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原子力発電再稼働には賛成?反対?

政府は2月18日に新たな「エネルギー基本計画」と「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。
内容としては、脱炭素電源を大幅に増やすことを盛り込んでいます。
この実現のためには、原子力発電所の再稼働や、風力発電などの再生可能エネルギーの大幅な拡充が必要です。

第7次エネルギー基本計画での電源構成目標(日本経済新聞より)

それを受けて、2月18日と19日の日経新聞の経済教室では、「原子力発電の将来像 上・下」というタイトルで論説が掲載されていました。

著者は、
原子力工学がご専門の東京大学教授の岡本孝司さんと、
工学博士で長崎大学教授の鈴木達治郎さんとの
お2人です。
このお2人の論説は、主張としては相反するものだったので、私にとってはとても興味深かったです。

鈴木さんは、閣議決定されたエネルギー基本計画について触れ、これまで「原子力発電への依存度を可能な限り低減させる」と書いてあった計画から一転し、「建て替えも含め、原子力も最大限活用する」という文言が書かれたことを述べています。
そして、この政策に合理的な根拠があるのかどうかを検証しています。

そもそも政府が、原子力発電を最大限に活用するべきである、という意見へ変更した理由として、
①経済性
②供給安定性
③温暖化ガス削減の必要性
の3点が挙げられます。

ただ、
①経済性については、
2021年時点の経済産業省から原子力発電は「最も経済性の高い電源ではない」旨の発表がされていました。
また、再生可能エネルギーのコストが低下傾向にある一方で、原子力発電のコストが上昇傾向にある事実からもわかります。
安全性を向上させるための追加投資が嵩んでしまう、というのが現状であり、それを受けて必要性と負担の度合いについて透明性の高い議論が必要であると述べられています。

電源別の原価推移

また、
②供給安定性に関しては、
一定出力で安定した発電容量を確保できることが原子力発電のメリットの一つではありましたが、地震による停止や、停止後の再稼働の不確実性が増すなど、発電容量を確保できないリスクも顕在化してきています。

③温暖化ガス削減の必要性についても、
原子力発電は発電時に温暖化ガスを排出しないメリットはあるが、最もコスト効果が高い手段とは言えない、というのが鈴木さんの見解です。

このように、原子力発電を最大限活用する、という政府の根拠は薄弱である、というのが鈴木さんの見解です。

原子力への市民の信頼回復には、透明性の確保が不可欠であり、平時から真摯な対応をしていく必要があるものであり、エネルギー政策が市民や国際社会に信頼されるものとなるよう、政府には見直しを図ってもらいたい、とまで鈴木さんは書かれています。

他方、もう1人の著者である岡本さんのご意見は、「小型炉推進で技術途絶防げ」という題の通り、鈴木さんとは真逆の内容です。

海外では原発を推進する動きが強くなっていることに触れ、2023年に開催された第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、日米英や韓国などを含む22カ国によって、2050年までに世界の原発の設備容量を2020年比で3倍にするという宣言が出されていることを書かれています。

米ドレスデン原発の発電量推移

また、日本では福島第一原発事故のこともあり、原発に対する国民の信頼が十分にあるとはいえない状況に触れつつも、全原発の設備をフル稼働すれば3000億キロワット時という全体の3割の電力供給が可能であるため、安全性の向上を急ぐ必要がある点に触れられています。
そして、そのための技術として、安全性の高い小型モジュール炉(SMR)を建設していくべきだ、というのが岡本さんの主張です。

小型モジュール炉は投資額が小さく、投資の回収期間も比較的短く、安全性も高いと言われています。
岡本さんはそうした主張に加えて、原子力発電に関する技術面での学問的継承がなされていないことを課題として挙げられています。

このように、
適切な技術力を培うことで原子力発電の課題を積極的に改善するべく取り組む岡本さんと、
そもそも原発を最大限に利用しようとする政府の根拠は薄弱であり、まずは法整備をするべきであると述べる鈴木さん、
という原発推進派と否定派のお二人の見解を読めるのはとても勉強になりますね。

お二人の意見を聞いて、自分はどちらの思想・思考なのかを考える材料になります。
私はどちらかと言えば、法整備を含めた議論はもっと的確にするべきであるという鈴木さんのご意見は理解しつつも、原子力発電を新しい技術によって再展開させようとする試みは評価するべきであると考えています。
というのも、人類の歴史は、そうした新しいチャレンジの上に築かれていると思っているからです。
ですので、このような活動をこそ政府は積極的に応援・推進し、それに基づいて地域住民にも説明するべきではないかと考えます。
そうした意味で、私は今回のお二人の論考を読んで、原発推進を検討しても良いと考えました。

2024年11月21日に再稼働した美浜原発(日経新聞より)

とはいえ、もちろん安全性は最優先事項であり、福島第一原発のような事故は2度と繰り返してはいけない、というのも大前提です。
政策というのは、何か一つの回答がある、というわけではなく、様々な利害や経緯を踏まえた上で進めていかなければいけないものも多いかと思います。
それは企業経営でも同一です。
それをどういう思想やミッションでバランスを取って活動し、組織を率いていくのか、そういうことが時のリーダーには求められているのだと思います。
そうした視点で今回の論考を読むと、自身が何をするべきなのか、考える材料になりますね。

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