非行少年の目の輝きを取り戻すには。
子どもの目は輝いてる
僕はそういうキラキラした表現をあんまり好まない人間だけれど,それでもこれは理解できる。
…いや
本当に理解しているのは
非行少年の目は輝いていない
ということの方だ。
非行して逮捕されると,節目節目に写真を撮る。
少年鑑別所でも少年院でも撮る。
大半の出院直前少年の表情は,逮捕直後に比べ,本当に見違えるほど変わっている。
それはまさに「輝きを取り戻した」と言ってもいいくらいで,少年院の面会室でもたびたび話題になる。
家族は,わが子の表情が「人間らしくなった」ことに驚いたり感動したりする。
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健全な子どもの目が常に輝いていて
非行少年の目が常に陰っている
とは言い切れないが…
少なくとも,社会や大人に対して輝きのない目を向ける子どもがいることは事実だし,それはきっと…少年院の外でも同じだろうと思う。あなたの近くにもいないだろうか?
では…
どうすれば,陰った子どもの表情に
輝きを取り戻すことができるのか…
その1つの形をご紹介しようと思う。
僕が,塀の中で日常的に繰り返してきたことだ。
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結論からいけば,それは簡単なこと。
知ってるつもり
を暴けばいい。
自分の「知ってるつもり」が,本当にただの「つもり」だったと気づいた瞬間,彼らのアタマとココロに風穴が開く。新鮮な風が入る。
1つ穴が開けば,あとは子ども自身が勝手に広げてくれる。
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喧嘩,暴走,徘徊…。
非行少年たちはほぼ100%…
「俺は特別な経験をしてきた」
と思っている。
周りの人がしていない特別な経験をして,自分は特別な人間だと思っている。むしろ,特別な人間として振る舞いたいから非行をしているのかもしれない。
だから…
非行を止めようとする大人からは逃げるし,非行を否定する大人には喧嘩を売る。
自分で選んでやってるつもりだから,少年院で窮屈な思いをすると「もう非行はしない」と一応言ってみたりもする。他には何もできないのに。
そして
法務教官に対して「十分世の中のことはわかってる」という雰囲気を醸し出す。
「俺はお前らにはできない経験をしたんだ」
「俺は特別な時間を過ごしてきたんだ」
と。
もう十分,酒も飲んだしバイクも乗った。
オンナも抱いたし悪いこともたくさんしたんだ。
と。
世の中をわかりきったような面して「世の中つまんねぇな」と言いながら「面倒だから我慢してマジメになるか」という感じ。
だから僕は…
その甚だしき勘違いを真正面から叩き潰す。
つまり…
まだ何もわかってねぇぞ?
と突きつけるということ。
好きなブランド
好きなバイク
酒,たばこ…
なんでもいい。
その奥深さをさらっと話すのだ。
たとえばこんな↓感じ。
酒好きなんだってな。
何飲んでたんだ?
…おー焼酎か。
今まで飲んだ中で一番うまい焼酎なんだった?
大概答られないか,どこでも売ってる大衆酒を答える。銘柄で味が変わることなんて考えてないからだ。
で,
沈黙するそいつにこう言って話を終える。
なんだよ思い出せないのかよ。
俺の知らない美味い銘柄知ってんのかと期待したのに。
ま,思い出したら教えてくれ。
ちなみに「◯◯」って奴,すげー美味しかったぞ。ま,未成年は飲んじゃいけないから,わかるの数年後だろうけどな。
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旧車のバイクが好きならこんな↓話でもいい。
バイク好きなんだってなぁ。
ほかに好きなもんあるか?
服のブランドとか。
で
返ってきたブランド名をそのまま使って…
へぇそんなの好きなのか。
高いだろ?
とか言いながらこう続ける。
そのブランドの,30年前のモデルがあったら買うか?
大抵の奴は「そんな古臭いの買わない」と答える。だから最後にこう言う。
ふーん…
じゃ,なんでバイクは古いのが好きなんだろうな。
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言われてみればなんでだ?
みたいな疑問…
言われて見れば確かに!
という視点を,さらっとぶつける。
「わかったつもり」を見つけ出してそこに風穴を開ける。
するとそれをきっかけに,「知ってるつもり」で「ろくに何も考えてこなかった」ことに気付く。
そして
押さえつけて忘れ去って,存在しないことにしていた「好奇心」が目を覚ます。と同時に,そのきっかけを作った僕(へいなか)にも興味を持つ。
「人に興味を持つ」というのは,社会性の第一歩だ。
僕が接していた子どもたちは…少年院の中で新聞を読みながら,ブロックチェーンや地域や国ごと格差問題など,幅広い話題に興味を持って質問に来ていた。
好奇心のない子どもの目は冷めている。
好奇心を取り戻した子どもの目は,熱と力を持っている。