売掛回収

 
どの商売でもアフターサービスというものが重要視される。
しかし、ホストほどアフターサービスが必要な商売も他にはない。
この日も常連客のアフターをすることになった。
 
いつもは新宿の映画館や薄っぺらい肉の焼肉屋とか楽なところに連れていくのだが、この日はシャンパンなども開け会計も高額になってしまったために、普段とは違う特別なアフターにしなければならなかった。
 
そこでジゴ郎は近くてもなかなか行かない歓楽街、池袋に向かった。
 
池袋に何があるかというと、水族館と中国人が多い以外特にない。
 
太陽の光に弱い水商売の男と女、もちろん交通手段は紫外線を避けるようにタクシー。
 
目的の水族館のあるサンシャイン60に着くと、広大な敷地にびっしりと若者向けの店舗が敷きつまっている。
 
その活気溢れる健全な光景にかつての忌まわしい巣鴨プリズンの面影など微塵も感じさせない。
 
あまりの広さとビルの内部の複雑な構造で当たり前の迷子となる。
 
しかし、雑貨屋やデザート屋などが立ち並びそれはそれで楽しいデート。
その楽しいデートを一瞬で変える出来事が起きた。
 
10坪くらいの小さなお店の前を通りかかった瞬間だった。
 
見たことのある女の子が満面の笑顔で接客している。
 
その時、金のオイニーをプンプン感じた。
 
そうだ、にんにくの売掛と客のレイのお金を飛んでる女だ。
 
その子がこっちの方を向いた。
 
ジゴ郎の存在に気づいた。
 
その瞬間、その子の目は恐怖に溢れていた。
 
最悪の状況を想像しただろう。
 
でなければあの凍てついた表情の説明がつかない。
 
しかし、残念ながら最悪な状況は起こってしまうのである。
 
ジゴ郎は早速ニンニクに電話をする。
 
怒り心頭のニンニクは
 
「15分で行きます。」と一言。
 
そしてレイにも電話をし、すぐに呼び出した。
 
その時一緒のお客さんには悪いことをしたが、トイザラスでキリンのおもちゃを買ってあげすぐに帰らせた。
 
それからその子を見てないから、そのことが原因とみていいだろう。

女の子はパンダが好きだ。
 
30分後、
 
役者が全て揃った。
 
そして10坪程の小さな店に乗り込んだ。
 
「ねぇ、話があるんだけど分かるかな?」
 
そうニンニクが言うと、飛子はすでに状況を理解したようで
 
「今、店長に話してきます。」
 
と言い、レジにいる店長らしき人物に話をしにいった。
 
その物々しい雰囲気を店長も察したのか、すんなりと承諾してくれた。
 
そして、飛子確保。
 
そして、飛子の実家のある埼玉の熊谷までタクシーで移動。
 
行きのタクシーの車内は飛子以外はノリノリ。なんてったって、ニンニクとジゴ郎の大好きな売掛回収♪

高速経由で1時間ほどかかり、15,000円かかったがもちろん飛子もち。
 
そして辿り着いた飛子の実家は、生活感あふれる木造二階建てで、間違ってもそこに金持ちは住んでいない。
そういう建物だった。
 
そして飛子が恐る恐る家のカギを開け、玄関のドアを開けるとすぐにリビングで一家団欒している姿が見えた。
 
真っ先に飛子の父親がこちらに気付く。
 
うつむく飛子と異様な三人を見て、ただならぬと気付いたのだろう。
 
ジゴ郎は被害ゼロだから大丈夫だとして、ニンニクとレイは金を飛ばれているから、それは怒り心頭。
しかもニンニクは今でいうスーパーDQNだから、それはもう大変。
 
玄関に上がった瞬間に
 

「とりあえず、全員土下座」

 
飛子一家はポカンである。
 
しかしニンニクは止まらない。
 
「とりあえず、お前んとこの娘が迷惑かけてここに来てるんだから、詫びの誠意みせんかい!!」
 
そう怒鳴ると、訳も分からぬまま
 
土下座。しかも、一家全員。

それから、飛子の口から家族に成り行きを説明すると、掛け飛びの女の家族にしては珍しく丁寧に真摯にこちらの言い分を聞いてくれた。
 
そして掛けやレイへの借金の総額60万(実際はもっと少ない)を要求するとお父さんは
「今日は日曜だからすぐには無理」と、仕方のない一言。
 
しかし、今日取れなかったらもう回収困難となると、今までの経験上根付いているニンニクは、「今日以外の受け取りは無理」との旨を伝えた。
 
するとお父さんは、逆上するわけでもなくこちら側の立場になって考えてくれ、
「近くに住むおじいちゃんのところに赴き、なんとか工面をするから待っていてくれ」
と言い、一人おじいちゃん宅に行く。
 
そして待つこと二時間弱。
 
この間、飛子の家は殺伐とした雰囲気となっていた。


お父さん帰宅。
 
汗をかき、息切れしている姿を見ると、必死になってお金をかき集めたのだろう。
 
内訳を聞くと、おじいちゃんの資産を売り払って工面したらしい。
 
今までの回収でこんな律儀で誠実な人を見たことがないジゴ郎は、少し良心が痛んだが飛ばれて給料が出なく毎日まともな食事すらままならなかったニンニクのことを考えると口をはさめなかった。
 
「あれー、総額60万なんだけど、10万足りないな。」
 
そうニンニクが言うと、
 
「今日は日曜だから50万が限界です。明日必ず入金するので明日でもいいですか?」
 
「明日必ずな。」
 
そう言い、三人は飛子家族全員に見送られ玄関のドアを開けた。
すると、飛子が
 
「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」
 
と言い、ニンニクの反省の弁も聞けて一段落しようとした瞬間、ニンニクの口からまさかの言葉が飛び出した。

「この金で風俗行ってくるわ!」

 
別に言う必要のない言葉にその場にいた皆唖然。

「どうぞご自由に」

と答えた飛子が大人に映った。
 
 
こういう娘のだらしなさでこうやって家族が崩壊するケースはよく見られる。
 
例えば、その子が風俗など親に言えないような如何わしい仕事をしていたのならば、そのことは全てバラされるし、そのことでゆすられて実際の金額より多めを要求されるケースもある。

女の子に告ぐ。



こんなことにならない為には支払いには十分気をつけることだ。
 
ちなみにこの件でジゴ郎は手数料として20万双方から頂いた。
 

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