天空の落としもの シーン6
推奨楽曲
Flying Lotus
《Parisian Goldfish》
収録アルバム
Flying Lotus
《Los Angeles》
金染布台 3丁目
ビルの屋上
そこに例の全身 真っ黒の連中、怪しい黒いヒトガタたちがいた。
人形たちから〈クラリスのシシャ〉と呼ばれる彼らは困惑していた(……と思う)。
頭部は黒いフルフェイスヘルメットのようなものに覆われて隠され、顔の表情はわからない。
その表面は 三角形状に配置された三つの赤黒い点が光るばかりで、見た目も個性も感情も、わかりはしない。
それでも場所を変え、人形たちが襲撃してこないか周囲を警戒し、小型アンテナを再度起動してツマミの調整を繰り返したり、空中ディスプレイに映る魔法プログラムを急いで書き換えたりしているのを見ると……
やはり、焦っているんだろうなと感じる。
しかし、不思議なことに彼らは周囲の異様なまでの静けさに対しては、あまり注意を払っているようには見えない。
ビルの目の前にある片側二車線の通りは静まり返っていた。
ホバーカーは一台も通っておらず、歩行者さえ一人もいない。
<頭> アカリ[明莉]
「エコー」
三日月の夜に忍び寄るカゲ
決まっていた負け
言わば さだめ
手荒い目覚まし声
しかし、それは情け
ポラリスのシシャたちよ 進め
<悪> アオイ[蒼]
「追いかけっこ〜♪」
アカリへの返答は、目の前にいるシシャへのたむけ
その声にハッとして、シシャたちが振り返ると……
暗い屋上にぽわっと 小さな ヒトダマのような青白い光の玉が一つ浮かび、その隣に少年のような見た目をした人形が たたずんでいた。
その人形は……ヘルメットと白いボディースーツ越しからでもわかる、子供だ。
中学生か高校一年ぐらいの、白い肌の少年。
ゴツくて赤茶色のパルス・アサルトライフルを持った悪ガキ。
そんな子供が、シシャたちをあざ笑うかのように ほほ笑んでいた。
ビルから通り、道路に向けて飛ぶ 脱兎たち。
3体のシシャが重力の滝を下りる。
シシャたちが道路に着地する瞬間、黄色い魔法陣が現れ、フワッと落下スピードが遅くなる。
そのまま衝撃なく着地すると、足に小さな白い魔法陣めいたもの(映像からでは小さくてよく見えない)が現れて、地面から30cmぐらいの高さまで浮き……そのまま猛烈なスピードで道路を滑るように飛んでいく。
〈高速魔法〉
早い、カッコいい、ヤバい魔法
高速魔法中は上半身が斜めに傾く姿勢になる。
(マイケル・ジャクソンの「Smooth Criminal」で見せた 体を伸ばしたまま、45度の角度に身体を傾けるダンス、それとスピードスケートの滑る姿勢……この二つの動きを合わせながら、姿勢をたびたび変えつつ、高速で動いている……そんなカンジの動きを想像してもらいたい)
こういった姿勢で、浮きながら走っていく。
コレを〈浮走〉と呼ぶ。
シシャたちの目の前に十字路が見える。
十字路の上部には高速道路が通っていて
バリィバリィバリバリィィィィィ
パール色の電撃が、道路の両側からシシャたちに向かって襲いかかった。
一体のシシャが電撃に当たり、体勢が崩れて道路に一回叩きつけられて、前転し、そのまま転び
そうになるところを両手両足で地面をスライディングしながら抑えこみ(火花が舞い散る)、なんとか止まる。
十字路側から、悲鳴のような歓声のような多数の声がドッと湧き上がる。
見れば化け物が出たビル周辺と同じように、オレンジ色にきらめく立体映像の壁があった。
壁越しに数多くのゾンビたち、生命体たちが、ステキな追いかけっこショーを楽しんでいる。
(中には停車しているホバーカーのルーフ(屋根)に登って、飲み物片手に歓声を上げているゾンビもいて、もうほとんど"観戦"みたいなものだ……)
スライディングしたシシャの身体から湯気のような白い煙が上がっていた。
奥の高速道路の真下付近からは、白いボディースーツを着た人形たちが突然、透明な状態からパッと明かりがつくように現れた。
人形たちは、へたり込んでいたシシャに向けて電撃を放つ。
しかし、それを妨害する桜色の魔法陣(直径 1.8〜2mの魔法陣)がシシャの前に現れ、電撃を完全にせき止める。
電撃が魔法陣の上下左右に流れて消えていく。
それと同時に、魔法陣周辺から蒸気機関車が吐くの蒸気のような白いケムリが勢いよく上がった。
へたり込んでいたシシャが後ろを振り返ると、シシャの一体が空中ディスプレイを出現させている。
空中ディスプレイの画面にはルーン文字とフェニキア文字が混ざったような文字が羅列されたウィンドウと、もう一つウィンドウ(数字と%が表示され、あと英語、Durability……あぁ見えなくなった)
もう一体のシシャが、シシャの手を取るとサッと立ち上がらせる。
空中ディスプレイを出現させていたシシャは、パルス・アサルトライフルを人形たちに向けてガンガンガンとセミオートで射撃。
弾が、人形に当た
った瞬間、人形の立ち姿がぐにゃりと歪む。
デジタル的なノイズ、虹色のノイズが人形の姿を一瞬かき消す。
それは立体映像。
ライフルを撃ったシシャが反射的にしゃがむ。
頭の上をパール色の電撃が走った。
ギャラリーたちの歓声がエスカレートしていく。
(ピュウイィィと、かん高い指笛が鳴る)
シシャの二体が、高速道路の橋桁から電撃を放った人形を見つけて応射。
しかし、人形は高速魔法を使い、サッと避けて当たらない。
3体のシシャは応戦をやめて、そのまま地面を蹴り上げ、ヒュンっと東の方向(逆方向)に向かって高速魔法を使い、浮走して逃げる。
その後ろから、白いボディースーツを着た人形たちが次々とケムリのように姿を現し、そのまま浮走。
追いかける。
浮走する3体のシシャに対してガンガンという音と共に、上からヒュウンヒュウンと弾が飛んでくる。
(シシャには当たらないが、道路に当たり破片のようなものが飛ぶ(黒いからアスファルトっぽいけど、なんだろう?))
先ほどの少年、アオイが、ビルの屋上から獲物を追い詰めようと……ニヤニヤ笑いながらシシャたちを狙い撃つ。
が、ヒュウンヒュウンとアオイが立つ場所に弾が飛んでくる。
スッとしゃがみながら後ろに下がり、弾をかわしていく。
(不思議と当たらない)
向かい側のビルの屋上に二体、シシャが現れていた。
二体はアオイに向けて連射する。
<悪> アオイ[蒼]
「きたきた〜」
今度は向かい側のビル、その隣のビルの壁を滑るように浮走し、登っていく二人の白い人形の姿が見える。
あっという間にかけ登り、登りながらライフルをシシャに向けて撃ちこむ。
シシャたちの近く(地面)に、パンッと当たり破片が飛び散る。
シシャたちは応戦せずに、地上に向かって飛び降り、地面にぶつかる瞬間にブワッと50cmほど浮かび上がってから、スッと下降。
そのまま浮走へと切りかわり、地上を走る3人のシシャたちと合流する。
5体のシシャが東の方角に逃げていく。
その先に腐京タワーが見える。
塔は銀色に輝きながら、夜を打ち消し、静かに建ち誇っている。
シシャたちが東に行ったのを確認したアオイは、そのまま飛び降りずにビルの壁を浮走しながら駆け下り、壁を蹴って飛んで、道路をドリフトしながら着地。
シシャたちを追いかける。
いつの間にかアオイの隣と後ろには、人形が7人そろっている。
浮走し、かつ並走する。
[エコーチーム]の追いかけっこが始まった。
シーン6 短めキャラクター紹介
●<頭> アカリ[明莉]
腐京人形コミュニティのトップ。
非常時は優れたリーダー。
でも、平時はただの昼行灯……
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●<悪> アオイ[蒼]
見た目は男の娘。
中身はヤクザもの……
子供と侮る大人から金を巻き上げる悪党。
でも、意外と後輩の面倒を見る優しい人。