放射線科と仲良くするために -手術後編-
都内で放射線科医として働いているheinと申します。
このnoteは主に医学生や研修医の先生達の為にどうやったら放射線科といい仕事ができるようになるか?という事をまとめたものになります。
5回目の今回は放射線科医としても凄くやりがいがある手術後の検査の話です。
手術が好きな放射線科医も多いです
思い出話になってしまいますが僕は学生時代から放射線科医になると決めていました。それなので研修医の時は許される限り外科系をローテートさせてもらいました。呼吸器外科で胸骨正中切開で心膜合併切除の胸腺腫、婦人科のラジパン、一般外科でのHPD、泌尿器でのネオブラダー、耳鼻科での喉頭亜全摘、脳外科での髄膜腫、血管外科でのYグラフト。全部僕の放射線科医としての宝物です。あの時に実際に術野に入らせて頂いた事は日々の読影の際の解剖学的構造の把握にとても役立っています。
実際、放射線科に入局した際に先輩からは以下の本を熟読するように勧められました。
外科医ならみんな知っている名著ですね。手術操作で触る解剖学的構造やメルクマールにしている臓器が美麗なイラストで非常にわかり易く書かれており、とてもいい本です。特に術前読影の際には参考にしていて手術の際の目安にする動静脈に破格が無いかや、郭清してくるリンパ節のうちどこが腫れているかなどが指摘できるように心がけています。
なぜこのような話をしたかと言うと、放射線科医は結構手術の操作がどうやって行われているかを考えながら読影しているということを知って欲しかったからです。だからね、、、
術式ぐらい教えてください!
実際にあった症例で術式を放射線科に教えるメリットを提示させてください。
「子宮頸癌術後。再発チェック」
色々言いたいことはありますが悪くない依頼文です。まだ30代の患者さんです。私が読影したところ両側の閉鎖リンパ節領域に一致して軟部陰影が認められました。リンパ節再発だな!と思ってレポートしました。僕の指導医も同意見です。大外れでした。なんと軟部陰影の正体は温存されていた卵巣だったのです。もしかしたら卵巣静脈をしっかり追いかければ診断できたかもしれません。とはいえ依頼文に
「子宮頸癌術後。両側卵巣は温存しています。再発チェックです。」
こう書いて下さっていれば違ったでしょう。多分この軟部陰影は卵巣なんだろうなと考えて、「骨盤内の両側に認められる軟部陰影は温存された卵巣を見ているものと思われますが、リンパ節転移も鑑別です。適宜経過観察をお願いします。」とレポートできます。という訳で誤診しないためにも術式は書いて欲しいのです。具体的にはなにをとったのか?どんな方法で再建したのか?といったことです。
もう一つ僕が経験した症例でインプレッシブであったものを紹介します。IPMCに対して膵頭十二指腸切除術を行われた方の再発検索のCTでした。しかしいつも良く見るchild変法とは違う再建に見えます。なんだこれ?と思ってカルテを読んでみました。Partington-Rochelle手術というのを同時に行われたようです。そんな手術知らね〜よと思った方いますよね。その通りです。以下にresearchgateから引用させて頂いたオペの概略を示しておきます。
膵管の排泄障害が首座となって、慢性膵炎を起こしている人に行われる手術で挙上空腸を切り開いた主膵管に直接縫い合わせる手術です。流石にこれは僕も知りませんでした。確かに術前のCTを見ると膵の石灰化が高度にみられていて中々具合が悪そうです。
この症例を通してなにが起きたのでしょうか?僕はただ再発を探しただけでなく、新しい術式を一つ知ることができました。そうです依頼文に術式を書いておくと放射線科医をアップデートすることができます。もう次回から僕は同じ術式のCTをみても、なんだこれ?とはなりません。これは唯のお願いでもありますがそうやって普段の診療で知識の習得ができるととても助かります。
また術式によって起きる合併症というのは全然違います。そういう事の診断のためにも術式は書いて頂いた方が助かります。折角だから一緒に良い仕事したくないですか?患者さんのために。
いつオペしたか大事なんすよ
例えば「胆嚢癌術後精査」という依頼があったとしましょう。これが 手術してから3日目なのか、3ヶ月後なのかで検査の目的は全然違いますよね。術後3日目であれば手術合併症を疑っていて、それを診断しようという検査でしょう。逆に3ヶ月後であれば再発が無いかをチェックしているものですよね。レポートの質もかなり変わります。前者のような術後すぐのCTに対して「no evidence of recurrence or metastasis」なんて書いたら外科医を馬鹿にしてますよね。ちゃんと取り切ってきたわ!と言われて喧嘩になりそうです。ここで書くべきなの「術後として問題となるような出血、膿瘍形成等は指摘できません」です。困ったことに放射線科は普段あまりカルテをみません。というか一々みてられません。したがって手術してからどれぐらい時間が経っているかは依頼文をみないと解らないのが本当のところです。なのでいつ手術したのかを書いていただけると助かります。
具体例を2個ほど出します。
「腹腔鏡下腎摘出術後精査」
この依頼の検査で腹腔内にair densityがあったらどうでしょうか?それが術後3日ぐらいであれば、気腹操作の影響でしょう。これが術後1年であったらどうでしょう。多分偶発的に見つかった腸管穿孔の可能性が高そうです。焦る奴ですね。
「胃癌術後再発チェック」
良くみたら前回のCTでは微小すぎて指摘するか微妙だった肺結節が増大しています。再発でしょうか?でもカルテをみてみると胃癌の手術は5年前で病理診断はT1N0M0で凄く早期のものだったようです。もしかして再発じゃなくて原発性肺癌かも?と考えることが変わってきます。このように実はわかっているなら病理も教えてくれるととっても助かります。術前の画像を見直すことで答え合わせもできますしね。
管が一杯ついてる人は大変なんです
全ての手術がすんなり終わる訳ではありません。CABG後の人で吻合部に動脈瘤ができたかもしれません。術後の出血で緊急止血をやるかもしれません。骨盤内膿瘍が起きることだってありますね。
もちろん周術期合併症の診断やIVRは放射線科として気合が入る仕事です。ただ問題がありまして、大体そういう患者さんは沢山のデバイスがついています。食道癌の術後の方でドレーン9本入って、挿管もされてるなんてことは良くあります。病棟から検査室に移動するだけでめちゃめちゃ大変です。場合によってはバックバルブマスクを誰かが揉んでなきゃいけないかもしれません。流石に放射線科の技師さんが気道確保やら何やらするのは無理です。そういう時は医師の付き添いが必要なこともあります。困るのは主治医が別の手術に入ってしまっている時などです。この大変そうな人やるぞ〜と気合を入れたら医者がいないので検査後回しで!!となると時間の調整も含めてとても困ります。
「小脳出血に対して開頭血腫術後4POD。頭蓋内評価のため
午前中にお願いします。挿管管理中であり医師付き添います。
検査時脳外科病棟番PHS(12345)にcallください。」
太字の所に円滑に仕事をしようという心意気が溢れてますね。こういう先生は素敵です。
オーダー例文集
「右乳頭上腎癌(T1a)に対して腎部分切除後3年。再発チェックお願いします。」
「Stanford Aに対してBetall後4POD。ドレーンより出血あり至急お願いします。」
「Lap-LAR 10POD。炎症遷延しており膿瘍形成等の評価目的です。」
「小脳出血に対して開頭血腫術後4POD。頭蓋内評価のため午前中にお願いします。挿管管理中であり医師付き添います。検査時脳外科病棟番PHS(12345)にcallください。」
「右真珠種性中耳炎に対して鼓室形成術(3型)後.1POY.」
最後に
だらだら書きましたが言いたいことは簡単です。
いつどんな手術をしたのか?なにを手術したのか?なにを疑ってるのか?教えてください!
今回は軽めに終わります。また次回書いたらよろしくお願いします。
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