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Ami 第2章-空飛ぶペドロ①

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「もう帰らなくちゃ。遅いから。
おばあちゃんが異世界の男の子に会えた事を知ると喜ぶよ。」
彼は鼻にシワを寄せて笑いながら
「大人達を私達の友情の和に入れないでおきましょう。」
と答えました。
「でも、もう行かなくちゃ......。」
「あなたの素敵な優しいおばあちゃんは、眠りが深いから、しばらくお喋りしていても寂しくありませんよ 。」と彼。
またしても彼は、僕を驚かせ感嘆させたのです。
どうして彼は、僕のおばあちゃんが素敵な優しい人で、また眠っていることを知っているのでしょうか?
ここで僕は、彼が宇宙人で、他人の考えを読むことが出来、さらに多くのことを知ることができることを思い出したのです。
「そうです、ペドロ。」
彼は、僕の心を読むように言いました。
「私のUFOから、彼女が眠りに落ちようとしているのが見えたのです。」
僕が「どうやって見たの?」と聞く間も与えないで、彼は熱っぽく叫びました。
「浜辺に散歩に行きましょう!」
彼は飛び上がり、高くそびえる岩の端に駆け寄り、身を宙に投げたのです!
僕は彼が自殺するのではないかと思いました。
僕が悲痛な思いで、崖の淵まで走っていくと、なんと彼は両手を広げて、
まるでカモメのように思いのままに、ゆっくりと降りているではありませんか!
僕は信じることが出来ませんでした。
でも直ぐに、陽気で非凡な他の星から来た存在のすることに、何事も驚きすぎてはいけないと思い直しました。
僕は細心の注意を払って岩から降り、浜辺で彼と合流しました。
「どうやったの?」
「鳥になった気分です。」
彼は笑いながら答え、海と砂の間を楽しげに走り始めたのです。
僕もあんな風に飛んでみたいと思いましたが、あんなに自由で幸せな気分には、なれそうにありませんでした。
すると「あなたは出来ます。」と彼。
またもや、僕の心を読んだのです。
彼は僕の側にきて、僕を励ますように熱意をこめて
「鳥のように走ろう、跳ぼう。」と言いました。
彼が僕の手を取ると、腕に、そして全身に大きなエネルギーを感じ、
僕たちは浜辺を走り始めたのです。
「さあ、ジャンプだ!」
彼は僕よりもずっと高く浮くことができ、手で僕を押し上げてくれました。
しばらく宙に浮いていたかと思うと、砂浜に落下しました。
僕たちは走り続け、ある一定の距離を保つごとにジャンプしたのです。
「私たちは鳥だ、鳥なんだ!」
彼は僕を励まし、僕の平常心を失わせました。
僕は少しずつ、いつものように考えることをやめ、変わっていったのです。
僕はもう何時もの自分ではありませんでした。
白い服の少年に励まされ、考え方を変え、羽のように軽くなろうと決心し、鳥になることを徐々に受け入れていったのです。
「さあ、飛び上がれ!」
驚くべきことに、空中にしばらく留まれるようになり、ふわりと落ちてはまた走り、そして、上昇することを続けました。
毎回、上手くなっていくのが驚きでした。
「驚かないでください。
あなたは出来るのです。今すぐにでも!」
新しい試みをするたびに、僕たちはより高くジャンプし、なんと、それは容易に達成されたのです。
僕たちは、月と星でいっぱいの夜空の下で、浜辺をスローモーションのように走り、ジャンプしていました。
それは、もうひとつの存在、もうひとつの世界のように思えました。
彼は「フライトを楽しんでいますね。」
と言って僕を励まし、少ししてから、僕の手を離し
「一人でできる、できます!」
と隣を走りながら自信満々に言い続けました。
「今だ!」
僕たちはゆっくりと上昇し、今度はお互いに触れ合うことなく、両手を広げたまま数秒間、空中に留まり、まるで計画を立てているかのように、とてもスムーズに落下し始めたのです。
彼は、「素晴らしい!ブラボー、ブラボー!」 と僕を祝福してくれました。
その夜、僕たちはどのくらい練習したのわかりません。
僕にとっては夢のような時間でした。
疲れてくると、砂浜に体を投げ出し、息を切らしながら楽しそうに笑いました。
それは、忘れられない素晴らしい体験でした。
彼には言わなかったけど、内心では、不可能だと思っていたことを可能にしてくれた素晴らしい友人に感謝していました。
なぜなら、その信じられないような夜に人生が用意してくれた驚きについて、僕はまだ何も知らなかったのですから。
湾の反対側には、こちらよりも大きな海岸沿いの町の灯りが輝いていました。
僕の友人は、砂の上に横たわり、僕たちの自然の衛星の透明度を浴びながら、夜の海に映るこれらの移り変わりと満月を、恍惚と眺め喜びました。
「なんて不思議なんでしょう。
落ちないなんて!
あなたのこの世界は壮観ですね!」
僕はそう思ったことはなかったけど、彼がそう言ったのだから......そうなんでしょう。
星や海や浜辺や、丸くて明るい月が、そこに浮かんでいるのは壮観です。
しかも......落ちないのですから。
「君の世界はきれいじゃないの?」
と僕は尋ねました。
彼はため息をつきながら、僕たちの右側にある空の一点に目をやりました。
「ああ、そうだね。
でも、私たちはみんなそれを知っているし、大切にしています。」
僕は、彼が地球人はあまり良くないと、ほのめかしていた、その理由のひとつが、わかったような気がしました。
僕たちは、自分たちの星を大切にしないけど、彼らは自分たちの星を大切にしている、という事なのだと。
「君の名前は?」
僕の質問は、彼にとってはおかしなものでした。
「教えても意味がありません。」
「秘密だから?」
「まさか!私の名前の音はあなたの言語には存在しないから、発音できないのです。」
「他の言語を話せるの?
スペイン語はどうやって覚えたの?」
「これがなければ、話すことも理解することもできません。」
と彼は答え、ベルトから装置を取り出しました。
「これは翻訳機です。
この装置は光の速さであなたの脳をスキャンして、あなたが考えていることの意味を伝えます。
私が何かを言おうとするとき、私が表現したいことを、あなたの言語に翻訳し、あなたのように、いや、ほとんどあなたのように私の唇と舌を動かしてくれるのです。
完璧ではありませんが。」
彼は『翻訳機』を手放さず、砂浜に座って膝を抱えながら、海について考え始めました。
「だから僕が何を考えているのかを知ることができるんだね。」
「はい、そうです。」
「君はテレパシーが使えるの?」
「そうですね......少し。
時々、イメージ、感情、アイデア、感覚などを、離れた場所にいる他の人と、翻訳機なしで送受信することができます。
さっき急に寒いと感じなくなったのはどうしてだと思いますか?」
「あ~、君だったんだね。
なんてすごいんだ!」
「それは訓練の問題なのです。
私達は学校で訓練します。
あなたたちもその能力を持っているのに、それを発揮したり、発展させたり
していないだけです。」
「信じられないような話ばかりだね。
そんなことが可能だなんて、ここにいる僕たちは想像すらしてないよ。」
「でも、可能なのです。
そして今、あなたは、これが本当のことだと知りました。」
「その通りだね。」
白い少年は、空の一点を見つめ始めました。

第2章ー② https://note.com/hedwig/n/n4e778e4fc83e

  

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