明治神宮野球大会北海道地区代表決定戦 10月17日PLAYBACK 1点という名の分岐点
明治神宮野球大会北海道地区代表決定戦3日目、神宮行きの切符を賭けた1戦、1回表に東農大オホーツクがあげた得点に焦点をあてての振り返り。
■1勝1敗で迎えた運命の3戦目
1日目は東農大オホーツクが延長10回の末、2対0で勝利、先手を取る。2日目東海大札幌キャンパスは3点差を追う7回表に中野の3点本塁打で試合を振り出しに戻すと延長14回勝ち越しに成功して勝利、1勝1敗に持ち込んで、逆王手をかける。こういった経緯で迎えた3戦目。2戦目を終えた時点、流れはやや東海大に傾きつつあるようにも思えた。初戦を落として押し込まれた東海大が2戦目を快心とも言える内容で勝利をあげたこともあり、一気に押し返したような印象。実際は1勝1敗なので、初戦で一歩下げさせられた東海大が土俵中央に戻したというのが、正確な見立てだと思うのだが、東海大が組手優位で組み合っているような状態に思えたのかもしれない。
■3戦目戦前の見立て
以下、3戦目の当日朝にメモした戦前の見通し、まずは東海大から。
・2戦目これ以上ない勝ち方で逆王手をかけた
・投手陣の大崩れはなさそう
・守備・走塁などのミスで流れを
渡すことなく、主導権を保持し続けたい
・先頭打者出塁機会は頻出、
早いイニングで得点に結びつけたい
これに対して東農大視点でのポイントについては、次のように書いている。
・2戦目で東海大が勢いを得る勝ち方を
したこともあり、まずは先制して、
一度流れを引き戻したいところ
・左腕対策が顕著な状態、
ここまで登板ないが渡部も混ぜての
総力戦継投を組まれると攻撃は
相当に手を焼きそうだが・・・
本稿で取り上げる東農大初回の得点について、当たらずといえども遠からずというところだろうか。ここにあらためて3戦目戦前に記したポイントを持ち出したのは、自身の見立ての正しさを誇示する意図では毛頭なく、3戦目初回の攻防にポイントでふれた「流れと主導権の争奪戦」が凝縮されていたのではないかとの見方を記憶しておく為のタグとして置いておこうと考えたまで。それでは、その「流れと主導権の争奪戦」を具体的に振り返ってみる。
■得点経過
両チームともスタメンは1戦目、2戦目からの変動はなし。DH制不採用ゆえ9番に投手が入る点だけが変更箇所である。秋を勝ち抜いたメンバー、考え尽くされた打線・打順ということもあるとは思うが、それ以上にスタメンをさわることで生じるかもしれないマイナス面を考慮して、互いに「静」の状態を貫いているようにも見えた。みずから動くことで微妙なバランスの中で成立している何かが揺らいでしまうことを恐れているかのように。
東海大札幌キャンパスの先発は加賀谷、1戦目に続いて2度目の先発。前日も2イニングを投げている。1戦目、2戦目通算で8イニングを投げて無失点を継続中。東海大札幌キャンパスは山も先発の駒として持っていたが、1戦目、2戦目で示した加賀谷の安定感に3戦目を託したものと思われる。この起用についても前述のスタメン固定と通底するところだろうか。いずれにしても両チームともに、不確定要素を最小化することに、これ以上ない慎重な姿勢を保って試合に入っているように感じた。
こうして始まった試合が唐突に動く。東農大オホーツク1番守屋俊介の三塁ゴロを東海大札幌キャンパス浦田が一塁へ悪送球、一塁側ファウルグラウンドへ送球逸れる間に守屋は二塁へ。無死二塁。2番山田がきっちり送って一死三塁。過去2戦8イニング対戦して得点を奪えていない加賀谷からまたとない好機を作る。続く3番古間木を迎えて、東海大札幌キャンパス内野陣は前進守備。古間木は初球叩くも二塁服部へのゴロ、この打球に一瞬飛び出しかけた三塁走者守屋を見て服部は三塁へ送球するが、送球高く、守屋は際どく帰塁。野選となって、一死一、三塁と好機が拡大する。東海大札幌キャンパスは続けてのミス。これも神宮行きが懸かる一戦ゆえの重圧からだろうか。そして打席には4番金子。金子は対加賀谷1戦目3打数1安打、2戦目1打数1安打、大方の打者が翻弄される中では対応できている。バタバタと慌ただしく動きがあったとはいえ、まだ、試合は始まったばかり。この場面では両チーム特に動くことなく、「投手と打者」を注視していれば、ひとまずは事の推移を見過ごすことはなさそうだ・・・。ところがこの予測が全く甘いものであることを直後に思い知らされる。
■主導権争い、互いの刃が抜かれる
4番金子は2球で追い込まれてカウント0-2。ここで加賀谷が一塁へ牽制球、一塁走者の古間木が飛び出して、一、二塁間に挟まれる。東海大内野陣は三塁走者守屋にも注意を払いながらの挟殺プレーとなる。そして、ここまでの守りでふたつのミスがあった東海大札幌キャンパス内野陣だが、この挟殺プレーでも三たびミスが起きてしまう。まず一塁走者古間木をアウトにできず、二塁進塁を許してしまう。さらには、一、二塁間の成り行きを見計らっていた三塁走者守屋も間隙を突いて本塁突入、生還。東農大オホーツクが無安打で先制点を奪う。対加賀谷9イニング目にして初の得点をあげたことになる。
そして、この得点は両チーム共に、主導権争いの刃を抜いたことによる結果なのではないかという仮説が本稿のテーマ。まず東海大札幌キャンパスが抜いた刃。これは言うまでもなく「牽制巧者」の加賀谷が一塁走者古間木を刺す為に投じた牽制球。味方のミスで好機を与えてしまった状況を一変するには~守備側があたかも攻撃側に転じたかのように勢いを得られるプレー~牽制刺殺か併殺打を思い浮かべるが、この場面、東海大札幌キャンパスとしては、試合開始直後、いきなり招いた失点の危機を打破して、かつ、2戦目からの流れを失わない為にも、攻撃的に守ることで、主導権を握る続けることを意図していたのではないかという風に考えてみた。一方の東農大オホーツクは一塁走者の古間木の飛び出しが、牽制球に誘い出されたものであるのか、あるいは、その後のスクランブルな状況を作り出す意図で仕掛けたものであるのか、真偽は確かめようもないが、いずれにしても、静的な状況を結果的に壊し、牽制球を投じさせる挑発を用いて、その後の混乱を誘発させるという刃を抜いていたのではないかという可能性を考えてみた。投手と一塁走者の主導権争いが得点に至る契機となっていたのではないかという見方である。
■抜かれた刃が向かった先
抜かれた互いの刃がぶつかり合い、静的な均衡が破られたことで、進塁を目論む2人の走者と守備側のスクランブルが発生。ここで着目したいのが、互いに、直面した状況をどこへ着地させるイメージを持っていたのか、という点。
*各走者が進塁、帰塁、走塁死となった後の、
アウトカウント増加数と得点、残塁状態。
実際には、ほぼありえない場合も
含まれているが、着地先として、
最大この場合分けを想定して
攻め・守る必要があるということになる。
中段真中が
「結局何も変化が生じなかった場合」。
下段右は守備側が満点の場合だが、
実際には想定しづらい。
今回の場合は上段左のケース
(実際には一塁走者が三塁まで進塁)
攻撃側が満点のパターンで着地した。
結果的に東海大札幌キャンパスは抜いた刃が自らへ向かう結果となる諸刃の刃となり、得点を与えた上で、一塁走者を三塁まで進ませてしまうことになった。あくまでも、仮の話として、仮に1点を与えたとしてもアウトカウントを増やすというような、ある種の割り切りができていれば、その後の傷も最低限で済んだようにも思う。ただ、実際は、古間木二ゴロで三塁走者の刺殺を狙ったように『1点もやれない』という決め事で動いていたのかもしれない。なによりも懸念されるのは、一連の顛末を経て失点したことで、攻撃にも影響が出てしまったのではないか、ということ。ミスを取り返すべく、焦りと力みが生じて本来の力を発揮することができない事態に陥っていたとするならば、単なる1点では済まされない重みを持った1点であったということになる。その意味ではこの初回の1点はただの1点ではなく、神宮行きの行方を左右することにもなった1点という名の大きな分岐点であったのかもしれない。
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