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スタインウェイと兄弟のピアノメーカー(終)(闘い,そして終焉へ)
ピアノ・ラボです。
今回はピアノメーカー、グロトリアンの最終話となります。
前回は勢いを増すグロトリアンが、ついにアメリカへ進出するところまでをお伝えしました。
しかし、このアメリカ進出に対して猛烈に抗議したのが、すでに世界的なピアノメーカーへと成長していたスタインウェイでした。
スタインウェイが問題としたのは、グロトリアン・シュタインヴェーグという社名の「シュタインヴェーグ(英語表記でスタインウェイ)」がスタインウェイ&サンズと混同して消費者に誤解と混乱を与え、スタインウェイの企業価値を損なうというものでした。
一方、グロトリアンとしては、もとはヘンリー・スタインウェイがドイツで創業し、その子セオドアから経営権を取得したので、シュタインヴェーグという社名は何ら不自然でなく、逆にスタインウェイの商売上の都合(言いがかり)でしかなかったと思います。
20世紀になっても両社の争い続き、ついに法廷闘争に持ち込まれました。
裁判の結果、スタインウェイが勝訴してグロトリアンはアメリカ国内においてシュタインヴェーグという名を外してピアノ販売をおこなうことになりました。
この壮絶な兄弟喧嘩後、両社は和解を経て落ち着いたかと思われましたが、それも束の間、時代は次のフェーズへと移ります。
1980年代、大量生産&高品質のピアノ製造で、欧米に代わり世界的なピアノの生産国となりつつあったのが日本の「ヤマハ」と「カワイピアノ」でした。
ヤマハとカワイは経営効率を重視しオートメーション化にいち早く舵を切ることで、安価で高品質のピアノを年間何万台と製造することを可能としました。
一方、グロトリアンは丁寧なピアノづくりを社是としていましたが、そのため生産台数はとても少なく、経営環境は年々悪化していきました。
2015年、香港のピアノメーカーがグロトリアンの経営権を取得。
製造機種も高級ラインとは別にセカンドブランドを追加して一般層への販売強化を図りますが、本来グロトリアンが持つ高品質なピアノからは徐々にかけ離れていき、さらにピアノメーカーの熾烈な競争や資材・人件費の高騰により経営はますます厳しくなっていきました。
そして昨年、香港の親会社がグロトリアンの破産手続きと従業員の解雇という判断を下して、同社は190年の歴史に幕を閉じることになりました。
ここまでグロトリアンの歴史をみてきましたが、グロトリアンやヨーロッパの老舗ピアノメーカーの良さは、創業者の理念を守り、誠実にピアノ作りに向き合っていることだと思います。
経済合理性や効率化が求められる現在において、グロトリアンやスタインウェイのような非合理・非効率の産業が、これからAIの進歩でさらに加速する時代においては逆に必要とされるのではないでしょうか。
皆さんはどう感じましたか?
長くなりましたが、今回までご一読いただきありがとうございます!
ピアノ・ラボ
画像出典:グロトリアン社ホームページよりドイツ工場全景と同社従業員