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【BOOK&RUN】球速の正体


論も証拠も。数値化と言語化、理性と野生、質と量、理屈と感情。一見相反しそうな二軸をバランス良く扱い個人の成長とチーム勝利の両立図る。測って終わり、試して終わりではなく測った後・試した後が肝要。23年試し合いが終わった今、好適な一冊。

そもそも、なぜ「球速の正体」を明らかにする必要があるのか。それは試合にチームとして勝利する為であり、チームが勝利するためには、選手一人ひとりが正しい鍛錬を積み上げて、成長をする必要があるからに他ならない。その為のひとつの手段として、現在地と目的地の距離を測り、目的地までどういった経路を辿るべきかの策を探るべく「球速の正体」を知ることが必要になる。

ピッチャーが練習すべきことは、回転数を上げるとか球質を変えることそのものではないと思います。ピッチングは、ピッチャーの芸術作品ではないですし、バッターありきのもの。バッターをいかにアウトにするかという視点

P182:福岡ソフトバンクホークス 関本塁GM補佐兼データ分析担当ディレクター

野球に限らず、もう人間が見えるものだけでは勝負にならない時代ですから

P212:愛知工業大学名電高校 倉野光生監督

「基準を超えないとできない野球がある」と感じています。例えば、打者は「打球速度が150キロ出ないと長打がでにくい」とか、投手は「ストレートが130キロ出ないと、変化球も早く曲がり過ぎて効果が薄れる」といったことです。そうやって野球を因数分解して、必要な要素を抽出するようにしています。因数分解した時に、計測することで何が足りていないかを数値化、視覚化することができると考えています。

215ページ:立花学園 志賀正啓監督

ラプソードの計測機器があって良かったんです。「150キロが出ても、このボールでは通用しないんだ」ということがよく分かりましたから。もし自分の球質が分からなかったら、「150キロ出ているのに何故?」と迷路に入り込んでいたと思いますから。

243ページ:東京ヤクルトスワローズ 木澤尚文投手

■データ化×言語化=正体

ざっくり整理すると「球速の正体」は数字と文字で明らかにされる。前者は理屈で後者は感覚。理性と野生と対比しても良いだろう。いずれにしてもその正体は、一見、相反するようにも見える、ふたつの切り取られ方で姿を現す。このふたつの軸が細かなニュアンスは少しずつ異なるが、筆者及びインタビュイーによって語られていく。論より証拠ではなく、論も証拠も、だ。

球質や身体の動きをデータ化(数値化)することと、「感覚」について議論することは、相反する方向性のように感じられるかもしれませんが、じつはこの二つは強く、分かち難く結びついています。

16ページ

「データ」だけでは足りません。データは本来、状態や状況を示しているだけなのです。一方、「人間的な部分」についても、1970年代に生まれ育った私たちの世代の「根性論」だけでも当然ダメです。まさに、、その両者の「際」が必要になると考えています。「令和」と「昭和」の両面が要る、ということかもしれません。

26ページ

現代では、計測ができる以上、球質を知ることも、「知る」ことに含まれるでしょう。研究には「質量混合研究」という研究方法があります。インタビューデータや記述データなどの「質的」データと、筋力やパフォーマンス、動作分析といった数値化できる「量的」データの両方から深い分析を試み、知見を見出す研究方法です。選手のストーリーや考え方、性格などを知ること(質的データ)も重要であり、同時に、選手の身体に関するデータや、ラプソードなどで計測したデータ(量的データ)を知ることも必要な時代に来ているということでしょう。

35ページ

昔のドラゴンクエストの「復活の呪文」のように、「どんな投げ方をしていて、球速・回転数・回転効率・ボールの変化量」がどうだったか、を確認できます。あとは「感覚」を言語化して残しておけば(野球日誌、ピッチングノート)、再現性を高められるでしょう。

46ページ

どのように言語化を行うのかは奥深いテーマで非常に興味がある。「復活できない呪文」とならないように正しく感覚に言葉を与える作業を上手くできるのも好投手の要件になるということだ。

データや計測への興味と、野性的な感覚の両方があるのが理想だと思います。(中略)データや計測はあくまで選手としての成長や試合で結果をだすための「道しるべ」に過ぎませんが、その上だけを歩こうとされても困ります。両方のバランスを取りながら進んでいくのが大事ではないでしょうか

165ページ:福岡ソフトバンクホークス 関本塁GM補佐兼データ分析担当ディレクター

「マウンドで最終的に助けてくれるのは他人やフォームじゃないよ」と声を掛けるのですが(中略)最後はENEOSという会社やチームを背負ってバッターと勝負してほしいんです。投げっぷりとか、自分の弱点を認める謙虚さとか、そういうことは機械では測れないものですけど、すごく大事なんですよ。つまり、ゲームデータを駆使して試合に勝つことが「野球」的、計測データを活かして科学的に選手の能力を伸ばすのが「Baseball」的と分類したとして、この2つを並行して追いかけてほしいのです。

199ページ:ENEOS 大久保秀昭監督

■測ってから、試してから

球速が勝つための一手段であるならば、その正体をみつけたということは、勝利するための有力な方策をみつけたということになる。

野球というのは本当に上手くできたチームで、完全無欠の必勝法は今のところありません。ただし、必勝法はなくても、より勝ちやすい方法を模索してアプローチしていくことはできます。そのプロセスが面白いと私は考えています。だから悪い結果に直面した時に、必ずしもすべてご破算にする必要はなく、「速くても打たれるのは、他の要因があるのかもしれない」というアプローチもあるのです。

22ページ

私はラプソードに関する講演に行くと、「弱いチーム・伸びない選手は測って終わり」という話を必ずしています。それは啓発てもあります。どんなに素晴らしい機器があっても、測って、現状を把握して、「どうしていくか」「どうやっていく」「実際にやる」というプランや立案能力や遂行能力がなければ意味がないのです。「GRIT」でも「やりきる力」でもいい。この能力を養うことこそが重要になってきます。

32ページ

計測データがあっても良くならないのは、「測って満足」「測って終わり」の選手(中略)計測データをどうやってゲームに繋げていくのか、自分の強みをゲームでどう出そうか、そういうことを考えて体現できるかどうかが大事で、その能力が必要です。「もうちょっとスピードを速くしたいな」くらいでは(意識が)足りないと思います。

196ページ:ENEOS 大久保秀昭監督

■チーム目標と個人目標

まずはバランス問題から。

選手がチーム目標と個人目標のバランスを考えて取り組んでほしいのです。「野球」と「Baseball」のバランスは、試合直前期とか、強化期とか、年齢とかタイプでも違ってきます。この2つを両方追いかける意識でやってくれたら、目的意識の高い練習になるはずだし、実際にENEOSでは、そういう練習ができるようになったことも都市対抗優勝につながったと思っています。

200ページ:ENEOS 大久保秀昭監督

そして大所帯のチームにおける計測の意味と価値。個人の動機付けがチーム全体のレベルアップと紐づいている事例の紹介。

今の時代に、試合に出られるか出られないのか分かりませんが、そうやって「うまくなったな」とか、「これぐらい速くなった」ということを数値で示して上げられると、部員一人一人が成長を実感できて、「野球部に所属して良かった」、「トレーニングの効果を実感できた」といった選手の満足度のようなところがチームの中でも上がるでしょうね。

234ページ

3学年併せると、140人ほどの部員数になります。そんな中で、部員をAチーム、Bチームというふうに主観で分けると、AチームにはAチーム感が出てきて、なかなか入れ替わりができない、流動性を保てなくなります。でも、そこで、計測することで、「球速が速い」「スイングが速い」ということを数値ではっきり示せば、生徒も納得するし、そういう目で見ます。計測には、そんな効果もあると思います。なによりも、全部の部員が測れて、試合に出ていなくても、その選手に力が付いているかどうかが分かります。だから、全体のレベルアップにも計測が役立っています。

218ページ:立花学園 志賀正啓監督

目標ははっきりしていて、「選手個人の伸びしろの最大化」です。生徒は「甲子園」と言いますが、甲子園は一人一人が最大限に伸びれば勝手についてくるはずだと私は考えています。甲子園だけを目指していて、負けたら生徒に、やってきたことへの説明ができないじゃないですか。

221ページ:立花学園 志賀正啓監督


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