バトルショートショート ――『A』VS『B』&『D』――
どれくらいの回数、弑《シィ》は栄《エイ》に砕かれただろうか。
100回か。
1000回か。
10000回か。
もはや両者覚えていない。気にもしていない。
継ぎ目のない女性型マネキンと、継ぎ目のない少年型マネキンの終わり無き武闘。
その最中だった。
「おー、やってるね。調子は如何?」
寸前までなんの変哲もなかった、何もない空間から飛び出した白い右腕、その拳が唸りを上げて栄に向かう。
狙うは鳩尾。
真っ直ぐに最短距離を突っ走る拳は早く、また正確に栄の急所を穿つ為の軌跡を描いてゆく。
(……あたる)
右腕が現れる直前の栄との攻防により、左半身を満遍なく砕かれ今地面から半身になって身を起こしつつあった弑が、予想だにしていなかった光景に目を見張る。(無論、目は無いのだが)
謎の声に謎の腕、同一人物だとしたら何故挨拶をしつつ栄に攻撃を仕掛けたのかも全てが謎の光景。だが弑に一つ分かることがあるとすれば、それは目の前の突きが、己が今まで散々繰り出したどの攻撃よりも素早く正確だということだった。
それはまるで、未だ手が届く気配が皆無なる絶対者……栄の放つ一撃のよう。
必ず当てる。当てたら殺す。
そう直感させるに足るものだった。
少なくとも弑はあれを躱せない。
「……悪くはないかしら」
しかし弑には不可避のその突きを、栄は息を吐くと共に体を弛緩させ、肘を鞭のようにしならせぶつける事によって難なく横に弾いて避けた。――空間から未知の右腕が現れる直前の攻防、その際に弑を殴り砕いたまま伸びていた腕そのままで。
元から空いていたもう片手は……背後、栄の死角。
栄の身体で隠れて、倒れていた弑からも死角となっていた栄の背後で、上空から迫る蹴りを受け止めている。
「え、ちょっ、うわっ!?」
空中で蹴りを止められた足の主、小柄な体躯を持つ少女型のマネキンが次に何かをするより早く、栄は彼女を正面に振り下ろした。
彼女の前にいた人物は攻撃動作を中断、ヒラリと躱す。
豪速で地面に叩きつけられた白い矮躯は耳障りな音を立ててけたたましく、断末魔の悲鳴を奏でながら無数の破片となって飛び散った。
(…………)
弑が見つめる先。
小規模な爆心地のように凹んだ場所を挟み、かつて少女型マネキンであった破片を踏みしめる両者。引き締まった肉体の女性輪郭を持つ人型に対する、高い痩躯の男性マネキンめいた形姿。
「……久しぶり。元気そうで何よりだわ、備《ビー》」
「ははは、それは此方の台詞だと思うよ、栄《エイ》。もしかしなくても、また強くなっただろう?」
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