただしい時期にお付き合いくださり、どうもありがとうございました。一番数が多くて、締め切りもぎりぎりで、だいぶご迷惑をかけたかと思います。お疲れ様です。

 どうぞ、よいお年をお迎えください!

エッセイ No.022