新型コロナウイルスの、最大の重症化因子は、「免疫」に対する無理解と無関心
新型コロナウイルスは、疫学的にも、医学的にも、社会学にも、そして経済学的にも、「免疫」が全ての問題の核心なのである。
4月15日に、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構と、国立大学法人北海道大学遺伝子病制御研究所の共同による論文が発表された。
COVID-19に生じる致死的な急性呼吸器不全ARDSはサイトカインリリース症候群CRSであり、CRSを治療することができれば新型コロナウイルス感染症、COVID-19も恐ろしい病気ではなくなる。
ここでの重症化は急性呼吸促迫症候群(ARDS)の発症と定義された。COVID-19に発症する致死的な急性呼吸器不全ARDSの発症の仕組みを考察し、その治療としてIL-6-STAT3経路遮断の有効性を示唆したのである。
新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症であるCOVID-19に伴う致死的な急性呼吸器不全症候群は、免疫系の過剰な生体防御反応であるサイトカインストームが原因であると考えられていた。
サイトカインストームは、遺伝子の転写因子であるNF-kBとSTAT3の協調作用により、免疫関連タンパク質であるインターロイキン6(IL-6)の増幅回路(IL-6アンプ)が活性化され、炎症性サイトカインの産生が異常に増加し起こる。
COVID-19にみられる急性呼吸器不全症候群の治療薬の標的としてIL-6 アンプが有望であり、IL-6-STAT3経路の阻害が有効であることを示唆した。
インフルエンザやコロナウイルスなどの感染症では、ウイルスを排除するために分泌されたサイトカインが、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応を起こし、重篤な呼吸障害につながることが知られている。免疫システムは細菌やウイルスなどの病原体やがん細胞の排除に重要な役割を果たしている。しかしながら、免疫システムが正常に働かなくなると過剰な免疫反応が自己の細胞や組織に向けられ、その結果、自己免疫疾患などを引き起こす場合がある。
2019-nCoVに感染した患者の臨床的特徴は、高レベルの血清サイトカインおよびケモカインであり、サイトカインストームと定義されている。サイトカインは、主に免疫細胞から分泌される低分子のタンパク質で、細胞間の情報伝達の役割を担っている。さまざまな種類のサイトカインが発見されているが、それぞれ細胞表面に存在する特異的受容体を介して細胞内へ情報が伝達される。がんや病原体などの異物が免疫細胞により認識されると、インターロイキン類、インターフェロン類、腫瘍壊死因子類およびケモカインなどのさまざまなサイトカインが放出され、多様な免疫応答が誘発される。
サイトカインの主な役割として、①免疫細胞を目的部位に集積する働き、②T細胞やB細胞など、獲得免疫系の細胞の分化を誘導する働き、③獲得免疫系および自然免疫系を活性化し、がんや病原体などの異物を排除する働きなどが知られている。このように、サイトカインは、私たちの身体を異物から守るうえで非常に重要な役割を果たしているのである。サイトカインストームとは、感染症や薬剤投与などの原因により,血中サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-αなど)の異常上昇が起こり,その作用が全身に及ぶ結果,好中球の活性化,血液凝固機構活性化,血管拡張などを介して,ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全にまで進行する状態をいう.
2019-nCoV Sタンパク質はGP120の構造的再配列を誘導し、CXCR4やCCR5などのケモカイン共受容体の高親和性結合部位を作成する。T細胞表面受容体の活性化がサイトカインストームを引き起こす可能性があることはよく知られており、サイトカインストームは、臓器および身体組織に重大な損傷を引き起こす可能性があるのだ。たとえば、肺でサイトカインストームが発生すると、マクロファージや体液などの免疫細胞が組織の損傷を引き起こし、その結果、急性の呼吸困難と死の可能性が生じるのである。
生体にSARS-CoV-2などの外来ウイルスが感染すると「自然免疫」の受容体であるPattern Recognition Receptors (PRRs)と呼ばれている分子がウイルス由来核酸などで活性化され「自然免疫」が活性化される。SARS-CoVでは、主に細胞内に存在しウイルス核酸を認識するPRRsのRIG-1やMDA5が活性化されてMYD88を介して転写因子であるNF-kBが活性化される。その結果、炎症性サイトカインTNFa、IL-1、IL-6やタイプ1インターフェロン産生が誘導される。
インターフェロンは、サイトカインの一種で、ウイルス感染の阻止作用をもつ糖タンパク質。ウイルスの感染やレクチンの作用などにより動物細胞が産生する 。その中でも、インターフェロンγ(IFN-γ)はマクロファージの活性化を示すことで知られている。
インターロイキンは、主として免疫応答の調節のためにリンパ球やマクロファージが分泌するペプチド・タンパク質の総称である(略記IL) 。インターロイキンには、血管内皮で産生され、他のサイトカインの産生を促進する作用をもつIL-1、白血球細胞の分化促進および全身性の発熱に作用するIL-6、マクロファージのTNF、IL-1、-6、-8の産生抑制作用をもつIL-4などがある。
TNFaやIL-6は樹状細胞、マクロファージや好中球などの「自然免疫」細胞を活性化する。この自然免疫活性化に引き続き「獲得免疫」が活性化されてウイルスを排除する。新型コロナウイルスのような新規のウイルスでは、「獲得免疫」の免疫記憶がないのでウイルスの完全な排除には時間がかかる。基礎疾患などを含めて何らかの原因で、ウイルス排除のための免疫反応、炎症反応が過剰に激しくなると肺胞上皮細胞などの細胞死も生じて、全身性のサイトカインストームからCOVID-19に見られる致死的なARDSが起こるのである。