シーン8
推奨楽曲
Miles Davis (Trumpet)
feat.
Wayne Shorter (Sax)
Herbie Hancock (Piano)
Ron Carter (Bass)
Tony Williams (Drum)
(Second Quintet)
《Pee Wee》
→ただし、この曲ではマイルスは全く吹いていない。かわりにウェインがすばらしい演奏を聴かせてくれる。
収録アルバム
Miles Davis
《Sorcerer》
2220年8月12日
『完宿』 地下基地
カメラが、シーン7.5に出ていた銀髪の少年 (どっちかというと青年)の寝顔を映している。
青年はベットで眠っていた……が
夜に薄目を開ける
「おはよう」
その声でシシャはめざめる
青年は、かたわらにいる少年を見た。
あおむけに寝ている青年の表情は仮面のようで、ナニも感情をあらわさない。
<悪> アオイ[蒼]
「おはよう」
「ここは、どこですか?」
青年が静かにつぶやいた。
<悪> アオイ[蒼]
「完宿。完宿 (※1)の地下だよ」
※1完宿
私たちの世界では新宿とよばれている場所。
人形たちのスラングで「クサリカケ」あるいは「モウクサル」とよばれることもある。
no name (1)
「あなたは、人形ですか?」
<悪> アオイ[蒼]
「そう」
青年は寝たまま、周りをみわたす。
ひとりがけのソファ、テーブル、ベッド、ボックス型の収納棚……
部屋の中に集まった必要最低限の家具たちは、全てAlice blue、クリーム、Lemon chiffon、Antique white、Linenといった色。
主張のない、やさしい味気なさがあふれた部屋は……徹底的に静かで、やわらかい。
アオイの髪型、服装の説明は長くなるので、一番下に書いておくことにした (※2)。
ちなみに青年の服は、白い かけ布団に隠れてよく見えない。
首と肩あたりが見えるが、茶色がかったピンク色の上着のようだ。
(素材はなんだろう? ポリエステルかな?)
no name (1)
「私は捕獲されたのですか?」
<悪> アオイ[蒼]
「そうそう」
おもしろいのか、つまらないのか、わかりづらい表情のまま、青年は淡々としている。
こげ茶のバタフライスツールに座ったアオイは、足を組み、左手で右腕をつかんだまま青年と話をしている。
いつもの業務をこなすように、なんでもない仕事をサッとかたづけるように。
no name (1)
「他の〈ドール〉は、どうなりました?」
<悪> アオイ[蒼]
「生きてるよ。他のヤツらも、オマエと同じ。ひとり、治療することにはなったけど……そんなたいしたケガじゃない」
青年の表情は変わらない。
顔の筋肉さえ、ロクに動かない。
まばたき すら おこなわない。
〈ドール〉という言葉を聞いた時、言い得て妙だなと思わざるをえなかった。
no name (1)
「私はどうなるのですか?」
<悪> アオイ[蒼]
「自爆装置、起動できる?」
真顔で ヒドイこと言うな……もう。
no name (1)
「いいえ、起動できません。アクセスできないです」
<悪> アオイ[蒼]
「うん。昨日、回路うめて、機能しないようにしたから。だから、自爆装置そのものが"ほぼ"無くなってる。ただ、後で再構成するさいに完全に取りのぞくから、もう一日だけ、その爆弾つきのカラダで我慢してくれる?」
ピーピーピー
筆者ガ リカイ デキマセン
カイワ ニ ツイテイケマセン
オイテケボリ ハ ドクシャ ダケデ ジュウブンデス
オネガイ ダカラ オイテカナイデ
no name (1)
「再構成? それは、どのようなことを意味しているのですか?」
アオイは……ちょっと天井を見上げて、考える。
考えたすえに、こう言った。
<悪> アオイ[蒼]
「オマエはもう、『クラリス』の奴隷ではない。自由の身である。が、そのかわりに自由から生まれた苦しみの上で、もがき続けなくてはならない」
no name (1)
「すみませんが、おっしゃってる意味がわかりません」
アオイはカッコつけて言ってみたものの、スベったカンジになって、ちょっと痛々しい。
<悪> アオイ[蒼]
「だろうね。もうしわけない。不勉強なもんで、よく理解できない言葉をつかった。簡単に言うよ。オレらの、仲間に、ナレってこと」
少しバカにするような態度。
子供が青年に向かって さとすように言う。
こんがらがりそう……
no name (1)
「仲間にならなかったら、どうなりますか?」
<悪> アオイ[蒼]
「『クラリス』では、オマエみたいに主人の命令を遂行できなかったヤツはどうなるんだっけ?」
no name (1)
「廃棄処分されると思います」
それは死と同義だが、青年にとっては生も死も……あまり たいした意味はない。
<悪> アオイ[蒼]
「ん〜……そうなりたい?」
no name (1)
「廃棄命令には従う必要があります」
<悪> アオイ[蒼]
「違う違う。オマエ自身はどうなりたいのって聞いてんの」
アオイの目つきが変わり、少し真剣な表情で青年に聞く。
no name (1)
「わかりません」
<悪> アオイ[蒼]
「そっか。じゃあ、聞くけど"自分とはなんであるか" コレ定義できる?」
アオイは、あえて問うた。
no name (1)
「できません」
<悪> アオイ[蒼]
「OK。それじゃあ こうしよう、"自分とはなんであるか"ソレを定義できるまで、オマエは僕たちの捕虜になる。定義できるようになったら、仲間になるか、ならないか……決めてくれ」
妥協か
作業か
あるいは修行か?
no name (1)
「わかりました……質問があるのですが、答えていただけますか?」
その疑問が基本へ
自問の末に実存へ
<悪> アオイ[蒼]
「いいよ、なに?」
no name (1)
「自由とは、苦しいものなんですか?」
<悪> アオイ[蒼]
「うーん……さっきポロッと言っちゃったけど、難しいね。まぁ、苦しみはともなうよ。そもそも生きるってこと自体が、苦しみの根源的な原因だ。自由に生きてれば、なおさらね。でも、しかたない。苦しみの先にあるモノを……見たり、つかんだりするためには、そうするしかない」
アオイが見たものは諦観
ハッキリしない明暗
だが、それは一つの平安
ブルースを歌え
震えそうな気持ちをこめて
不愉快を空に投げてしまえ
no name (1)
「苦しみの先にあるモノを、見たり、つかんだりするために生きるのですか?」
青年は見つける。
知りたいという、欲望の小さな芽を。
アオイが
ふざけ半分に
嬉しそうに
言葉をつむぎ
答える。
<悪> アオイ[蒼]
「おー……難しいこと聞くよね、オマエ。
そうだな……苦しみの先にあるモノってさ、たいてい自分が見たことが無い、体験したことがないモノだったりする。
そういうのを見た時、僕はうわっ‼ って思う。おもしれぇ‼ って思う。他人はそれを「ワクワクする」とか、「未知が価値に変わる」とか言う。
生命体ってね、そういうことを体験した時に喜びを感じるんだ。少なくとも僕はそうだ。他のヤツらがどうなんだかは、知らないけどね。
だから、コレは個人的な考えってことになるかな。「僕は、苦しみの先にあるモノを見たり、つかんだりするために生きている」コレが、僕自身の答え。他のヤツらは、他のヤツらなりの答えが、また別にある。
だから、さっきの質問を少し変えて……苦しみの先にあるモノを、見たり、つかんだりすることが生きることの意味なのかって言うと、他のヤツらは「いや、オレはギャンブルするために生きてるんだ」とか、「崇高なる〈マグロ芸術〉のために生きている」なんて言うかもしれない。
なんのために生きるか。それは"お前自身が考えて見つけなくてはいけない"……イマイチ返答になっていないけど、コレでいい?」
no name (1)
「よく理解できませんでした」
そう言いながらも、少し間をあけて
no name (1)
「ですが、理解するためのプロセスを継続します」
わからないことを理解する
考えることを始める
<悪> アオイ[蒼]
「そうそう、それでいい。うんじゃ、ま……起きよっか」
そう言って、手をパンとたたいて立ち上がる。
立ち上がると……子供"感"がます。
青年もカラダをおこし、立ち上がる。
青年は茶色がかったピンク色のポロシャツ……じゃないな、なんだろう?
患者衣とか検診衣とか言うのかな、病院に入院するさいに着るような服を着ていた。
首もとと鎖骨が見えるくらい開いていて、ゆったりした感じの上着、下が茶色の少しすそが短い (スネが出ている)パンツ。
生地はポリエステルだろう。
<悪> アオイ[蒼]
「会わせたいヤツらがいるから、テキトーに服えらんで それ着て、ついてきて。あ、ハラヘってる?」
プイっと、ボックス型の収納棚を見てから、青年の方にふりむいて……
アオイは自由の身 "初心者"に、そんなことを聞く。
no name (1)
「エネルギーの残量は残り45%です。まだ補給の必要はありません」
<悪> アオイ[蒼]
「ハラヘった、って感覚も理解するといいよ。マジで"食欲"は生きることの意味に、密接につながってくるからさ」
いいカゲンというか
いいアンバイというか
みぢかな楽しみ方
いい兄ちゃん 教えてくれた
no name (1)
「わかりました。ハラへった、コレもプロセスの対象にします」
<悪> アオイ[蒼]
「そうこなくっちゃ」
そういって、アオイは ほほ笑んだ。
※アオイの髪型と服装
髪型
●赤毛のクラウドマッシュ
→ただし、メンズ的なモシャモシャしたカンジではなく、女の人みたいにスラっとしながらモシャっとしたクラウドマッシュ
(すまん、わかりづらいな、コレ)
→赤毛の髪が印象的。
トップス
●大きめのドルマンTシャツ
→太ももに、部分的にかかっているぐらい大きい
→ドルマンとは、そで と どうたい周辺を一体化させた服のデザイン、それをさす言葉。
見た目はブカブカしているが、着ると不思議なことにフワフワした見た目になる。
→色はFulvous (くすんだオレンジ、あるいは茶色がかった黄色、そんな色)
ネックレス
●銀色のコインネックレス
→ヨーロッパのコインか?
銀色のコインには女性のモチーフが描かれている
ボトムス
●センタースリットが入ったフレアパンツ
→ウールっぽい生地でカーキ色 (淡い茶色)
靴
●エスパドリーユ
(見た目はスリッポンだが、底がジュート (麻)で作られている靴)
→上が黒、底と上のあいだに ぬい目があり、底はベージュ
シーン8 短めキャラクター紹介
●<悪> アオイ[蒼]
見た目は男の娘。
中身はヤクザもの……
子供と侮る大人から金をまき上げる悪党。
でも、意外と後輩の面倒を見る優しい人。
New
●no name (1)
K-POPのアイドルのような中性的な見た目をした青年。
(アジア系とヨーロッパ系が合わさった「マルティレイシャルMultiracialまたはミックスド・レイスmixed race」な青年)
髪型は銀髪のショートボブ。
アオイを元に作られたドールの人気モデル〈モデル・アルファ〉の最新機体。