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シーン10
推奨楽曲
Funkadelic
《Nappy Dugout》
収録アルバム
Funkadelic
《Cosmic Slop》
no name (2)
「音楽のジャンルというのは知っています」
4人の人形たちは「なんだよ、驚かせんなよ……」と言いたげな顔をして、ホッと一息。
no name (2)
「しかし、あなた方はファンクという単語にさまざまな意味をこめています。その意味を教えてくれますか?」
アヤノはわけ知り顔でこう言った。
<虜> アヤノ[綾乃]
「ハルカが言っていたけど、やっぱりこの子は将来、有望かもしれない」
<狼> シュウヤ[修也]
「うむ、まちがいない。初回で、この質問をできるヤツはいなかった。いいね、誰が言う? ファンクとは?」
どーぞ、どーぞ、と言わんばかりにまわりの人形がシュウヤに手のひらをむける。
シュウヤは え、オレ? と言いたげな顔をしてから、気をとりなおして
<狼> シュウヤ[修也]
「そうさな……ファンクとは反抗のための反抗とはならないもの。
リズムがクソなら命取り、よって技術がいる。下手こくヤツは容赦なくブーイングを受けて、練習をくり返し、場数をこなして、やがてはのびていく。気がつけば絶妙な粘り気をもった、タフなヤツにさま変わり。
ファンクとは、その過程をさす言葉だ」
なるほど……あ、じゃねぇ。
まわりの人形はふ〜ん、そうか、そう言いますか……と、言いたそうな表情。
(評論家じみた表情になる)
<狼> シュウヤ[修也]
「よし、次。アヤノ!!」
<虜> アヤノ[綾乃]
「え、ワタシ‼ えぇ……どうしようかな。よし、ファンクとは、さまざまなモノやコトがぶつかり合う瞬間のこと。
個人と個人がぶつかり合うとこわいこともある。だけど、いろんな人たちと協力してぶつかり合えば、まわりから勇気をもらってこわくない。逆に、なぜか楽しくなる。
なんだろう、リズムとリズムがからみ合ってメロディになる……みたいなカンジ。そのメロディを聞くと、カラダが踊りだして楽しくなる」
<下手> フィリップ[Philip]
「それ、おもしろいな」
まわりの人形たちも、うんうん……と、うなづく。
<虜> アヤノ[綾乃]
「おーし、じゃあ次。フィリップ」
<下手> フィリップ[Philip]
「……ファンクとは、救いようがない、ダメな自分を救ってくれるもの。
ファンクがあれば、どんなディストピアな世界であっても救われる。それと同時に、そんな世界を断ち切る。
「セイバーファンクSaver (Saber / Sever)Funk」だから」
<不諦> マドレーヌ[Madeleine]
「おー、うまい」
Funkは人を救い、人を楽しませ、さらには誰かの剣にもなる。
<虜> アヤノ[綾乃]
「じゃあ、最後。マドレーヌ締めてよ」
<不諦> マドレーヌ[Madeleine]
「ファンクとは……未知の、解明されていない概念。
ある時はセックスを凌駕する快楽。またある時はこの世界を踊らせる絶対的な関数。さらには、この"笑える"世界をけばだたせ、大騒ぎをおこし、突き動かしていくリズム、ダイナミズム。ファンクとは、そういうもの。どう?」
3人の人形がパチパチと手をたたく。
いいかんじに締まったようだ。
no nameたちはおいてけぼりをくらって、ポカンとしているが……
<店主> モーガン[Morgan]
「ファンクとはなにか……それはわからない。ソウルが、トイレットペーパーでまかれたジョイントだってことは知っているけど」
<狼> シュウヤ[修也]
「それ「What is Soul」だろ」
いつの間にかモーガンがno name (3)をつれてやってきた。
ついでに、ソウルとファンクについて語った有名な思想家の一節を引用した。
さすがに2人も入ってくると、ちゃぶ台まわりが窮屈になったきた。
(図2参照)
図2
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no name (3)はあいかわらず酒を飲んでいる。
〈Primal Holtz (プライマル・ホルツ)〉という日ノ本で人気があるビールの500ml缶をビールジョッキにそそぎ、鳥のからあげ、ピータンとザーサイと小ネギがのった冷ややっこを食いながらグビグビ飲んでいる。
<不諦> マドレーヌ[Madeleine]
「この子も……すごいね。1日でここまで適応するとは」
<虜> アヤノ[綾乃]
「その子、ハルカにつかまった子でしょ? アオイが電撃くらわせたって……」
少し心配そうに、見事な飲みっぷりを見つめる。
<店主> モーガン[Morgan]
「検査はしたけど、異常はなかったから大丈夫だって。ヤケドとスリキズ、あといくつか肉ばなれがあるだけ」
<狼> シュウヤ[修也]
「最近の〈ドール〉は……酒とか日常的に飲めるようになってんの?」
思わずno name (5)に聞くシュウヤ。
no name (5)
「いえ、エタノールなどのアルコールを口にしたことはありません。皆、飲むのは今日が初めてです」
<狼> シュウヤ[修也]
「だよな……」
いつの間にか、ちゃぶ台の外に出ていたフィリップが新しい大鉢と青磁の小鉢をもって戻ってきた。
大鉢には、じっくりと煮こまれた
●もつ煮こみ
→しょうゆと味噌のあわせ味
これをフィリップが青磁の小鉢によそって
<下手> フィリップ[Philip]
「ハイ。腐京に来たら、まずコレを味わわないとね」
もつ煮こみをno name (3)の前におく。
ちなみにもつ煮こみや半熟の巾着たまご、大焼ぎょうざはフィリップが作った料理。
うーん、その腕前うらやましい……
モーガンは手前にあった〈神話冒険ビール〉(これも日ノ本で人気があるビール)を、no name (3)のカラになったジョッキにそそぐ。
no name (3)はモツをゆっくり味わいながら、神話冒険ビールをスッとひと口のむ。
<店主> モーガン[Morgan]
「今、なにを感じている?」
モーガンのひとことに、少し考えて
no name (3)
「体内の、魔力の循環スピードがさきほどから上昇しています」
<店主> モーガン[Morgan]
「ほうほう。それは、これからなんども味わいたいというか、経験したい体験かな?」
no name (3)
「よくわからないです。でも、こうして目の前にだされたら、おそらく継続してくり返すと思います。デバッグの必要があります」
<店主> モーガン[Morgan]
「ないない。酒を飲めば、それだけでデバッグになるよ。本来、人形のデバッグ作業とはそういうモノなんだ」
no name (5)
「アルコールを飲んでも、プログラムを修正しているわけではありません。それはデバッグにはならないのではないですか?」
モーガンのひとことに対して、no name (5)は極めて正しい指摘をした。
が、ビールを飲みながらシュウヤはその意見に反論する。
<狼> シュウヤ[修也]
「いや、それは違う。それはデバッグという言葉をあまりにも狭苦しくとらえてる。デバッグという概念は広いんだ。脳みその中ではいずりまわるウジ虫を、どうにかするってことはなにもプログラムの修正だけじゃない。
自分はどう生きたいのかを考えたり、自分はなにをすることが幸せなのか見つけたり、月イチ以上でかよう行きつけの店を探すこともデバッグだよ。
もちろん、酒と肴に酔いしれるのも立派なデバッグ作業だ。人生っていうプログラミングの連続においては、とくに」
no name (5)
「それでは脆弱性を無くし、すばやく効率的かつ正確な動作を確保するための修正にはならないはずです。無駄な行為なのでは?」
その通り。うむうむ。
が、大人たちは なおも子供にトンチのきいた叡智、もといノンキな無意味を説く。
<虜> アヤノ[綾乃]
「私たちは"誰かが組んだプログラム"にもとづいて動いているわけでも、生きてるわけでもないよ。君たちもそう。
私たちは幸せっていう、よくわからないモノ・コトにもとづいて生きていて……その幸せって一人一人が自分で定義づけできたりする。つまりね、私たち一人一人に個別の幸せがあって、私たち一人一人は個別にその幸せを見つけなきゃいけない。
もちろん、それが歪んだもので、他者に極端な不利益をもたらすようなものであってはいけないけども……基本的には幸せは、共有できないモノなの。
そこにすばやさや効率性、正確さは、あんまり必要ないんだよ。もちろん脆弱性については考えなきゃいけない。けど、幸せは無駄そのものみたいなところがあって……でもね、それでいいんだよ」
no name (5)
「無駄にもとづいて行動するのですか? 合理的なおこないのようには思えません」
<下手> フィリップ[Philip]
「僕たちがやりたいことは、『クラリス』のドレイとなって死ぬことではないし、ましてやライフゲームをおこなっていくことでもない。
だから、自分自身をカタチ作る時において集団や自分以外の他者が想う合理的なおこないとか、他者がみなした無駄なおこないとか、そういったことは、自分自身で自分をながめてみると無いも同然だよ。
もちろん仕事は別だよ。それはそれ。目標というゴールがあって、それにむけて進むことが必要だから。だけど自分自身をカタチ作る時、たとえ無駄な努力だったな、と思える瞬間があっても……そういうことを体験することはとても重要だ。
なぜなら瞬間の連続、体験の連続をとおして、僕たち生命体は"自分自身とかアイデンティティ"を構築していく」
<不諦> マドレーヌ[Madeleine]
「無意味なセカイから、有意義を生みだすように」
<下手> フィリップ[Philip]
「その通り‼ 今日はさえてるね」
フィリップが〈プライマル・ホルツ〉を、マドレーヌのカラになったグラスにそそいでいく。
<不諦> マドレーヌ[Madeleine]
「酒だけがなせる魔法にかかっているから、なんでも言えちゃう (*^_^*)」
ホホを赤く染めながら、笑みをこぼす。
no name (5)
「みなさんの言っていることの意味がよくわかりません」
no name (5)は率直に混乱を口にした。
<不諦> マドレーヌ[Madeleine]
「いいんだよ、それで。わかる、わからない。それをくり返していけばいい。それにわかった理解したと思ったことも、次の瞬間にはそれが正しいのかわからなくなる時があってさ。そういう時は、その理解を修正しなきゃいけないこともある。コレもデバッグの一つだね。
そうやって物事の理解を修正し、更新していきながら、私は私自身をカタチ作っていくわけ。たまに後ろをふり返ったり、昔をなつかしがったりしながら……
そう言って、マドレーヌはビールをグビグビと飲みほし
あーウマイ‼」
そう言って締めた。
シーン10 短めキャラクター紹介
●<狼> シュウヤ[修也]
コミュニティで働く農家の人形。
古株の一人。
放浪と登山を愛する変わり者。
だけど、帰るべき場所をちゃんと知っている人。
●<虜> アヤノ[綾乃]
古株の一人。
見た目はキレイな女性。
でも、中身は天真爛漫な女の子。
キャラクターコンテンツに熱中する重度の虜。
●<店主> モーガン[Morgan]
一見すると子供にしか見えない……アオイとならぶ見た目サギの人形。
優しそうな毒舌家。
ゾンビたちの街で「ロメロのショッピングモール」という名のバーを営む皮肉屋。
●<下手> フィリップ[Philip]
ドジっ子な青年。
とにかく凡ミスが多い。
が、そのぶん料理の腕で皆の胃袋をつかんでいる。
じつは戦闘能力がトップクラスの実力者。
(アカリは「ドジじゃなければな……」と常々思っている)
●<不諦> マドレーヌ[Madeleine]
豪快ではあるが、根は繊細な人。
努力をおこたらない志しと、決してあきらめない不締の想いをもつ科学者。
山あり谷ありの人生をのりこえてきたサバイバー。
●no name (1)
K-POPのアイドルのような中性的な見た目をした青年。
(アジア系とヨーロッパ系が合わさった「マルティレイシャルMultiracialまたはミックスド・レイスmixed race」な青年)
髪型は銀髪のショートボブ。
アオイを元に作られたドールの人気モデル〈モデル・アルファ〉の最新機体。
●no name (2)
アフリカ系の見た目をした青年。
見た目の年齢はno name (1)と同じで10代後半から20代前半あたり。
髪型は黒髪のlow fade (blowout hair)。
(こめかみ が剃られていて、髪そのものはカールしている)
●no name (3)
アフリカ系の見た目をした女性。
見た目の年齢は20代前半くらい。
髪型は真っ赤なツインお団子。
(髪質もあって、すごいふわふわしたツインお団子)
●no name (4)
ヒスパニック系の見た目をした女性。
見た目の年齢は20代前半。
髪型は黒いショートボブ。
(ふぁさふぁさしている)
●no name (5)
アジア系の見た目をした男性。
見た目の年齢は20代後半あたり。
髪型は黒いストレートロングヘア。
(女性なみに長いロングヘアで、スラっとしておりキレイ)