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【BOOK&RUN】北海道サッカーの挑戦

著者は、岩見沢教育大学サッカー部総監督・越山賢一氏。「北海道」「大学スポーツ」という共通項から拝読。序盤はやや入りにくい内容だったけど、中盤以降は興味深い内容が次々に登場してきた。技術論やフィジカルケア、もちろん指導に関わる様々な知見など内容は広範、内容ごとの濃淡(深さ)にバラツキはあるが、まあ、そのあたりは、致し方なしか。全国(さらには世界)への道筋(交流)がごく自然に存在する感じは、どこまで行っても(今のところは)地域(北海道限定)スポーツの枠から出にくい北海道の大学野球との大きな違いも感じた。また、本書とは関係ないが、大学チームがスポンサーをもっているというあたりも、是非は別として、参考にすべき取り組みとして興味深い。


◇「また駄目だ」ではなく「まだ駄目だ」

『「また駄目だ」ではなく、選手の可能性を信じて向上を望んだ「まだ駄目だ」と心に濁点を付ける。』なるほど、上手いことを言います。指導者・選手の信頼関係があればこそ、ですが。

◇「壁の高さよりも壁の厚みを初めて知りました」

『2009年、大学サッカー選手権(インカレ)に初出場した時に対戦した関東大学リーグ1位の流通経済大戦(中略)なんと、1対2という、思ってもみない試合結果でした。後半は押し込む時間もあった』という試合後のインタビューにて。『北海道の指導者が言う「惜しい試合」とは、壁に片足をやっと乗せた程度の状況です。厚い壁の上を走り、追いかけてくれて相手選手よりも早く飛び越えることができるかどうかが、全国での1勝にかかっているのです。北海道の第1種、第2種のチームが頑張ったというのは、全国の強豪に得点をあげて一矢報いた程度です。その後、何度か出場した全国大会でも思い知らされました。強豪大学は長身選手や俊足選手など、戦術変更を可能にする選手がベンチに控えています。またどんなことがあっても勝つという気持ちは北海道内の大会では感じることはできませんでした。これがチームの歴史であり、意地・戦力の厚みといった底力なのでしょう。次々に185センチ級の選手を注ぎ込まれ、アディショナルタイムにヘッドで2対3と引き離された浜松大戦。後半から入った相馬勇紀(現日本代表)の1回のドリブルでPKを取られ0対1で敗れた早稲田大戦。長身選手の頭で繋がれ、最後もヘッドで決められた桃山学院大戦、岩教大が攻撃モードに入った時に俊足選手に振り切られて失点した福岡大戦、ユニバーシアード代表のドリブルにPKを献上した愛知学院大戦など、すべては後半の途中交代選手による失点です。そういう選手がベンチに残っているチームに勝利するには北海道では敵なしのチームを作らなければ話になりません。

◇勝っても負けてもやるべきことをやるように

『練習試合の内容、特に高校生との試合では、勝っても負けてもやるべきことをやるようにと要求しました。90分間の試合形式の練習ですから、得点差は一切関係ありません。どのように崩し、どのように守るか、そして一人ひとりが目標を持って試合に臨んでいるかということです。』続いて『岩教大がまだ弱いとき』に札幌第一高校との練習試合で0-8で完敗、試合後に『当時の小池則行監督から「こういう時代がありますが、乗り越えて頑張ってください。いつでも試合をしますよ」と言われたこと』など過去の練習試合に関するエピソードが語られる。

◇このままでいい、試合終了のホイッスルは聞きたくない

さらには、2011年天皇杯でセレッソ大阪と対戦、敗戦するも『ガンキョウコール』がスタジアムに沸き起こったこと。2018年天皇杯で対戦した湘南ベルマーレの曺貴裁監督から「良いチームです。私はこのようなチームが成功することを何度も見てきました」と試合後に声を掛けられたことが紹介される。セレッソ大阪との試合中に選手は『このままでいい、試合終了のホイッスルは聞きたくない』と感じていたという証言も紹介され、高揚感に溢れる逸話が並ぶ。

◇本当のチーム力が試されるリーグ戦

『リーグ戦に突入すると、持久戦の様相を呈し、本当のチーム力が試されます。けが人が出てきますから、メンバーの確保が重要になります。勝ち負けが繰り返されることで個人のメンタルやチームのまとまりが試されます。また相手チームからスカウティングを受け、思い通りの戦いが阻止されるので、相手に合わせて対応するのか、こちらの戦い方を前面に押し出すのか、毎週異なってきます。(中略)相手に合わせることは戦術的変更が求められるだけでなく、メンバー変更も余儀なくされ、ストレスフルになります。前節負けた場合、チームのムード作りにも気を使わなければなりません。一方、力の劣るチームとの対戦の場合、自分たちの戦い方に磨きを掛けることになります。ここは積極的なメンバー変更で育成ができます。メンバーの層を厚くするためには、この時を逃してはいけません。』

サッカーと野球、競技は異なりますが、リーグ戦の乗り切り方という見方では共通点もあるように感じました。

◇北海道サッカーの将来を考える-技術指導者編-

筆者含めて4名での対談。気になったコメントを拾いメモ。『旭川で選手を経験して、関東の大学に進学しましたが、そこで、うまいという概念が覆されました。北海道では、ドリブルでボールを持てる、タッチ数が多いと「うまい」と私たちの時代は言われましたが、ゴール前に飛び込んで点を取る、パスコースを選択し狙った場所にボールを通す、トラップなど見えづらいスキル、目立たないことへのうまさを非常に感じました。私の選手の経験では、それに気付くののが大学では遅かったと思っていて、今はそういうことを早い段階で気付けるようなシステム作りをしていきたいなと考えています。』『北海道で間違いなく言えるのは冬の環境は大きな課題なので、皆で考えていく必要があります。また、地域性、広大な土地で都市が離れて点在する広域性によって競争力が生みづらいことも課題』『「チームの中でプレー以外の面でチームの一員として、「お前がいないとチームが成り立たない」という縁の下の力持ちの選手が必ずいる」(中略)「実力では試合に出られるレベルではない中学3年生の選手がいました。大会に選手20人を連れて行きますが、全員が試合に出られる選手ばかりでなくて、中にはマネージャー役や、物事をハッキリ言って、周りを鼓舞できる選手を連れて行ったりします。選手にはそれを伝えています。その子はハーフタイムで、自分の感じたことを選手に伝える子でした。最初は誰もその言葉を聞いていませんでしたが、あきらめずに言い続けました。あるとき、その言葉通りにプレーしたら勝った。その後は、スタメンの選手がその子の言葉を待つようになりました。それで全国大会にも出場できたし、最後にはその子が皆の心を奪ってしまった。最終戦を前に彼が「監督、この試合僕が出る可能性は1%でもありますか」と聞かれたので「ない」と答えた。すると、その子はアップもせず、ベンチワークに専念していました。精神年齢が非常に高かったですね。ベンチにいる子に言うのは「お前たちのサッカー観は素晴らしいから、出ている選手に思ったことをハーフタイムで言ってやれ」と。最初は聞かないかもしれないけれど、いずれ正しいと理解して聞くようになります。』

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