【YMS】子どもの頃から大好きだった作家のお家に行った話②
(①のつづき)
コロナの感染拡大が急加速し、学校も閉鎖になってオンライン授業が始まったばかりの頃。事前に体調を確認しあい、夕食会は予定通り行うことになった。
その日、私は早めに友人Aさん宅へ行き、ご夫婦を待っていた。少し緊張しながら出迎えると、朗らかで陽気なおじさんと、にこやかで優しそうな奥さんが現れた。友人Aさんとお二人はよく知った間柄のようで、とめどないお喋りが続く。もちろんネイティブの英語なので、私は必死でリスニングチャレンジだ。
友人Aさんが作ってくれたカツカレーを食べながら、いろんな話を聞いた。やっぱりDWJの本の話は心が躍った。そもそもDWJを知っている人に会うこと自体まれなので、私よりもDWJのことを知っている人と話すのは、なんだか胸の奥をくすぐられているような変な感じがした。宮崎駿が映画の取材をしに来た時の話もちょっと聞けたりして、なんだか特別な人間になったかのような夜だった。
そしてついにその翌日、私は数週間前に見に行った、あのグレーの家へとお邪魔したのである。いざ意を決して中に入ってみると、外から見るよりなかなか広い。階段を上るとリビングがあり、大きめの窓からは陽の光に照らされたガーデンがよく見えた。暖炉のそばにはひじ掛け椅子があって、「DWJがよく座っていたよ」と教えてもらった。
この日の目的は、DWJの所有していた本のリストを作るため、書斎にある本の記録を取ること。所有本のリストといえば、大学時代多少なりと文学研究をしていた身からすれば、よだれが出るほど欲しい、めちゃくちゃ有益な資料である。
書斎は想像していたよりも小さく、こじんまりとした部屋だった。それでも並べられた本棚には、パンパンに本が詰まっている。さっそく一冊一冊取り出して、写真を撮っていく。小さな窓からは街が見渡せた。
いろんな本があった。版の違うさまざまなDWJの本、民話や妖精物語の本、占いの本など。なんと日本語の本もあった。友人Aさんと一緒にのぞき込むと、どうもDWJの物語を使った英語学習のための本らしく、かなり古くて驚いた。じっくり読んでみたかったなあ。
お昼は奥さんが用意してくれたパスタをいただいた。次から次へと溢れくる情報に頭がいっぱいで、食事中の会話はなんとなく聞き流していたら、急に「どれがいい?」と聞かれて一瞬焦る。どうやら本を一冊くれるらしい。何がいいかとあれこれ話していると、どうも日本語に翻訳されていなさそうな本の名前が出た。とにかく見てみようということで、最上階まで階段を上る。
そこにはDWJの本がたくさん置いてあった。献本の余りだろう、同じものが10冊以上並んでいるのもある。しかし、さっき話していた本は1冊しか見つからなかった。最低1冊は残しておかないといけないとのことで(そりゃそうだ)、別のものを選ぶことに。
本棚をじっくり見渡してみるが、なかなか決められない。お気に入りの物語はいくつかあるし、そもそも英語と日本語のタイトルが全然違うので、どれがどの本なのか見分けがつかない。困っていると、「これなんかどう?」と言われて差し出されたのは、短編集だった。中のお話はほとんど知っているものだが、何よりこの本、校正途中の未完成の本らしい。「目次のところに誤植があるんだよ」と説明してくれた。つまり、どこの本屋さんにも売ってないモノということだ。
「これにします!」
息子さんが笑いながらその本にサインを書いてくれた。人生初めてのサイン本だ!!本人のじゃないけど(笑)
その後ももう少し作業を続けたが、結局ぜんぶは終わらなかった。あと2,3回くらいはかかるんじゃないかな。ご夫婦は「貴重な資料だから、またいつでも続きをやりに来て」と言ってくださった。ということで、またこの家に来ることができそうだ。
とにかくその日は胸いっぱいで、もらった本を抱きしめながら幸せな気分で家に帰った。私の記憶が正しければ、その翌日に外出禁止令が出され、友人Aさんともその日以来会えていない。とはいえ連絡は取り合っているので、いまはとにかくこの状況が早く良くなってくれるのを祈るのみだ。
何度も言うが、私はそもそもDWJが好きというだけで、なんのコネもなかったし、「ブリストルに住んでいた」以上の情報も持っていなかった。個人的な願望でしかなかった想いがここまで繋がるなんて、やっぱりダイアナの本の魔法のおかげだろうか。
(DWJの息子さんと友人Aさんにいただいた本)
憧れの作家さんの家に行けることになったと話したとき、「それで目的達成して満足しちゃったりしない?」と聞いてくれた友達がいた。とんでもない、私にとって今回のことはいわばボーナストラックのようなもので、山を登ってたらたまたま超珍しい動物の巣を見つけてしまった、みたいな感じだ。
DWJの物語でよく舞台となっているウェールズにもまだ行けてないし、ストーンヘンジを見ずに帰国なんて絶対に嫌だ。他にも知りたいことや見たい場所は山ほどある。私のファンタジー探求の旅はまだまだ続く。