放射線科と仲良くするために -頭部救急編-
都内で放射線科医として働いているheinと申します。
このnoteは主に医学生や研修医の先生達の為にどうやったら放射線科といい仕事ができるようになるか?という事をまとめたものになります。
前回の記事では放射線科の仕事についてお話させていただきました。
今回からは具体的なシチュエーション別に気の利いたオーダーの立て方を紹介して行きます。まずは頭部救急から。
外傷なの?脳卒中なの?
検査には必ず目的があります。と言うより目的が無い検査はしてはいけません。頭部救急のシチュエーションに限らず画像検査に置いて大事なことは事前確率です。例えば頭部打撲の精査をするCTであれば骨折が無いかを一生懸命探します。脳梗塞を疑っているなら症状と照し合わせて探しに行きます。
いずれにせよ検査を行う目的を明確にしてください。
「頭部CT評価お願いします」
と言うオーダーはダメです。勿論わかる限りのことは評価しますが、正直に言うと「体動も少なかったので綺麗な頭部CTが撮れました」とレポートされても文句は言えないと思ってください。
「頭部外傷精査目的」
少しやりたいことが明確になりました。脳挫傷や頭蓋骨骨折を評価すればいいことも想像ができます。「右後頭部に骨折線を認めます。左側頭葉の前縁、中頭蓋窩にそって高吸収域が見られ脳挫傷の所見です。contrecoup injuryが疑われます。」ぐらいのレポートは書けそうです。では、もっと良い検査をするにはどうすれば良いかを考えましょう。
大事なのは受傷状況だ
頭部外傷の患者さんと言っても時間経過はさまざまです。交通外傷で救急搬送でしょうか?外来に受診してきているのでしょうか?
脳神経外科の外来に「うちのお父さん最近歩くのが難しくなって良く転ぶのが心配で」と言って連れてこられてきた高齢男性がいて、頭ぶつけてるかもしれないしCT撮るか〜という状況でしょうか?それとも救急車で運ばれてきた顔面血だらけでJCS30ぐらいの患者でしょうか?求められる事が全然違いますね。前者であれば歩行障害の原因になりそうな変性疾患は?慢性硬膜下血腫とかは?とはいえ検査まである程度は待てそうです。後者であれば脳挫傷は?骨折は?気道の開通性は?いずれにせよ検査を待てる状況では無いですね。
もちろん電子カルテを参照すれば放射線科でも状況を把握することはできますが、親切なオーダーとは言い難いです。
そもそも撮影の仕方も変わってきます。やはり高エネルギー外傷であれば併存し得る棘突起骨折や咽頭後間隙血腫なども評価する必要があります。また軸位断画像だけでは水平に入った骨折線を見逃すかもしれず3方向の再構成が必要でしょう。場合によってはVR像(volume rendering)もあった方がいいかもしれません。
「3mの梯子から転落し救急搬送。後頭部に活動性出血あり。頭部CT頸部まで撮影お願いします。骨条件thin slice3方向及び頭蓋骨VR再構成お願いします。バックボード・頸椎カラーありです。」
ここまで書けば文句言われることは無いと思います。しかし、こういった状況ごとに必要な撮影条件を一般臨床医、ましてや研修医の先生が習熟するのは難しいと思います。どうすればいいでしょうか?簡単です人の助けを借りましょう。「3mの梯子から転落し救急搬送。頭部外傷評価目的です。」これだけ依頼文に書いてCT室に電話して相談しましょう。
「転落外傷の方の頭部CTお願いしたいんですけど〜ちょっとヤバそうなんで急いでます」
気の効いた技師さんなら「首まで撮りますか?再構成要りますか?移動はストレッチャーですか?まさか挿管して無いですよね?5分後に到着でお願いします」ぐらいの会話はできます。そして症例の経験を積んで依頼文と電話する時のプレゼンをブラッシュアップしていけばいいんです。もちろん手抜きはだめですよ。
OK。わかった脳卒中の話をしようか。
一通り外傷で言いたいことは書いたので脳卒中の話をしていきましょう。脳卒中と言うとザックリいって出血と脳梗塞ですよね。この評価に使えるmodalityは頭部CTと頭部MRIでしょうか?これらの依頼する際にオーダー文で気をつけて欲しいことはonset、症状、既往歴です。一つ一つ解説していきます。
onsetについて。これは二つの点で重要です。まずは想定される疾患が全然違うことは国家試験をくぐり抜けた皆さんならわかりますね。再三繰り返しますが検査は事前確率です。その患者は脳梗塞っぽいですか?脳出血っぽいですか?時に優秀な臨床家の直感は検査の感度を上回ります。もちろん思い込みで突っ走るのは問題ですが重要な事なので、検査依頼に盛り込みましょう。すごく参考になります。次に検査枠の問題です。例えば臨床的にかな〜り脳梗塞が疑わしいかたがいたとします。発症はどうやら午前8時のようです。現在時刻は11時45分。t-PA投与のデッドラインまでは発症から4時間半なので後45分しかありません。パッと撮ったCTでは所見がはっきりしませんでした。MRI撮りたい。救急外来にいる研修医のあなたは放射線科に電話します。午前の予定検査が12時半に終わるのでその後でと言われました。MRIの画像をみれる頃にはt-PAの適応は残念な事になってますね。なぜこんな事が起きるのでしょうか?簡単です。あなたが残された時間を伝えなかったからです。頭部MRIを直ぐ撮ってくれない放射線科が悪い?違います。MRIの検査というのはどこの病院でも予定の検査で一杯一杯です。緊急の検査をすればそれだけ枠はずれ込み患者を待たせることになりクレームに繋がります。だから例えば発症から明らかに8時間とか経過している症例であれば正直昼休みなどの予定検査に影響出ない時間にやりたいです。とはいえ患者さんの治療機会は奪いたくありませんから残された時間が45分ならねじ込みます。ね?onset大事でしょう?
次に症状の話。特に脳梗塞の時にこれは気をつけて欲しい事です。例えば数時間前発祥の右片麻痺の患者さんの頭部CTで右の内包後脚に低吸収域がみられたとしましょう。この方は右内包後脚の急性期脳梗塞でしょうか?多分違いますね。症状と画像所見が合いません。おそらくまだCTでは捉えられていない脳梗塞が他に隠れているはずで、右内包後脚の病変は陳宮性病変ではないか?ということが考察できます。つまり症状に一致する病変であるかを評価するためにはやはり臨床的な神経診察の情報が非常に重要になってきます。フルニューロンは無理かもしれません。だけど最低限右か左かぐらいは書いていただけるととても助かります。
最後に既往歴の話。個人的にはこういったシチュエーションの既往歴には二つの意味があると思っています。一つ目は先ほど症状のところでも出したように陳宮性梗塞かな?という病変を見つけた時に対応する既往歴があれば迷うことが無いという点です。もう一つはやはり事前確率になります。Afがある患者で比較的広範な脳梗塞を見つけたらやっぱりな?という風になりますよね。そういうことです。
そうはいってもね。。
皆さんの勤務先の施設では造影CTを撮るときはどのようなプロセスをとっているでしょうか?通常の予定検査であれば採血をして禁忌事項を確認してそれを問診票に書いてもらって予約を取ってそういう手順で検査の安全を担保しますよね。問題なのは緊急で造影CTを撮る時です。僕は2つのパターンを経験しています。一つは緊急である場合は主治医の責任でなりふり構わず造影する場合。もう一つは放射線科医に連絡がいき、放射線科医の判断で造影を判断する場合です。前者はある意味医者一人の一存でどんどん話が進むのでスムーズにいきます。後者の場合は必要性をプレゼンしなければいけません。放射線科医の習性として安全を重視します。腎機能は?喘息は?メトホルミンは?と理由をつけて造影を遠慮したがります。したがってリスクを上回る検査の必要性を率直に伝える必要があります。今回の頭部救急でいえば搬送後すぐに単純CT取ったら大きなクモ膜下出血があったとしましょう。意識も悪くて既往歴や内服歴なんかわかりません。採血が出るのはまだ先っぽいです。だけど動脈瘤の評価したいですよね。造影を安全にする条件は揃っていませんがそうはいっても頭部CTangiographyをさっさと撮って必要な治療に迅速に繋げたく無いですか?勿論放射線科医にも気持ちは伝わります。その考えを伝えましょう。例えば単純CTみた時点でCT室で放射線科医に電話すれば言い訳です。「クモ膜下出血見つけちゃったんでこのままCTA撮らせてください。」流石にこれで嫌がる人はあんまりいないんじゃないですかねぇ・・
嫌な話ですが検査には疑っていない検査というのがありますよね。80代の女性が発熱で搬送されてきたら意識が悪い。普通に考えたら敗血症で意識が悪いのだと思います。そうはいっても実は頭の中で血が出てるかもしれません。ぶっちゃけ撮影の適応は社会的な撮影ってやつですね。放射線科も大人なのでわかってくれます。が、高圧的に迫られるとムカつきます。といわけで依頼文にちゃんと「多分なんも無いんですけど・・・」というのをちゃんと匂わせましょう。他の状況を書いておきましょう。前述の例で言えば敗血症で意識悪いだけっぽいけど頭の中に何かあると後からやべえんです。というのを医学用語に変換しておけばいいんです。ただしこういう依頼出しまくると、、、印象悪いですよ。
オーダー例文集
「1ヶ月前に自宅内で転倒してから徐々に歩行障害が増悪。頭蓋内精査目的」
「路上で倒れている所を通行人が救急要請。受傷起点は不明だが右後頭部に挫創あり。JCS30。頸椎評価のため首まで撮影のうえ、骨条件3方向thin sliceで再構成お願いします。ネックカラーあり。」
「3時間前発症の構音障害。右口角下垂あり。頭部CTでは所見なし。脳梗塞疑いです。詳細不明だが3年前に脳梗塞の既往あるようです。」
「脳卒中A選定。1時間前発症の強い頭痛。以前人間ドックで動脈瘤の指摘あり。場合によってはその場でCTA撮影したいので主治医付き添います。」
「初発の痙攣重責で救急搬送。症候性てんかん除外目的です。」
「発熱、意識障害で受診。UTI疑いですが、意識障害の原因となる頭蓋内病変除外のため。」
最後に
今回は具体的な頭部MRIの撮影シーケンス等までは踏み込めませんでした。そのうち僕ももっと勉強してからまとめたいと思います。また、各施設事にある程度シチュエーション別に決められた撮影プロトコルもあるでしょう。放射線科と仲良くなって興味があったら聞いてみましょう。奥が深いですよ?次回はまた来週あたりに頑張れればと思います。
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