腐京 人形 おはよう プロローグ
2027年
〈第5回 地球会議〉にて地球上に点在するニンゲンたちの文明に、一つの終わりが突きつけられた。
地球で暮らすイス人およびミ=ゴのコミュニティによる地球再生プラン『ゾンビの再文明化』が採決された。
これによりゾンビの排除が不可能となり、人類の大部分が国を失い、住処を失い、離散を選ばざるを得なくなった。
ことの発端は2019年。
ニンゲンのある一団によって、地球の大規模呪詛〈セカイのウラミ〉が殺害された。
それにともない地球上に魔力の源の一つである〈許さないチカラ〉が大量に放出。
〈許さないチカラ〉は〈セカイのウラミ〉を殺害したニンゲンをゾンビへと変質させていった。
いわゆる〈2019ゾンビパンデミック〉は、世界経済、各国の政治体制、人々の生活基盤などに大きなダメージを与え……
以下の出来事を発生させた。
●ポスト・トゥルースと呼ばれた気狂い沙汰の悪化
●ニンゲンの内部で起きた人種差別と対立の深刻化
●ディープワン、ミ=ゴ、ヘビ人、エルフ、ゴブリン、チョーチョー人といったニンゲンとは異なる生命体たちとニンゲンたちの大規模な衝突、その激化
ゾンビが闊歩する地上は、もはや地獄のような様相を呈していたが、事態はそれだけではすまなかった……
ナチズム、帝国主義の復活。
そして、戦争が起きた。
これらの出来事は"外宇宙"で暮らすドワーフやオーガ、グール、イス人といった生命体たちの、ニンゲンに対する失望と深刻な不信を巻き起こした。
このネガティブな反応は、『天の川銀河』のみならず、隣の『アンドロメダ銀河』、隣接する『おとめ座銀河団』内部の銀河 (『M87』など) にてニンゲンに対する大規模な抗議運動へと発展。
この宇宙を統べる〈宇宙連合〉は、天の川銀河を管轄する〈天の川銀河連合〉に事態の鎮圧を指示。
〈天の川銀河連合〉は、ニンゲン以外の生命体の保護を目的にかかげ、連合軍を派遣した。
地球はあっという間に武力制圧され、天の川銀河連合による占領下(※)に入った。
※ニンゲンの国や〈クン=ヤン〉といった〈地下国家〉などの各国政府を通じた関節統治。ゾンビ禍を生きのびたニンゲンの国々は、主権の一部を制限された状態ではあったものの政府そのものは存続していた。
占領下の地球では、ニンゲンの活動をどう阻害していくかが入念に話されていた。
一部の生命体コミュニティ、特にイス人やミ=ゴのコミュニティは魔法技術とナノマシン技術をもちいた『ゾンビの再文明化』を考案し、これを地球全体に提言。
もちろんニンゲンたちは反発したが、その反発をよそに地球に暮らす生命体たちが集まった国際会議『地球会議』にて、この提言が真剣に議論され……
最終的に2027年におこなわれた〈第5回 地球会議〉にて、『ゾンビの再文明化』が決定。
会議終了後、ニンゲンを除いた地球の生命体コミュニティはこの計画を実行した。
地をさまようゾンビたちは、徐々にニンゲンの頃の記憶と集住/社会化の本能を取り戻していった。
こうして地球上に〈ゾンビ文明〉が誕生。
代わりにニンゲンの文明全体は衰退を余儀なくされ……USAや一部のヨーロッパの国といった国々、アメリカ西海岸から浮揚した天上都市国家『クラリス合衆国』、フランスやドイツから地底へと潜りこんだ地底都市国家(マントル移動型)『マリアンヌ共和国』だけが時代の荒波に抗いながら、しぶとく生きのびることに成功した。
(この世界においてUKやMCR(マサチューセッツ/コネチカット/ロードアイランド連合国 略称 MCR)、天西などの禍悪好国家は、ニンゲンの国家とみなされることはない)
2220年
ゾンビパンデミックからちょうど200年後のこと。
ゾンビ文明の中で拡大し続ける勢力がいた。
その名を〈人形〉
クラリスで作られた人工生命体である彼らは、ニンゲンの代わりに戦う兵器、安価な労働力として作られたが……そうなることを拒絶。
自由を求めゾンビたちが住む地上へと落ちのび、100年以上の年月をかけながら生命体コミュニティとして定着していた。
彼らは、この地球に……
ある一つの目覚めをもたらしつつあった。