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エッセイ 南部せんべいを食べ比べる(盛岡旅行記その2)

 漫画Dr.スランプに「則巻千兵衛」(のりまきせんべい)と言う名前のキャラクター(アラレちゃんを作った博士です)がいて、これが「海苔巻きせんべい」のもじりだとは分かっていたものの、「海苔巻き煎餅」自体が東海の辺境民たる自分には珍しいお菓子でした。

 この漫画には時々名古屋弁が登場して、どうも鳥山明は愛知県民らしい、とは思っていたものの、幼い私には「海苔巻き煎餅」は東京のお菓子で、せんべい、といったらごまの入った(海苔のない)丸い醤油せんべいのことでした。
 しかもそれは対外的な話で、実際のところ一番食べているのはえびせんべいです。本当に、間違いなく。全国的に認識があるかは分かりませんが、えびせんべいには贈答用のえびたっぷりなものと、普段使いのほぼ澱粉でできているものがあります。安いものでも更に割れがあったり、大袋に入ったりしたものがあり、それをおやつとしてこたつに入りながらバリバリ食べるのが私にとっての「せんべい」でした。

 成人して会社でお土産をもらうようになり、初めて千葉土産の「ピーナッツせんべい」なるものを食べました。そして、思ったのです。『しょっぱくないな』と。どうしてこのお菓子は醤油味じゃなくても『せんべい』と名乗るんだろうと。

 岩手の「南部せんべい」を食べたきっかけも会社のお土産であったと思います。やっぱり思いました。「しょっぱくない」と。

 昨年末に 昨年の12月に盛岡を舞台にしたおはなしを書きまして、「スキ」を押すと東北にゆかりのあるお菓子の写真が日替わりで出る仕組みになっていました。土曜日は毎週南部せんべい。というわけで随分南部せんべいを食べました。

「盛岡せんべい店」さんの「落花生(甘味)」

 南部せんべい、というのは多分こういうのがオーソドックスだと思われます。薄くて、パリッとしていて、ピーナッツとかが練り込んである。定義をWikipediaさんにお願いしましょう。

概要
小麦粉を水で練って円形の型に入れて堅く焼いて作られる。縁に「みみ」と呼ばれる薄くカリッとした部分があるのが特徴。保存性は非常によいが、時間が経過すると酸化により味が落ちる。個包装の商品も存在するが、通常は10 - 20枚程度を1つの袋に入れた簡素なものが多い。青森、岩手の旧南部氏支配地域においては非常にポピュラーな食べ物であり、来客にも供される。

Wikipediaより「南部煎餅」

 小麦粉でできているんですね。なるほど。味のバリエーションはどうでしょう。

種類
通常の「白せんべい」と呼ばれるものの他にゴマ、クルミ、落花生などを加えて焼いたものもある。また同じ材料で厚めに焼き、食感を柔らかく仕上げた「てんぽせんべい」がある。

Wikipediaより「南部煎餅」

 あ。必ずしもピーナッツが入っているわけじゃないんだ……(多分ピーナッツせんべいの延長で考えていました)。私が初めて食べた南部せんべいもピーナッツが入っていた記憶があります。千葉のせんべいの印象が先にあったため、「ピーナッツが砕いた状態で練り込んである」ことを新鮮に感じたんですよね。

袋から出したところ

 ここのお店では他に抹茶味のもいただいています。

「抹茶せんべい」写真を撮る前に少し開けてしまっています

 こちらもピーナッツが練り込んでありますね。盛岡ではクルミのお菓子もたくさん見たので、ナッツ類が好きな土地柄なんだと思います。味はしっかり抹茶。さっきののより分厚いです。食感はさっくりとしています。どうも南部せんべいには薄くてパリッとしたものと、厚めでさっくりしたものがあるらしい。

「白沢せんべい」さんの「丸粒ピーナッツ」

 これは「白沢せんべい」さんの「丸粒ピーナッツ」。パッケージの右上に「クッキータイプ」の文字があります。そう。分かりやすい。分厚い方はクッキーみたいなんです。サブレのような軽い感じではなく、少ししっとりした、ぼってりした食感です。

 「ピーナッツが粒のまま入っている」という所で厚みも想像しやすいかと思います。南部せんべいはせんべいの表面に焼き型の模様があって、この模様がお店ごとに違うんですよ。意匠の見せ所なんだろうなあ。ひっくり返してみましょうか。

 文字が綺麗に出ています。お米で作る手焼き煎餅ではやりにくい装飾ですよね。裏側にもちゃんと装飾を施すの、お店の粋を感じます。

 白沢せんべいさんは観光を意識した大きなお店に買いに伺ったので、変わり味のものがたくさんありました。これはコーヒー味。

 これはこのまま裏返して成分表示を見てみましょう。よっこいしょ。

コーヒーが豆のまま練り込まれているんです。食べてびっくりしました。「コーヒー味」だから、コーヒーの液体、もしくは粉末が入っているものだとすぐ思い込んでしまう。「クルミパウダー」も入っていて、南部せんべいって、香ばしさとナッツ類の旨味を食べるものなのかなあと思います。

 これも変わりせんべい。「チーズ」。

 この黄色いチーズ、なんだか懐かしい。(チーズとアーモンドがのっているおせんべいのチーズってこういうのじゃありません?)
 これも作りが面白いのでちょっと開けてみましょう。


 分かります? せんべいの上にチーズがのっけてあるのではなく、凹みにチーズがはめ込んであるんです。落ちにくいし、たっぷりのりますね。これはこういう風に何かを嵌め込む専用の型なんでしょうか。見えないのに「南部煎餅」の文字が焼き込んであるのが洒落ています。(そしてあくまでナッツも練り込んである)

 代わりせんべいといえば、こういうおせんべいもありました。

「南部せんべい乃巖手屋」さんの「ひきわり納豆せんべ」

 納豆……。いや、大豆もある意味ナッツかもしれない(※ビーンズです)。

 あけるとかすかに納豆が香ります。少し粘る……ような気がする。こういう変化球を食べると「南部せんべい」として認識されるのに外してはいけない点はなんなのか、が少しわかるような気がします。パリッとして(クッキータイプを除く)、薄味で、ナッツの香ばしさや歯応えがある。歯応えは結構大事そう。他のお煎餅もそうですもんね。

 ちなみに、盛岡では、えびせんべいならぬ「いかせんべい」も発見しています。地元にもあるぞ、いかせんべい! 海鮮を練り込んだせんべいなら負けぬ!(なんの勝負なんでしょう)

こちらは盛岡ではなく宮古の名物だそうです

 あ! 思ったのと違う!

 南部せんべいタイプ…。(私の地元の「いかせんべい」は、イカを丸ごと、あるいはすりつぶして澱粉と混ぜ、鉄板で押し付けてやいたものです。お米で作るせんべいと似た食感・見た目になります「)。少し硬いけど、パリッとしていて、ちゃんとイカの味がしました。

 こんなおせんべいもありましたよ。


「佐々木製菓」さんの「亀の子せんべい」一関の会社です

 亀の子……?

黒……?

ひっくり返しました。

 黒くない!
 このおせんべいは、上の部分に甘いごまのペーストがかかっています。とてもいい香り。そういえばごま餡のお菓子も食べたなあ。ナッツ類の使い方が本当に上手な地域です。せんべい部分は南部せんべいよりも少しだけ厚くて硬め。瓦せんべいのような食感です。うん? 瓦煎餅?

 そういえば「瓦せんべい」って関西のお菓子ですよね。

 冒頭で、「おせんべいが甘くてびっくりした」というお話をしましたが、盛岡でひたすらせんべいを食べている時、「東北は甘いせんべい文化圏なんだな」と思っていたんです。「北が甘くて、南がしょっぱいのだ」って。
 でもよく考えたら、関西は結構甘いおせんべいがある気がする。京都の八橋(生じゃない方)も甘いおせんべいですもんね。

 調べていたらネットでこんな記事も発見しました。

 関西と関東で「おせんべい」と称するものに違いがある、という指摘です。関東はお米やうるち米を使ったもの、関西では小麦粉を使用したおせんべいもある、という解説があります。材料は確かに関係がありそう。小麦粉のおせんべいは甘いものが多い気がします。

 せんべいの種類についてまとめておいでのおせんべい屋さんもありました。

 ちゃんと「えびせんべい」の解説もあります。このまとめだと全部で13種類。単に「せんべいを食べた」と言った場合、聞いた相手の住んでいる場所や好みによって思い浮かべる可能性のある「せんべい」にこれだけ可能性と幅(甘いのもしょっぱいのもバリッとしたのもベッタリしたのも)があるだなんてなかなかすごいお菓子だと思います。奥が深い。日本国内だけでも食文化は地域によって本当に違うんだな、と思い知らされます。

……え? それでも「せんべい」で普通「えびせんべい」は思い浮かべない?(そんなことないもん)

エッセイ No.102

※この「盛岡旅行記」はあと1回(来週に載せます)続きます!

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