最近みた映画「ムーンライト・シャドウ」のハナシ
もうすっかり肌寒くなり、あったかい服装をして出かけるのが楽しくなってきました。寒いけど、こんな季節のお出かけは夏のワクワクとは違った魅力があって大好きです。
こんな肌寒くなる季節にピッタリな雰囲気の作品を鑑賞してまいりました。小松菜奈さん主演、吉本ばななさん原作の映画「ムーンライト・シャドウ」監督は、マレーシア出身のエドモンド・ヨウ監督です。小松さん演じるさつきの恋人役となる等を演じるのは、宮沢氷魚さん。宮沢さんの、透き通った瞳に鑑賞中、幾度となく引き込まれました。
本作は、世界30カ国以上で翻訳されている吉本ばななさんのベストセラー「キッチン」に収録されている「ムーンライト・シャドウ」を映画化した作品です。恥ずかしながら、私、吉本ばななさん作品は一度も拝読したことがなく、原作を知らない状態で観たのですが、鑑賞後は、原作を読んでみたい!という気持ちに駆られすぐさま「キッチン」を購入いたしました。もっと早く読んでおけばよかった作品だと心から思っております。
以下が、公式サイトhttps://moonlight-shadow-movie.com/から引用してきた物語のあらすじです。
さつき(小松菜奈)と等(宮沢氷魚)は、鈴の音に導かれるように、長い橋の下に広がる河原で出会った。恋に落ち、付き合うまでに時間はかからなかった。等には3つ下の弟・柊(佐藤緋美)がいて、柊にはゆみこという恋人(中原ナナ)がいた。初めて4人で会ったときから意気投合し、自然と一緒に過ごす時間が増えていく。食事をしたり、ゲームをしたり、ゆみこが気になっているという〈月影現象〉について「もしも現実に月影現象が起きたら、誰に一番会いたいか?」を語りあったり。何気ないけれど穏やかで幸せな日々が過ぎていくなかで、別れは前触れもなくやってきた。
等とゆみこが死んだ──。
深い哀しみに打ちひしがれるさつきと柊。愛する人を亡くした現実を受け止めきれず、ショックで食べることも忘れ、ひたすら走るさつき。そんなさつきを心配しながら、ゆみこの制服を着て何かを感じようとする柊。それぞれの方法で哀しみと向きあおうとしていた。
ある日、2人は不思議な女性・麗(臼田あさ美)と出会い、少しずつ“生きていく”という日常を取りもどしていく。そして、以前みんなで語り合った〈月影現象〉に導かれていく。もう一度、会いたい、会いに来てほしい─。その現象とは、満月の夜の終わりに死者ともう一度会えるかもしれない、という不思議な現象だった……。
映画で印象的なのは、やはりなんとも言い表しがたい不思議な空気感でしょうか。この映画、なんだかとっても不思議なんです。不思議なんて一言では表現しきることが難しいのですが、そこは私の語彙が無いのと、そんなに素敵な表現方法を持ち合わせていないので、ご了承ください…。映画を観終えてから、原作「キッチン」を読んだのですが、自分の語彙の無さと表現の稚拙さを痛感させられました。吉本ばななさん、どんな生活を送ってどんな景色を見ていたら、そんな表現が思いつくのか教えてほしいです。まるで私とは見ている景色が違うんじゃないかと思わせられました。でも、突飛すぎて何を言っているのか分からない、なんてことはなくて、この表現はあの時のあの瞬間を切り取っているんだなと納得させられてしまうのが、これまたすごいところです。感服いたしました。吉本さんの作品はキッチン以外、拝読できていないので、これからすべての作品を読もうと決心しております。
小松さん演じるさつきと、宮沢さん演じる等の織り成す空気感は非常に落ち着いているのですが、お互いを想う気持ちはあふれ出ている様子が鮮明に頭に残っています。しかし、等はどことなく冷たいような空気というか、そこにいるのにまるでいないような感じがします。等の目は真っすぐと、こちらを見ているのになんだが違うところを見ている気もするんです。作中、さつきが等に触れる描写がいくつか出てきます。それは、きっとさつきが、そこに等が存在していることを確かめているのかなと感じました。二人で一つベッドに眠っているとき、さつきはふと目を覚まします。そして、等の呼吸を確かめ、胸に耳をあて心臓の音を確かめます。そして等がそこにいることを確信し、安心したように再び眠りにつくのでした。
そんな等の、独特の雰囲気を表現するのに宮沢さん以外、ぴったりの俳優はいないのではないかと思うほどでした。鑑賞後、原作をよんでみて改めてそう感じました。宮沢さんの透き通るような瞳は本当に魅力的です。等の、生きてそこに存在しているのに醸し出している儚い空気感は、冷たいような、でも同時にとても温かいような感じもしました。
さつきの身にまとう洋服はカラフルで、さつきの内面(心情)を表現するのに非常に重要な役割を担っていました。等と恋をし、心地いい日々を送っているさつきの洋服は、赤やピンクといった明るい色です。さつきの暮らす部屋も、色鮮やかなパッチワークがあったりと、カラフルで個性的なさつきの好みが分かります。しかし、等とゆみこが亡くなってからは、さつきは黒やグレーといった暗い色しか着ません。小松さんの演技だけでなく、衣装においてもさつきの悲しみと喪失感が表現されていました。カラフルな部屋に暗い色を纏ったさつきがいる様子は、ミスマッチな感じがするのですが、そのミスマッチさが、余計にさつきの喪失感を表現しているようでした。
↓さつきの部屋(https://www.cinemacafe.net/article/2021/09/05/74619.html)より引用
この映画を観て、ふと自分の大事な人が亡くなったときのことを考えました。さつきや、等の弟の柊の立場に自分が立たされた時のことを。自分ならどうやって前を向くのか、前を向くまでの行動や自分の気持ちとの向き合い方についてです。例えば、仲のいい友人と一緒に過ごして寂しさを紛らわすかもしれない、逆に誰とも会いたくなくなって家に引きこもるかもしれない、趣味に没頭するなどして事実から少しでも距離をとるかもしれない、そんないろんなことが想像できました。この映画で、大切な人を無くした二人はそれぞれ思い思いのやり方で死というものに向き合っているようでした。さつきは早朝にランニングに出かけ、柊はゆみこのセーラー服を着て過ごします。彼らにとって、その行動は薬の様なものなのでしょう。喪失感に向き合うため、悲しさを受け入れるため、目的はなんにせよ、二人はそうすることで自分を保とうとしていたのかもしれません。薬を飲むことで、症状の悪化を防いだり、回復に向かうようにです。
自分の大切な人が亡くなったときに、自分自身を保つための薬は人それぞれで、種類は何万通りもあるはずだと感じました。一見、周囲から見れば変だと判断されたとしても、本人にとってベストなのであればそれでいいのです。薬だって、症状やその人の体質などによって変わるのですから、みんながみんな同じように悲しみ、喪失感と向き合うわけではないのでしょう。
映画終盤で、さつきによる等に対しての気持ちを表現したナレーションがありました。さつきから等に対しての手紙のようなものだったのかもしれません。淡々と、さつきの気持ちを吐露していますが、どこか前を向いたような感じがして、とても好きなシーンでした。内容もさることながら、小松さんの声の透明感や真っすぐさが余計に感動を誘るものでした。
喪失感に向き合う人々の物語でしたが、あくまでも最後には明日という未来や、希望のようなものに向かっていく再生の物語として、とても良い作品でした。不思議な世界観が続くので、ふだんアクションなどを中心に観る方にとってはつまらないと感じるかもしれませんが、ゆったりとした世界観や雰囲気が好きな方には刺さる作品だと思います。
ぱーしー
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