放射線科と仲良くするために -発熱精査編-
都内で放射線科医として働いているheinと申します。
このnoteは主に医学生や研修医の先生達の為にどうやったら放射線科といい仕事ができるようになるか?という事をまとめたものになります。
4回目の今回は放射線科vs他科で一番もめるであろう発熱の画像診断です。よかったら前回までも読んでくださいね。
毎回長くなっちゃうから例文集みるだけでもいいと思いますよ。
※2021/01/25に少し追記しました。
みんな大っ嫌い
忘れてはいけないことは電子カルテの先には検査を遂行するためのプロがいることです。美容院に行ったらどうしますか?プロに自分の希望を伝えて思た通りしてもらいますよね。同じです。依頼文には何をしたい検査なのかわかるようにしましょう。
「熱源精査」
放射線科医100人に聞く。嫌いな依頼文No.1は?というアンケートがあったら多分1位とれます。熱源探したいんだから仕方ないじゃんと思ったかもしれません。だけどマジでいめんどくさいので依頼文がおざなりだと不機嫌になります。じゃあどうすればいいのか?
依頼分はコンサルトだ
皆さんカルテの書き方ってどのように習いましたか?いろいろ流派はあると思いますが有名なのは問題志向型システムで書くSOAPだと思います。Subjectiveな訴え、Objectiveな所見、統合したAssessment、解決策であるPlanです。実はこれをちょっと改変すると凄くいい依頼文が書けます。しかも殆どすべての検査においてです。
Subjective「患者の訴え」
Objective「身体所見や採血等の情報」
Assessment「画像検査をする前に疑わしい疾患」
Past medical history「既往歴」
Subjectiveの書き方で大事なことはその検査の主たる目的を記すことです。この場合ではあれば癌の再発を探したりだとか手術前であったりではなくて発熱の検査だよと伝えていただくのが大事です。具体的には「発熱・呼吸苦で受診」「右側腹部痛、発熱で受診」「術後炎症反応遷延、熱源精査」みたいな感じで、放射線科に「とりあえず熱源探すのね」と伝えていただけるとそのモードにスイッチが入ります。
Objectiveはつまり検査前の確信度にかかわります。右季肋部を痛がっていて、肝胆道系酵素が上昇している方だったらどうでしょうか?かなり胆嚢炎っぽいですよね。この人にCT撮ったらやっぱり胆嚢が腫れていて胆石も見えたら間違いないですね。逆に臨床所見が胆嚢炎っぽくなかったらどうでしょう?SpO2が下がっていてcorse crackleが左肺に聞こえてどう考えても肺炎だろという方のCTで胆嚢まわりが怪しかったらどうですか?慢性胆嚢炎で今回の熱源じゃないかもしれませんね。こういった判断のために多角的な情報は大事です。血培の結果とかね。
Assesmentは実は放射線技師さんにこそ重要です。放射線技師さんたちは撮影のプロ中のプロですが病気のプロではありません。症状や採血の結果のみかたに詳しいわけではありません。したがって画像検査の前段階で疑わしいものが何かを記しておきましょう。そうすると最適なプロトコールを組んで撮影してくれます。そのほうが見やすい絵ができますよ。
Past Medical Historyを書いてほしい理由はいろいろあります。まずは既往歴によって起きやすい病気がちがうこと。たとえば蜂窩織炎の治療中の患者であれば何処かに膿瘍とかできてないか?というのが気になりますし、誤嚥性肺炎を繰り返している方ならまたかな?と思えます。
別の視点として見つけた所見が説明可能な既往歴を持っているか?というのがあります。たとえば虫垂炎のCTだけど肺底部の間質性陰影をみつけた時に既往があれば納得できますが、もし既往がなければCOVID-19?と頭を回します。手術の後ならもしかして術後合併症化もしれません。胃がん術後だったら縫合不全とかないか?知らずにビルロート1法の幽門側胃切除後の方のCTをみたら下手すると術後であることに気がつかないかもしれません。
こういった情報を簡潔にまとめていただけるといい検査ができます。
造影っているの?
大前提として熱源探しで撮ることが多いCTは侵襲的な検査です。危険な放射線を使って検査しています。なので必要ないのならば撮ってはいけません。したがってベネフィットが上回るときに検査をします。造影も同じです。アレルギー出て大変なことになるかもしれませんよね?造影剤の禁忌や副作用を今更語る気はありません(ググって)がそういったリスクを加味して必要なら造影しましょう。仮に単純CT撮ってみたらよくわからなくて造影CT撮りなおすことになってしまったりすると被爆ばっかり増えてしまいます。これはよくないので過度の造影を避けるのは私は反対です。
事情があってほんとは造影したいけど、できない時というのもあります。虫垂炎じゃね~?と思っている時に見やすさを考えたら明らかに造影したほうがいいです。しかし、透析寸前の方だったらどうしましょう?仕方ないから単純CTで頑張るしかなさそうです。一言造影できない理由を書いてあると検査室全体に納得感がでるのでお勧めです。
逆にどうしても造影が欲しい時があります。造影剤アレルギーがある方だけど1週間前に挿入した腹部大動脈瘤ステントグラフトの感染かもしれなくて単純じゃ評価厳しいみたいな時です。病院によっては主治医の立ち合いが義務付けられていたり、ステロイド等により前処置をルールにしているところもあると思います。依頼文にPHSの電話番号書いておくといいです。そうしておけば技師さんがわざわざ電話帳から名前探す手間省けますでしょう?
そうはいってもね
CT撮らなきゃどうにもならない時もありますよね。正直CT撮ったからって治療方針がかわるわけでもぶっちゃけないんだけど、そうはいっても何にもないことを確認しなきゃならん。すごく気持ちはわかります。前回も似たようなことを書きましたね。そういう時は多分なんにもないですけど~というのをそれとなく伝わるように書けばいいんです。ここは日本で保険診療で安く医療が受けられる国なんですからある程度の過剰医療は許容されますよ。具体例はオーダー例文集の最後みたいな感じですね。
また、臨床的になにが起こってるのか全然わからなくてもしかして画像になにかヒントが隠されているかも?という依頼もあると思います。「なんか具合が悪いのは間違いないんだけど、臨床的に原因がさっぱりわからん。CTでなんか気づくこと無いかな?」みたいな時です。そういう事なら気はすすみませんが仕方ありません。こういう時に「熱源精査」みたいな依頼になりがちで喧嘩になります。正直に「発熱遷延しており全身状態不良。臨床的にfocusハッキリせず。熱源精査お願いします。」と書けば良いのです。
特に救急部で働いているとあるのが時間に追われていて早く撮りたいと言うやつですね。まだ他の所見は出揃って無いけど、もう16時30分だし、日勤帯の内に話をつけないと他科に迷惑かかっちゃう。鑑別も絞り込めて無いけどどうしよう。。みたいな時です。僕も研修医だったので滅茶苦茶身に覚えがあります。そういう時は検査室に電話した時にこそっと言えばいいんです。「すみませんそろそろ当直帯になってしまうので早めに撮っていただけると助かります」仕方ねぇなぁと理解してくれます。全く医学的では無いことですが、円滑に仕事をする為には大事な事ですね。その為にも日頃から挨拶ぐらいしましょうね。顔見知りの頼みは断れない、
オーダー例文集
「発熱呼吸苦で来院。SpO2低下、CXR上は右中肺野の陰影増強。既往に間質性肺炎あり急性増悪疑いです」
「右季肋部痛で受診。Murphy(+)、肝胆道系酵素上昇。胆嚢炎疑いです。既往に胃癌手術歴(+)。喘息あるため単純CTで可能な限りの評価をお願いします。」
「発熱。身体所見上は特記すべき事項なし。血液培養陽性であり、膿瘍等の検索目的です。」
「抗菌薬不応性の発熱。臨床的に発熱のfocusはっきりせず。膠原病等の可能性も考えていますが熱源検索目的です。」
「直腸がんに対してLap-LAR後7POD。炎症遷延しており、縫合不全等の評価目的です。造影剤アレルギー歴あるため前処置します。検査時主治医立ち合いますのでPHS〇〇〇にcallください」
「施設入所中のPt。37度の発熱で救急搬送。認知症のためADL全介助で身体所見とれませんでした。採血上も炎症軽度上昇のみ。熱源検索おねがいします。」
最後に
もっと書きたいことはいろいろありますが3000字超えてしまったので終わりにします。検査に迷ったら放射線科医に相談してみるのも手です。腰椎固定後のかたで化膿性脊椎炎を疑ってるんですがどんな画像検査をするのがおすすめですか?とか聞いてみたら放射線科はみんな一緒になって悩んでくれます。このnoteで少しでも良い画像検査が増えますように。
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