放射線科と仲良くするために -MRI編-
都内で放射線科医として働いているheinと申します。
このnoteは主に医学生や研修医の先生達の為にどうやったら放射線科といい仕事ができるようになるか?という事をまとめたものになります。
久しぶりになってしまった今回はMRI検査の話です。
前回までの内容もマガジンにまとめているのでみてくださいね。
たかが磁石。されど磁石。
大前提としてMRIというのがどうやって画像を撮像しているかご存知ですか?
もちろん水素原子のスピンをRFパルスで倒して、縦緩和と横緩和してくる時に出てくるエコーをコイルで拾ってフーリエ変換して。。。やめましょうか。詳しい原理は放射線科医で興味がある人が知っていればいい話です。かくいう私もなんとなくは解っていますが細かいことは全然わかりません。MRI得意な技師さんたちは本当にすごいですね。
さて、超絶ざっくりとMRIの仕組みを説明するならば
「強力な磁石の中に人体をおいて画像にする」
という事につきます。あなたが勤務したり実習したりしている施設にあるMRIはどのような形をしているでしょうか?
このようなタイプのオープン型MRIだと大体永久磁石による0.4T程度の静止磁場を持っています。
こういう形のボアタイプのMRIだとヘリウムを冷却に使った超電動磁石に夜1.5Tか3.0Tの静止磁場でしょうか。今工事が進められているようとしているリニアモーターカーの静止磁場が1.0Tですからいずれにせよ、非常に強い磁力を使っていることがわかるかと思います。この強力な磁力を使って我々は患者さんに有益な情報を得ているわけですが、問題は正にその強力な磁石であるという事です。
吸着事故。ダメ、絶対。
先ほど述べたようにMRIは非常に強い磁石を使っています。したがって磁性体をMRIの検査室内に持ち込むと強烈に引きつけられMRIの機械に向かって吹っ飛んで行きます。具体的な事例を紹介しましょう。
MRIに拳銃がくっついてますね(笑)
こちらはインドで起きた事件です。ある日インドの大臣がMRIの検査を受けようと検査室に入りました。当然だと言わんばかりにボディーガードが検査室まで付き添ったところホルスターに入っていた拳銃がMRIに引っ張られて吹っ飛びご覧のようになったというわけです。詳しい記事はこちらをみてください。
さあ、仕方ありませんので一生懸命拳銃を引っ張ってMRIから剥がしてみましょう。多分無理です。人間の力で取れるような磁力じゃありません。一度冷却に使っているヘリウムを抜いて超伝導磁石の磁力を落として拳銃を外して、再度冷却し直して、請求額は1000万円以上になります。弁償したくなかったらMRI室に金属は持ち込まないこと。いいですね。ただまあこれだけなら誰も怪我しなくて良かったです。過去には吸着事故による死亡事例も起きています。吸着事故ダメ。絶対。
実際、私の施設でも新人の看護師さんが患者さんを車椅子にのせたまま検査室に入ってしまい肝を冷やしたことがあります。危なかったぜ。。
見落としやすい金属類
MRIに金属を持ち込んでしまう恐ろしさはみなさん解っていただけたでしょうか?実は吸着事故だけでなく強いパルス磁場を金属にかけるとIHクッキングヒーターと同じ仕組みで発熱し火傷につながります。そういった事を知っていただいて気をつけようかなという気持ちになっていただければとても嬉しいです。しかし知識がなければ気をつけようがありません。そこで見落としがちな金属類を紹介しておきます。
その1 ホッカイロ、お灸、エレキバン
腰が痛いということで腰椎の検査〜ってな時はこれを警戒します。そりゃ腰が痛いからエレキバン貼ってるわけでして、ある意味自然なことではあるんですが気をつけてくださいね。
その2 ピアス、ネックレス、ヘアピン
吹っ飛びます。女性のみなさん外してください。余談ですがブラジャーの金具も引っ張られます。女性の方はMRI室に入ると引っ張られて驚くかもですね。患者さんで検査部位的に問題がある時は外していただきます。ちなみに男性がしているタイピンとかベルトのバックルも引っ張られます。
その3 病院のIDカード、Suica、クレジットカード
吹っ飛びはしないかもですが、大体カードの中に記録されているデータが消し飛んでしまいます。再発行めんどくさいですよね。お財布とか名札は外しましょう。当然ですがスマートフォンとかPHSもダメですよ。
その4 シリンジポンプ、ドレーンクランプ、鉗子類
状態の悪い患者さんや、術後の患者さんでこういったものを使っている方がいますよね。外してください。外せないなら検査はできません。心電図モニターなんかも持ち込めないのでMRI検査室用のものに付け替える必要があります。要相談です。
その5 入れ墨、カラーコンタクト、アートメイク
この辺りのものも金属が入っていることがあり要注意です。
その6 マスク
COVID-19でみなさんマスクしてますよね。市販のマスクには金属製のワイヤーが使われているものがあり、頭の検査をするとアーチファクトが出てしまったり熱を持って火傷したりします。適宜使われていないものに交換してもらったりすることがありますので知っておいてください。
融通が効かない検査です
「右肩関節〜頸部痛。精査お願いします」
基本的に無理です。MRIの検査は部位によって使う受診コイルというのが違います。肩の検査なら肩用を使い、首の検査なら首を使います。したがって色々な部位を同時に検査することは物理的にはできなくはないですが、源氏的には不可能です。よってピンポイントに絞って検査を依頼するようにしてください。先程の例で言えば
「右肩関節〜頸部痛。右肩関節健板損傷等につき。同日頸部の依頼あり」
「右肩関節〜頸部痛。頸椎症が疑い。同日肩の依頼あり」
このようにしてMRI検査を2枠とっていただけるととても助かります。検査の時間的余裕ができいい検査ができますし、他の患者さんにも迷惑がかかりません。同様に「卵巣腫瘍を疑ってるけど、ついでに直腸の検査もお願いします」とかも結構難しいです。
これは半分恨みごとになりますがPSA高値で前立腺の検査っていうシチュエーションで「ついでに膀胱と上部尿路も評価お願いします。できればDWIBSも」みたいな依頼はお願いだからやめてください。終わりません。ていうか患者さんを何時間MRIにのっけとくつもりですか。無理ですってば。頼むから検査の目的は絞ってくれ。。。
体動が多い人はね。ぶっちゃけ無理なんだ。
最近のMRIは凄くて、ひと昔前と比較すると格段に体動に強くなっています。とはいえ2歳児とか認知症の方とかだとかなり難しいです。そういう時は主治医の付き添いで鎮静剤を使ってもらうことがあります。申し訳ないですが快く呼び出されてください。あと依頼文にPHSの連絡先と対応可能な時間を書いておいてください。その中でなんとかします。
これがある時は事前に教えてね
心臓に使うペースメーカーの類。これはMRIの機械で誤作動の可能性があるので事前にそれ用の設定が必要です。したがって循環器内科の先生にも連絡しないといけません。古い機種だとそもそもMRIの撮像が禁忌のこともあります。というわけでMRI撮る前には事前に関係各所に連絡しましょう。
水頭症に使うV -Pshunt。MRIの磁力でシャントの圧設定が狂ってしまうので再設定が必要です。こちらも必ず脳神経外科に連絡が必要なので必ず事前に連絡しましょう。
脊髄刺激装置。なかなか最近みなくなりましたが古い機械でMRIに対応していないことが多いです。問い合わせをお願いします。
先生!!!私もMRI読めるようになりたいです!!
いつでも読影室にいらっしゃってください。一緒に楽しみましょう。楽しいですよ。あわよくば研修医の先生方は放射線科医になってしまいましょう。
今回はこの辺りで終わりにします。また書くネタを思いついたら書きますね。
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