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【ATOMO連載】体験型エンタメ情報局出張所 #9「ARG(代替現実ゲーム)」(2023年11月号掲載)
全国の体験型エンタメ施設/店舗等にて隔月刊で配布中の体験型エンタメ情報誌「ATOMO」で連載している「体験型エンタメ情報局出張所」のバックナンバーを紹介。この連載では毎回体験型エンタメやそれに近しいカテゴリをピックアップして簡単な解説を行っています(2023年11月号掲載分/表記等は掲載時点のものです)
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今回はついに!ARG(代替現実ゲーム)を取り上げます。
「ついに」というのは、この出張所の元サイトである『体験型エンタメ情報局』は、もともとARG情報を中心とした情報サイトだったからです。(編注:今ご覧になっているこのマガジンです)
ですので『体験型エンタメ情報局』にはARGの解説や事例が満載です。今回の記事でARGに興味を持った方はぜひサイトを訪問いただければと思います。
(編注:旧サイトには大量のログがありますのでこちらもご覧ください)
ARGとは
ARG(=Alternate Reality Game 日本ではよく「代替現実ゲーム」と訳されます)とは、リアルなメディアや空間を使って日常の中に物語を潜ませ、その物語に自ら参加することで、仮想と現実の境界を行き来するゲームです。
ARGの元祖は2001年にスピルバーグの映画『A.I.』のプロモーション『The Beast』と言われています。
映画『A,I,』のポスターや予告編に掲載されたスタッフリストの中に「知覚機械セラピスト」という奇妙な肩書きのスタッフが掲載されました。そのスタッフ名を検索するとプロフィールサイトが発見され、人工知能研究の専門家であることがわかりますが、そこに書かれている論文の年号はすべて未来のものでした。
このサイトをきっかけにパズル、写真、Flashアニメーション、音声、ビデオ、ライブイベント、ファックスなどさまざまな現実メディアが交差して進行するかつてない構造に参加者は熱狂しました。
ARGが人々を魅了したポイントはいくつかあります。この物語は本当に現実に起こっていることかもしれないと感じさせる強烈な没入感、他の参加者と協力しながら目的を達成する全体戦としての盛り上がり、そして自らが物語の一員になったり時には物語そのものの行方を自分たちが決めることのできる介入感など。
その後、ビデオゲーム『HALO 2』のプロモーションとしてARG人気を決定付けた『I Love Bees』(2004年)、北京オリンピックのプロモーションとして日本も舞台となった『The Lost Ring』(2008年)、そして映画『バットマン ビギンズ』と『ダークナイト』の間をつなぐ世界最大のARG『Why So Serious?』(2007年~2008年)など、アメリカを中心に10年ほどの間にARGは規模をどんどん拡大していきます。
大規模ARG時代の終わり
しかし、2010年を過ぎたあたりから、アメリカでも開催期間が半年から1年といった大規模なARGは徐々に姿を消していきました。理由としては、最初の頃ほど新しいエンタメとしてのインパクトが薄れてきたことと、規模の拡大による運営コストの増大、そしてマネタイズが難しくその運営費をプロモーション予算に依存しがちなこと、などが原因ではないかと思います。
しかしながら、中小規模のARGは今でも頻繁に行われています。アメリカを中心とした海外のARG情報サイトの老舗「ARGNet」では毎月のように新しいARGが紹介されていますし、最近はARGの専門誌「ARG Digest」も登場しています。
国産ARGの復活
では、日本のARGの状況はどうでしょう。実はアメリカでのARGの成功を受けて2007年あたりから国内でもさまざまなARGが登場しました。『名探偵コナン カード探偵団』、『ヴィッツARG』、『3D小説 bell』などなど。
しかし、アメリカ以上に予算の壁が大きかったのと、ジャンルを牽引するほどのヒット作がなかったこともあって、2015年くらいからは目立った動きがない状況が続いていました。
しかし、最近国内のARG復活の兆しがあります。その中でも大きな役割を果たしているのが『Project COLD』シリーズでしょう。
2020年11月~2021年2月の間に行われた『Project:;COLD 1 case.613』はVTuber的な高校生ガールズバンドのメンバーが事件に巻き込まれ、YouTubeとTwitterを中心に展開された今風の物語構造が、それまでARGを知らなかった新しい層を開拓することに成功しました。
最新作『Project:;COLD 2.0』も2024年2月7日から本編スタートすることが発表され、2023年9月からすでにプレイベントがスタートしています。
『Project COLD』シリーズ以降も、2021年『ガラパゴスの微振動』や『神椿市建設中。』、今年2023年では『BlueFairyChallenge』や『Ave Mujica』ARGなどが開催され、日本ならではの新しい動きが起こっているのを感じます。
手法としてのARG
一方でジャンルとしてのARGではなく、現実ではないのかと錯覚される要素を混ぜたり、現実にあるさまざまなメディアを交差して物語を紡ぐといったARGで定着した手法が、謎解きやビデオゲーム、ボードゲーム、マーダーミステリー、イマーシブシアターなど、さまざまなジャンルに取り入れられる例も増えてきています。
SCRAPはこういった要素を家で遊べる作品を中心に積極的に取り入れています。たとえば20023年9月に発売された書籍『人が消える街』は、いっけん何の変哲もない熱海の写真集の中に巧妙に秘密が隠され、オンラインのさまざまな情報と照らし合わせながら謎を解いていきます。
また、ビデオゲームとの融合も増えてきました。2021年に発売された『Inscryption』では、ビデオゲーム内で残った謎を解くためにゲーム外でARGが開催され、『Inscryption』の世界を広げることに成功しています。
こういった手法はさまざまなエンターテインメントに応用できるため、今後もみなさんが目にすることが多くなると思います。
文・石川淳一(エレメンツ)
ゲームデザイナー/プランナー
IGDA日本SIG-体験型エンターテインメント正世話人、
『体験型エンタメ情報局』編集人。
最近はイマーシブシアターにどっぷりで、なかなか他の体験型エンタメをやる時間がないのが悩み。
(WEB版編集:田中宏明)
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