バトルショートショート ――AB雑談――
「――と、まあそんな所」
「……なるほどね。弑《シイ》君はなかなかに大変だ」
備《ビー》が栄《エイ》から聞いた教育方針に少しばかりドン引きしていた頃。
踊るような武闘を繰り広げる両者の視界の端で、件の弑君が泥《ディ》によって顔と鳩尾に連撃を喰らい、吹っ飛んでいた。
栄がその光景に目を細める。
「……強いわね。彼女は、もう?」
備の拳を高速で捌きながら栄が問いかける。
栄の蹴りに飛び退いて距離を開けつつ、備はニヤリと笑った。………無論、顔がのっぺらぼうの両者に表面上の変化は現れないが、そういった雰囲気を醸し出した。
「まさか、まだまだ先だ……と言いたいところだけど、ここに来る前に一本取られそうになった。ポテンシャルは僕以上かも、ね」
重心を一気に落とし、備は大きく一歩を踏み出した。栄が突き出した手刀を横から弾き、左胸に向かって拳を放つ。今度は栄が逆にその拳を外に捌くが、手数は備が勝っているのか、徐々に加速する連打の嵐。
備に押されるようにジリジリと少しずつ後退しながらも、栄の思考を占めるのは眼前の戦闘ではない。
(彼女……泥の二撃は確かに速かった。とは言え不意打ちを考慮しても、普段からそれ以上に速い私の攻撃を見ている弑が全く反応できない程ではなかった筈。あれこそまさに……波、揺らぎ)
「不意打ち、フェイント、そういった事を泥は得意としている。僕も搦手は使うけど、まあ彼女には敵わないかな。栄はどう?」
連撃の隙間を縫って再び牽制の蹴りを放つ栄。
備がそれを僅かに身を捻じることで躱して距離を詰める――タイミングに合わせ、栄は手刀で備の目元を擦るように目突き。
首を傾けて躱した備の腹部に膝蹴り。
後方に跳んで蹴りを和らげる備を尻目に、泥の方に目をやると、弑が今度は蹴り飛ばされていた。
(……また反応出来てない)
今までの備との攻防の最中にも視界の端で弑と泥を見ていた栄であるが、彼女から見て、泥の動きは明らかに自分よりも遅い。にも拘わらず弑の泥に対する反応は、栄が彼を甚振る時よりも鈍い。
もしその差異が、泥の攻撃表現。その波・揺らぎによって発生しているのなら。
「戦《ヤ》ってみたいわね……。私も、彼女と」