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タロットの一番好きなカードは何?
京都に居た頃の、かなり古い話。
昔の友達で、今は会う機会がなくなってしまったのだけど、忘れがたく、深い影響を受けた人がいる。
圧倒的な、私が出会った中で一番魅力的だった人。
彼は根っからのボヘミアンで、たぶん想像もつかないと思う、安定のようなものからこれほど遠い人はいない自由人だった。
彼がそこに居るだけで、周りにいる人たちがほがらかな気持ちになる。
そういう気を発していた。
これは比喩的なものではない。
文字通り、場が楽しくなり、彼の笑顔に負けてしまうのだ。
空気のやわらかさが変わってしまう。
だから誰からも好かれた。
といってもいわゆる「いい人」ではない。
むしろ迷惑といっていい、天衣無縫でただひたすら好きなことをする欲求に逆らえない無垢そのものの、天から落ちてきたような存在だった。
定職を持たず、住む場所も変なところばかりだった。
高校生の時に家を出て米蔵を借りて住んでいたという。
大学はアメリカにに留学。
アート作品を展覧会に出すが展示拒否。
全く楽器の演奏できない人たちとバンドを組んで、何故か来日公演も果たす。当時のメンバーは後に有名になった。
船に住んでいたが、脱走軍人を匿って強制送還。
日本へ帰って職や住居を転々としながら、日々、刹那的な楽しさばかりを求めていた。
私と知り合ったころは、恋人と新築の豪邸に住んでいた。
この顛末がめちゃくちゃ酷すぎ過ぎて面白い。
彼の恋人は京都では知られた美女。
主にインテリ系・アート系の人たちの集まる界隈での憧れのミューズだった。
彼女に非モテの大学教授が一方的に恋をした。
超ロマンチックな手紙や高価な贈り物が次々と届く。
辟易しつつも、贈り物を貰えるので話を合わせていたところ、何故か勝手に婚約者扱いに。
そんな時にパリに2年間留学が決定。
建てたばかりの新築の豪邸で彼女に待っていて欲しい、帰ってきたら結婚しよう…ということで、留守番することに。
そこにうまうまと恋人同士で住んでいた.…。
「〇〇さん。僕は今日はSaint-Germain-des-Présのカフェからあなたを想い手紙を書きます...」みたいな愛の手紙が頻繁に届いて苦笑していたが、いや、思い出すだけで酷いよな(笑)
帰国時には丁重にお別れしたとのことだけど。
その後、崩れそうな古い日本家屋(本当に天井や壁が崩れてきた)に移り住んでいた時に遊びに行ったことがある。
その時はもう別の恋人がいて、そのひとも京都では知られた美女だった。
前の恋人が結婚を求めてきたのが主な原因で別れたんだと思う。
そんな風に何かに縛られることがどうしても無理で、縛られないからこそ輝いているというのに、人はどうしても彼を縛ろうとする。
彼が付き合うのはいつも余程の美女。妥協はない。
そして美女は彼の周りにいつも集まってきて、次を狙っていた。
と言っても超貧乏人。私もお金を貸したことがあるが、借りた直後にもう忘れるので帰ってはこない。でもそんなことは問題ではない。
彼はいつもボロボロの服を着ていた。センスはお洒落なんだけど。常にズボンの裾が「プロゴルファー猿」みたいに裂けていた。
いつもお金のないそんな人に、育ちのいいインテリな美女(大抵バイリンガルで学問やアートをやっている金持ちの娘)が憧れる。
そして周りには常に彼に惹かれる人が集まって、その中には芸術家や自由人、クリエイターが多く、有名な人、のちに著名になる人も少なくなかった(みんな知ってるあの作家も)。オリーブ専属モデルだった人もいたな(かわいかった…)
常に美女に囲まれているので、そばにいるとかなり得な気分にもなった。
最終的にはお金や安定なのだろうと思う。
それは彼を縛ろうとした女性が次々と去っていったのを見ればわかる。
でも、人間の圧倒的な魅力と自由のオーラの前にそれが屈する価値の転換を見るのは得難い瞬間なのだ。
弱さはどちらにあるのだろう?
彼にあるのだろうか。彼に強さや安定を求めた周囲の人たちにあるのだろうか?
未熟?成熟ってそんなに良いものなのだろうか?
責任?
彼とご飯を食べに行くと、いつも隣の人の残したものを平らげるのが面白かったのだが、そういう時の「あ、これも美味しいわ」とかいう時の何気なさが非常にかわいいんだよね。
ホームレスの人がかっこいい年代物のジャンパーを着ていたので自分の新品のものと交換したり、、、。
廃屋を見つけると侵入して、遺留品を漁り、お酒を発見して飲むのが好きで、、、。
一緒に廃屋を探検し、飲んだのも良い思い出。
歩いていて木の実が成っていると、とりあえず取って食べてみる。
大抵は不味いので吐き出して「不味いわ」と笑う。
こういうところもチャーミングそのもの。
自転車屋でバイトしてたんだけど、良くベートーベンのピアノソナタを爆音で聴きながら自転車を作っていた。お客さんが来て喋りかけても気づかないし、電話が掛かってきても気づかない。
店の前の通りだとかほかのテナントにもベートーベンの爆音が侵略していく。
後にも先にも、あんなに爆音でベートーベンを聴いたことがない。
周りの人からすれば、相当迷惑な人物。でも悪気はなく、感動的なほど親切だった。
一瞬の好奇心や興味で生きていた。
ルールは常に破っていた。
ぎらぎらした感じは皆無だけど、かわいい女の子に手を出すのも早かったな。浮気?んーーー、浮気なんていう概念すら無かったかもしれない。
そこにも純粋さがあった。一瞬の楽しさや美を崇拝するような。
うん。でも彼の魅力を言葉で全く伝えられないね。
難しい。
一秒一秒の為に生きているということをあらわすのはエピソードでは伝わらない。
楽しくないことは一秒もすることが出来ない。
生きるのは常に冒険であって、縛られることや変化のないこと、凡庸なことには耐えられない。
楽しさに顔が輝いているあの瞬間。そしてそれが場の色を変えてしまうほど眩しいものであること。
冒頭へと戻ろう。
「タロットの一番好きなカードは何?」
愚者と答える人は多いのではないか。
カードの愚者を見たとき、私が常に思い浮かべるのが彼のことだ。
私の中ではあのカードと彼とは一体になっている。
もし誰もが好きなあの愚者のカードそのままの人が居たら?
思い浮かべてほしい。その魅力を。
私には彼の爪の先ほどの魅力もないし、私の一生で彼の一日分の喜びも得ることは出来そうにない。
彼は地上の存在でなく、天から落ちてきたのだから。
彼を言葉であらわすのは無理。
タロットのカードが示す象徴性だけが彼を完全に表現している。
タロットの深みが少しはわかって貰えると思う。
そんな面白さについて軽くだけど伺えるのがこの教材。
ここから興味を持ってみるのもいい。
他の発信者の教材にはない、タロットへの敬意が一番感じられるものでもある。
なんだかここまでの文章の趣旨に全くそぐわないのだが(笑)
一応貼っておきます。
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