見出し画像

後発組でも始めれば差は詰まる。

僕の家はお金に余裕がなかった。

どうやらお金に困っているわけではないのだけれど,タイミング次第で時々僕のお年玉がガスや電気の支払いに使われていたような記憶がある。

貧乏ではないけれど断じて裕福ではないし,自嘲気味に使われる「中流」の少し下くらいだろうと思う。

それはかつての話で今は違う。

というか…

そういう経済状況だったのは親のせいではなく…きっと僕ら兄弟のせいだ。ゴリゴリの運動部で呆れるほど飯を食っていた息子たちを,毎日それなりに食わせていくには…そりゃ母ちゃんも選ぶことなくパートに出る必要があったのだろう。

息子たちが全員無事に社会人になり…夫になり…父になった今,僕の両親はむしろ経済的に中流の少し上くらいになっている気がする。大したものだ。

面と向かってはきっと永久に言うことはないけれど…言おうとしたら少し涙ぐんでしまうくらいに,立派な親だと僕は思う。

ただ…

その当時の僕は親の都合など知る由もなく,物質的には常に「足りない」か「遅れている」状態で10代を過ごしてきた。

小学校のとき仲間が集めていたガンダムのカードは全然持ってなかったし…

中学のときみんなが履いていたナイキやリーボックの1万くらいするスニーカーは,それを買うことを夢見て過ごしていた。

高校のとき仲間がバンドに目覚めてギターやベースを買う中…僕がそれに手を出さなかったのは音感のなさだとかそういう理由ではなく,単純に楽器を買う金がなかったからだ。

僕は常に…

「欲しいものは手に入らない」という気分の中で生きてきた。

でも

そのおかげで学んだことがある。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

特に大きな学びになっているのは…

後発組でも地道にやれば差を縮められる

ということだ。
しかも結構なハイペースで。

ファイナルファンタジーやドラゴンクエストは発売日に入手したことがない。いつも,人がクリアし始める頃に買ってあとから始める。

だから

僕がレベル1のしょぼい装備で旅に出るとき,クラスで耳にする仲間の現在地ははるか彼方。レベル60,70,80という世界。

この圧倒的な差に最初はいつも絶望する。

ところがRPGというのはよくできていて,レベル80の奴が81になるための経験値は,レベル1の奴がレベル10になるくらい大量に必要だし…実際,ボスに勝つためには地道な「レベル上げ」の作業が必要になる。

雑魚キャラに遭遇するまで歩き回り,ほぼ思考停止で瞬殺。それを永遠に続くと思えるほど繰り返す…

彼らがレベル上げのためにアホ面下げてボタンを連打しているその頃,僕は着々と物語を先に進める。


1,2…10…20…30…


旅立ちの日に79あったレベルの差はいつの間にか40くらいまで縮まって…僕自身も焦りを忘れ,それなりにゲームを楽しめるようになっている。

先発組の仲間たちがレベル90に到達するころには,僕も75か80くらいにたどり着く。彼らの背中はもううっすら見えるところだ。クラスでもゲームの話題にほぼ対等で参加できる。

時々,先発隊の失敗談を耳にして,それを避けて効率的にプレーするもんだから,かえって羨ましがられたりもした。

そう

最初の一歩を遅れて踏み出したとき,確かにそこに存在していた絶望的にも思える差は…いつの間にか,そんなに大差ないところまで詰まっていくのだ。

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

残念ながら,現実の社会はレベル99では止まらない。

100, 200, 300 … 1000。

次々と新たなダンジョンに挑戦し,後発組をさらに引き離していく強者も極稀に存在する。

でも大抵は違う。

世の中のほとんどの人間は庶民だ。レベル99までの世界で,しかも大抵は60から80くらいの間で競争している。

僕は…

持たざる者として育ち,何をやるにしても後発組として生きてきた。僕の前には常に,僕よりデキる奴の存在がある。背中すら見えないほど遠くにいる奴らの存在も,SNSのせいでやたら身近に感じて未だに時々モヤモヤする。

けど僕は感じている。

極めて少数の,リミットブレイクしてレベル100以上の世界を駆け上がる奴らはともかく…

少なくともレベル99までの世界では着々と…僕はレベルを上げている。

もう自分を後発組だとは思わない。
持たざる者だとも思わない。

僕は自信を持って立っている。
一歩ずつ踏み抜いてきたこれまでの道のりの先端に。

さて,

次のボスはどんなやつだ?
まだ見ぬダンジョンを楽しみにできるくらいにはなってきた。

この記事が参加している募集

放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。