大手との喧嘩
HOSTは同業の付き合いなどを一切行っていないお店で、はっきり言うと歌舞伎町で孤立していた。
イベサーの人間や薬中がこんなに勢ぞろいしている店も歌舞伎町どこ見渡しても存在しないのでその存在自体孤立していたのかもしれない。
そんなHOSTにも一応付き合いはあった。
それはお店単位というより、ホスト個人が個人同士で付き合いをしていて徐々にその関係が深くなり、広がっていくようなものだった。
エラーとの関係は最初は個人同士がお互いの店に飲みに行ったり、一緒にクラブに行ったりするような良好な関係だったが、客が被り始めてからその関係にも陰りが見え始めてきたのだった。
エラーは歌舞伎町屈指の色恋店で、その勢いは飛ぶ鳥を落とすような勢いだった。
その勢いと共に従業員も増え続け今にも一流店の仲間入りを果たそうとしていた。
HOSTにはそんな一流店に肖ろうと仲良くするものやエラーを気嫌う者などが存在した。
ジゴ郎はどちらかというと後者に属していた。
HOSTにエラーの人間が客として来るうちにジゴ郎も何度か接客をした。
接客をしてみると、酒の席ということもあり即意気投合。
有名店への僻みなど一瞬で吹き飛んだのだった。
エラーとの関係は与太郎を先駆者とし、浅かれ深かれHOSTの従業員全員が付き合いをしていたのだった。
そんな良好かに思えた関係は、ホストあるあるのパターン。客が被ってから一気に悪化していったのである。
もともとHOSTに通っていたお客様がエラーに通いだし、エラーのホストがその女の子に色恋(本営)をかけたことがきっかけだった。
HOSTは基本ノリの集団だから自分の客に色恋をかけられたくらいじゃどうってことじゃない。
しかし、エラーのホストがそのお客さんにHOSTに通うことを禁止にしたのをお客さん越しで耳に入った時にそれは変わった。
外では仲良くしときながら内心は実際はこれかと。
同業に対しても本音を隠し建前を貫きとおすその態度にHOSTのホスト達はおかんむりだった。
エラーはそんな気なかったかもしれないが、HOSTはエラーに対して臨戦態勢だった。
そもそもエラーは建前的に小規模のHOSTのことなど相手にしてなかったのかもしれない。
しかし、ある日事件は起きた。
営業時間中にエラーのホストのぼんくらがHOSTに乗り込んで来てくれたのだった。
挨拶もなく乗り込んでくると、早速自分の色恋かけている女の子を探し出し、髪を掴んで店の外に連れ出そうとしていたのだった。
それを見て、ヤンキー系ホストの与太郎は黙っちゃいない。
ぼんくらの頭を掴みひざ蹴り。
与太郎のその一撃でぼんくらは仰け反った。
問題はそれからだった。
仰け反ったぼんくらの体はビルの廊下に置いてそれは良かったが、営業時間中に失踪したぼんくらを探しにエラーの従業員達がHOSTになだれ込んでくるという情報を客を通しキャッチしたのだ。
その数総勢30名。
ざっとHOSTの倍の人数だ。
店の前や店内などでもめ事を避けたかったHOSTは決戦の地を屋上にした。
そしてお店も混んでいることもあり、代表の意向で喧嘩の方には5人のみの参加という
チーフが言う
「赤レンジャイ!!」
するとにんにくが
「緑レンジャイ」
この時点でエラーをすごく舐めてかかっていた
しかも、エラーが来るまで誰が青レンジャーになるかで一揉めする余裕まであった。
残念ながらジゴ郎は幹部であることとお客さんが来ているという理由で戦隊者から外された。
その代わり、店を全て任せるといった重役を担うこととなった。
初めてもらった店舗運営の実権。
ジゴ郎はいつもより張り切って仕事をした。
すると、男性の団体がお店に来た。
「いらっしゃいませー」
元気よく声を出すと、
「あれっ?ここじゃねーな。」
「お兄さん、僕達エラーの者なんだけど今揉めてない?」
「屋上の方で続けているのでどうぞ。」
そうジゴ郎が言うと
「お兄さんは行かないの?」
「ゴレンジャイがいるので行けないです。」
そう言うと、エラーの集団が狭いビルの廊下を大蛇のようにくるりと回り、階段から屋上に向かい始めた。
ワクワク感が止められなくなってしまったジゴ郎は、その長蛇の列の最後尾に付いていき、屋上につくとその時を待った。
周りを見渡すと乱闘などにはなっておらずエラーの一番強い人間とHOSTの一番強い人間でやるかやらないかで罵り合っていた。
ジゴ郎が割れた瓶ビールを持って屋上に上がってきたのをいち早く気付いた店長のホモ野郎はジゴ郎のところに近づき挨拶代わりの
ボディーブロー
そして耳元で
「せっかく話が収まろうとしている時にお前そんなもん持ってきたら全て無駄になるだろう」
そう叱咤され、手に持っていたビンを奪い取られると
「お前はお前の仕事をこなせ。」
そう言われ持ち場に戻らされると代表のガングロが悲しそうに近づき、
「おいおい、大人数に対してわざわざ少人数でやろうとしてんのにお前来るなよー。」
「すいません。」
「そう言えばガングロさん何レンジャーだったんですか?」
「俺はもちろん、赤緑だよ」
・・・二色混ざってるし、やる気あるのかないのか。
そうして仕事に戻ると、お店の前に2人のホストが立っていた。
2人は騒動には無関心な様子で、店前に飾ってあるナンバー写真を眺め興味あり気な雰囲気だった。
それを横目にジゴ郎がHOSTに入ろうとすると、
「お兄さん、トイレ案内してもらってもいいですか?」
「いいですよ。こちらです。」
お店のドアを開ける。
「うわぁー、内装オシャレっすねー。」
なんだ、こいつら?お互いの店が揉めている最中なのに、全く殺気がない。
むしろ親近感全開だ。
「こちらになります。」
そう言い、トイレに案内するとHOSTと全く違うタイプのホストで清潔さや誠実さが際立ち、店内にいた全人間が2人を注目する。
トイレにつくと礼儀正しく
「ありがとうございます。」
さっきまで敵だと思ってみていた分、ギャップでいい人間に見える。
この2人は間違いなく平和主義者だ。
しかし、エラーは人数が多いせいなのか一体感の無さが可哀そうであった。
確かにHOSTは稼ぎは良くない店だが、チームワークは抜群でみんながみんなを信頼し合っていていいお店だ。
近くで祭りがあれば従業員総出で遊びに出かける。
従業員も仕事をしているというより、男子校に来てる感覚だ。
実際この日も信用し合っているから従業員総出ではなく、ゴレンジャーに任せたのだ。
2人がトイレを終え、おしぼりを用意すると、
「ありがとうございます。ところでお店にいる人達は騒動に駆りだされないのですか?」
「僕たちはお店を任されているので、騒動に参加したら怒られます。」
「そうなんだー。いいですね。早く終わってくれないかな。笑」
「そうですね。でももう収まりかけていたから終わると思いますよ。」
「んじゃー、上に行って状況確認してきます。お兄さん、ありがとうございます。」
こうしてエラーの2人をエレベーターまで見送った。
その5分後、ガングロ始め、ほかの従業員もぞろぞろと戻ってきた。
「いやー、あいつらしょぼかったわー。ホストってあんなんで売れるんすね。」
にんにくが気分良くそう言い戻ってくると、みんなしてホストの情報誌を読み、どれがどいつだったか確認作業が行われた。
すると、さっきの2人はエラーの幹部でしかも売れっ子だった。
こっちはみんなギラついていて(お薬の影響もあり)今日生きることにも必死なのにエラーのやつを見てると、自由に楽に仕事をして金を稼いでいる感じがした。
この時、ジゴ郎はまだ19歳。
これから稼いで将来自分で店を持ちたいという夢があるから、楽に稼げるように見えたエラーが魅力的に感じた。