【イギリス見聞録】フィクションが見せるのはリアルなイギリスか
イングランド南西部にある都市ブリストルを起点に、ちょこちょこと訪れたイギリスの街や村について、私見と偏見まみれの記録です。
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細い路地に並ぶ古いレンガ造りの家。立派な教会。どこまでも広がる放牧地。まるで200年前にタイムスリップしたかのような古い村。
日本のガイドブックではコッツウォルズの村として紹介されているが、正確にはここはコッツウォルズではない。コッツウォルズ地方のすぐそば、Wiltshire(ウィルトシャー)という地域に位置する。全域がナショナル・トラストに登録されている村、Lacock(レイコック)である。
イングランドの映画村
近年、ハリー・ポッターのロケ地として有名になったが、他にもダウントンアビーなど、いろんな映画の舞台として使われているらしい。理由は行けばすぐわかる。古めかしい家や趣のあるお店は、まるでそれ自体がアンティークのようだ。小さい村を歩いていると、本当に映画のセットの中に迷い込んでしまったかのように思えてくる。しかし実際は、今も普通に人が住んでいる村だ。それがイギリスの面白いところである。歴史のなかに人々の生活が溶け込んでいる。
私が訪ねたのは1月上旬だったが、当たり前のようにクリスマスツリーが飾られていた。すぐお正月モードに切り替わる日本と違って、ここでは年に一度のビッグイベントの余韻を、年が明けても楽しむようだ。雛人形のように出しっぱなしにすると婚期が遅れる、みたいな言い伝えもないのだろう。
カメラとハリポタと写真と歴史
ちょこちょことお店をのぞいたり教会を見学した後、Lacock Abby(レイコック・アビー)へ。この修道院が、ハリポタのロケ地としてこの村を一気に有名にした場所である。
ハリポタのロケ地はイギリス全土に散らばっていくつも存在する。ここはそのうちの一つにすぎないが、私にとっては初めての聖地巡礼だったので、わくわくしながら次々とカメラのシャッターを切っていた。ところが、いざアビーの中へ入ろうとしたとき、突然キューンという音とともにカメラの電源が落ちた。まさかの充電切れ。なんでやねん。仕方なくスマホのしょぼいカメラで撮影を続ける。
ここが、映画の中でホグワーツの回廊として使われたそうだ。ああ、ちゃんとしたカメラで撮りたかった!人がいっぱい、クリスマスの飾りもいっぱいでなかなか良いショットがとれない。
アビーは歴史的な建物としてもなかなか魅力的だった。当時は何に使っていたのだろうか、とつい考えてしまう不思議な部屋がたくさんあった。この修道院は1232年に設立され、現在の建物は1400年代に建て替えられたものだそうだ。それでも約600年前か。その後、1800年代にここに住んでいたWilliam Henry Fox Talbotという人が写真を発明したらしい。いろんな歴史がみっちみちに詰め込まれている。
一通り見て回った後、アビーの周辺に広がるガーデンを軽く散歩して、この日はレイコックを後にした。
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ナショナル・トラストのウェブサイトでは、レイコックは「A quintessential English village」だと紹介されている。quintessentialとは、何かを代表するのに最適で完璧な事例、という意味である。日本語にすると「典型的なイングランドを象徴する村」という感じか。まさにその通りだと思う。古き時代のイギリスのイメージが、そのままそこにあった。