Ami Ⅱ 第11章-クラトとテリ②
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アミが近づいてきて言いました。
「ペドロ、あなたは、あなたの真のレベルより低い行動をしています。」
僕は、もっとちゃんと説明しろと言わんばかりに彼を見ました。
「小さな子供が食事をする時に、服や顔をすべて汚してしまいますが、彼らのレベルに合った行動なので誰もそれを咎めません。
しかし大人が同じことをすると、それはレベルに合った行動では無いので、非難されることになるのです。」
「それが僕とどう関係あるの?」
「自分の使命感で行動しなかったり、期待されていることより低いことをしたり考えたりすると、すぐに修正されるのです。
だから苦しみます。
あなたが自分らしく、一番良い面で、ありのままに行動すれば、あなたの人生はいつもとても美しいものになるはずなのです。」
僕は、彼の言葉を長い間深く考え、彼が正しいことを理解しました。
そして別人になる努力をすることにしたのです。
「いや、誰かになる必要はありません。
ただ本当の自分らしくいればいいだけなのです。
さあ、皆とお喋りしに行きましょう。」
クラトは、隣の小屋の裏の果樹園で、小さな菜園や果樹など、自分の世界を構成する全てのものをビンカに見せていました。
2人の仲良さそうな姿に腹立たしさが頭をよぎったけど、すぐに打ち消し、行動と思考をよりよくしなければならないことを思い出したのです。
「ブラボー!進歩しましたね。」
とアミは嬉しそうに言いました。
「どういう意味?」
「あなたは進歩しています。
自分の考えを観察し、自分に合わないものを拒絶し始めました。
もう目覚めは直ぐそこです。
人は一般的に、自分の思考に注意を払うことはないのです。
いろいろな悪い考えが頭をよぎっても、それに気づかないからこそ、自分を高く評価してしまうのです。
これでは進歩がない。
あなたは、自分を観察し、自分をよく知り、自分に合わないことを頭から追い出す力を身につけつつあるのです。」
「やあ、お前さんら、このムフロの大きさを見に来てくれんかね。」
クラトは、プラスチックのような素材でできた赤く光る瓶をいくつか手に持って、僕たちに呼びかけました。
ビンカはその1つを手に取り、その瓶のような物に口を近づけ、嬉しそうに頬張ったのです!
アミは僕の戸惑いに気づき、「これは、瓶ではなく、瓶の形をした果物です。」と笑い飛ばしました。
ビンカが、僕にその果物を差し出したので、僕は「食べてもいい?」と尋ねるようにアミに視線を向けました。
すると「少しだけです。」とアミ。
かじってみると、その食感はリンゴを思わせるもので、食べ慣れたものではないのですが、その甘さをすぐに気に入りました。
「どうやって、こんなに大きなムフロができるの?」
とビンカがクラトに尋ねると、
「簡単なことじゃよ。
夜、わしが木に歌を歌うと、木はそれをとても気にっていて、幸せになるんじゃ。
幸せな人は、誰でも愛を持って仕事をするんじゃよ。」
「愛があれば、すべてがうまくいき、良い実を結ぶのです。」とアミ。
僕はその木は、葉と枝と実と幹しかない普通の木に見えるんだけど、口と目と耳があって、クラトとコミュニケーションできる知的な宇宙人なんだと思いました。
ビンカは「木に向かって歌うなんて......可笑しいわね!」と笑っています。
しかし、アミは「クラトは正しいです。」と納得顔をしていました。
「木や植物は小さな意識を持っています。
愛情、またその波動にとても敏感です。
悲しんだり喜んだり、恐怖を感じたり信頼したりする、意識のある存在なのです。」
クラトはビンカに
「もっと食べるんじゃ。
ムフロは力が出る。
こうやって食べて強くなるんじゃ。」
と勧めました。
そして、クラトは両腕を上げ、拳を握り、頬を膨らませながら、筋肉質なふりをしましながら、「これは、私たち都会の女性が望む姿ではないわね。」と冗談を言いました。
ビンカが笑い、アミもクラトの戯言を面白がっていました。
「ファッションのことを何も知らん、この年老いた老人の言うことに耳を貸すんじゃないよ。」
と再びクラトが冗談めかして言うと、突然、アミが何かに集中し、「テリが来てるみたいです。」と言ったのです。
「見えないように隠れるんじゃ。」とクラト。
すると「でももう時間がない。
もう来ているのです。
小屋まで走りましょう。」とアミ。
僕もとても怖かったのですが、ビンカはそれ以上に動揺し、僕に強くしがみつきました。
すると直ぐにエンジン音が近づいてきたのです。
クラトはロッキングチェアに座り、とても静かなふりをしました。
アミは隙間から外を覗き込むと、人差し指を唇に当てて「静かにしなさい」と言いながら、僕たちも観察するように目線で誘いました。
車が近づいてくるのが見えました。
それは、非常に磨かれた金属の黒い箱のようで、車輪があり、周囲にたくさんの棒があります。
棒の後ろにはガラスがありましたが、それも黒で、中を見ることはできません。
その陰気な車は大きな音と煙を出し、その場にいたすべての動物が逃げ出してしまったのです。
僕は、サイレンサーはまだ発明されてないんだなと思いました。
それほどの轟音だったのです。
するとアミがテレパシーで、「彼らは知っているのですが、恐怖を引き起こすのが好きなので使わないのです。」
と伝えてきたのです。
黒い箱が小屋の近くに到着すると、そこから、まるでパニック状態の4人の人間が降りてきました。
彼らはゴリラの中でもかなり巨大な種類で、巨体で毛深く、スパイク付きのヘルメット、スパイク付きの肩当て、スパイク付きの靴、スパイク付きのリストガード、スパイク付きの膝当てを身につけ、服の代わりに金属の胸当てをつけ、手に長い武器を持ち、顔は猿ではなく人間に似ていて、顔以外は緑の毛で覆われていて、肌はピンク色をしていたのです。
「さあ、飢えた 『スワミエント』、書類を見せるんだ。」
アミは、テリがスワマを『スワミエント』と名前を変えて、蔑称として使っていることを教えてくれました。
クラトは2人に目もくれず、マントのひだから機械的に古い折りたたみ式の紙を取り出し、広げました。
そして1人のテリが突然、その紙を手に取り、調べ始めたのです。
「これは200年前の身分証明書の申請証明書だ。」
200年というのは、地球の10年を意味し、クラトはその間ずっと身分証明書なしで過ごしていたと言っているのです。
「あ、気づかんかったなあ。
時が経つのは速いもんだなあ。」
テリは、クラトが自分たちをバカにしていると感じたようです。
「食べたばかりなんだ。
消化に悪いから、お前を殴る気はしないんだが。
言う事を聞かないと。。。
このあたりを通り過ぎる『ワキエントス』を見たことがあるか?」
ここで僕は、このテリが『テリズンボス』(※文章下部参照)であり、『ワキエントス』とは『テリズンボス』が『テリワコス』たちを誹謗中傷するための言葉であることに気づいたのです。
「テリは見たことあるんじゃけど、『テリワコス』と『テリズンボス』の区別がつかんのじゃよ。
わしには、同じに見えるんじゃ。」
と、風景を観察しているふりをしながら、とても落ちついた様子で答えました。
「不届きもの目!
人間と獣の区別もつかないのか?」
「そうじゃ、人間は愛し、構築し、獣は憎み、破壊するもんじゃからな。」
クラトの反応は、鎧と毛むくじゃらの存在を喜ばせるものではなかったのです。
「どうします?ボス、彼を殴り倒しますか?」
「ほっとけよ、あいつは年寄りの夢見がちな飢えたスワミエントだ。
ははははは!
拳は体に悪い、消化を乱す。
奴らが手間賃を払うんなら殴ってやっても構わないんだが。」
「みんな飢えているのに、どうやってお金を払うんだ! ハ、ハ、ハ、ハ!?」
何だかんだ全てが上手く行っていたのです。
すると「小屋を確認するんだ。」とボス。
僕は、腹に一発食らったような感じで、ビンカはさらに強くしがみついてきました。
しかし、アミは両手をこちらに伸ばして笑顔を浮かべながら、冷静になるよう目で伝えてくれました。
クラトはそれを逸らすために、
「お前らが興味あるものなんか何にもない。
銃やブザーもないんじゃよ。
お前さんら騒いどるだけなんじゃから。」
「黙れ、強制労働に連れて行くぞ。
軍需工場にはもっとワキエントスとスワミエントスが必要なんだ。」
テリは小屋の中に入り、あらゆるところを調べ、隅々まで覗き込んだのです...僕たちがいるところ以外は。
「何もありゃしませんよ、ボス。 」
「そうか、じゃあ行くぞ。」
「この辺でワキエントスを見かけたら報告するんだ。
書類不備は許してやろう。
ラッキーだと思え。」
彼らは車に戻ると、轟音を立てて走り去ったのでした。
※キアには、テリとビンカが所属するスワマと言う2つの人間のタイプが存在する。
テリは、『テリワコス』と『テリズンボス』の2つに分かれて永久戦争をしている。
そしてテリは、スワマを『スワミエント』蔑称として扱っている。
また、『テリズンボス』は『テリワコス』の事を『ワキエントス』と誹謗中傷するための言葉で呼んでいる。