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ふたつの境界線を越えた札大~函館決戦を振り返る~

◇札六代表、2019年以来の明治神宮野球大会出場権を獲得

2024年10月8日、10月9日、函館オーシャンスタジアムで行われた明治神宮野球大会北海道地区代表決定戦。札幌学生野球連盟代表・札幌大学が北海道学生野球連盟の函館大学に連勝して代表権を獲得。札幌大学としては1986年(昭和61年)第17回大会に出場して以来、実に38年ぶりとなる神宮進出。札幌学生野球連盟代表としては2019年(令和元年)に東海大学札幌キャンパスが東京農業大学北海道オホーツクを破って出場して以来、6年ぶりの代表権獲得となった。

2019年以降の代表決定戦戦績
2019年札幌円山、2勝1敗で本選出場※。
2021年札幌円山、1勝2敗で敗退。
2022年網走呼人、1勝2敗で敗退。
2023年札幌円山、0勝2敗で敗退。
※三戦目:野幌開催

簡単に勝利できた試合はひとつもなく、
2019年以降の11戦はいずれも
4点差以内での決着。
リードして迎えた終盤追い付かれた末に、
延長戦で振り切られるなど、
とにかく、苦い記憶しか残っていない。

◇道六恐怖症

全国的に見れば言うまでもなく、一地方リーグでしかない札六ではあるが、そのさらにはるか上を行く秘境リーグで揉まれてきた野武士集団に秋を終わらせられ続けてきたのが近年の札六勢。私の中にはしつこさと粘り強さの権化のような道六への恐怖症がしっかりと植え付けられてしまってる。

不安と期待が入り混じる・・・。あまりにもありふれた言い回しだが、函館に降り立ったとき、悲観的観戦者の心のうちはまったくそんな感じであった。

終わってみれば、2日に渡り主導権を完全に握り続けたのが札大であり、ほぼ危なげなくふたつの勝ちを収めた。ただ、試合を見守りながらも、道六恐怖症は絶えず私の心の底に疼いていて、反撃の刃がいつ抜かれるのか、ヒヤヒヤしていたのも事実。しかし、そんな悲観的で臆病な観戦者は見当違いであったことを札大は2試合を通じて見せつけてくれた。

◇函館決戦を振り返る

それでは、札大、函館での2試合がどのようなものであったのか?を一旦整理し、さらに、この先、神宮で勝ち進むために必要となる要素についてなどを、函館オーシャンでの試合及び秋のリーグ戦の振り返りも交えながら考えていこうと思う。

◇第一戦/2回表と第二戦/7回裏との相似

第一戦:札大7-0函大
第二戦:函台1-9札大
圧倒したといってよい結果が残された2試合。

2戦を通じて奪った得点が16点。
このうち、第1戦の2回裏に得た「先制点」と
第2戦の7回裏、1-8としたダメ押しともいえる
得点となった「3点」に着目してみたい。

まず、第一戦2回表の先制点。4番佐野翔騎郎の内野安打を起点に一死後、近藤大翔がエンドランを成功させて一、三塁と好機を拡大させる。この場面で函大にバッテリーエラーが出て札大が労せず1点を先取する。

続いて、第二戦7回裏の追加点。こちらも4番佐野翔騎郎がバント安打で攻撃開始。5番石井凌輔がエンドランを決めて一、三塁を作る。そして近藤大翔が右翼へ3点本塁打を放つ。

相似のひとつめは同じ打順からの攻撃であったこと。佐野が起点となり、石井を経由して近藤が仕上げたという流れ。そして、相似のふたつめはいずれもエンドランでチャンスを拡げた点。札大は2試合で3つのエンドランを成功させていずれも得点につなげるのだが、函館決戦で見せた札大の切れ味の良い攻撃を象徴するものは間違いなくこのエンドランにあった。ちなみにここで取り上げたふたつのエンドラン以外のもうひとつのエンドランは初戦8回裏に一挙5点を奪うきっかけとなった吉澤慈暖の一打。

一方、函大に目を転じるとバッテリーエラーによる先制点の献上。そして、その後、8回には立て続けに3つのバッテリーエラー、試合の行方を大きく決めるミスが発生する。札大攻勢の象徴がエンドランであったのに対して、函大はバッテリーエラーが劣勢の象徴となった。

こうして振り返ってみると、第一戦2回裏までに起きた攻守の中に、その後2試合目までを含めた経過と結果に関わるほとんどの要素があらかじめ含まれていたようにさえ見えてくる。

◇相似形を崩すもの

鮮やかな進塁打で走者を三塁へ進める札大の攻撃がことごとく効果的に得点につながったことは先に書いた通り。この基本となる型、相似形を崩す要素がいくつかある。

そのひとつめは、2戦目7回の攻撃で佐野が決めたバント安打。この回攻撃に入る前の時点で1-5と4点のリード。先発の宮田文仁が5回に1点を失うも依然として好投を続けている。函大の攻撃はひとまず8回と9回の残り2イニング。油断は禁物ではあるが、形勢は優位。が、キャプテンは初球(たしか、そうだった)を巧みに三塁線へ転がすと、俊足を飛ばし、一塁を駆け抜けた。この緩みのない出塁に、神宮が少し近づきつつあるのかもと、悲観論者の観戦者は感じた。

ふたつめはその後の近藤の3点本塁打。佐野の泥臭い出塁、さらには石井のつなぎを受けて、ダメ押しとなる一撃は、ディフェンスを右へ左へ翻弄して、ガラ空きとなった中央をぶち抜いてゴールポスト真下へ飛び込んだトライのごとく、相手に得点以上のダメージを与えた。初球を一振りで仕留めた近藤(2戦通じて5安打7打点と爆発)がもちろん、すばらしいのだが、これは佐野の揺さぶり、石井のエンドラン成功との合わせ技の一打であったと思う。

合わせ技といえば、2戦目の4回一死一、三塁で佐野翔騎郎が放った二塁手後方へのフライで三塁走者の桑田翔叶が判断良くタッチアップ、生還し5点目を奪う一幕も。

◇4番佐野翔騎郎

憶測の域を出ないが、佐野翔騎郎は2試合通じて、さほど調子が良いとはみえなかった。その佐野翔騎郎をカバーする形での得点奪取。それらに報いる気持ちもあり、佐野は次の打席でバントを仕掛けたのかもしれない。

そして、チームとキャプテンに緩みがなかったことの理由のひとつには、秋のリーグ戦、一節大谷戦が頭にあったのかもしれない。12-3とリードして迎えた9回裏に6点を返されて12-9と迫られた一戦のことが。

代表決定戦は指名打者制ではないことから、打線の組み換えにも注目していたのだが、こうしてみてみると、札大は「4番佐野翔騎郎」が成功したといえる。本来的には、1番、2番、3番のタイプ、ある意味「4番に押し出された」格好ではあるが、本調子でない故に自身もその中で最大限できることで力を尽くそうと努め、また、前後の打者も佐野のカバーを念頭に攻撃をつなげようという意識が好循環を生んでいたのかもしれない。

◇2試合で7併殺

攻撃の振り返りが長くなった。守りについても振り返ろう。「第一戦2回裏までに起きた攻守の中に、その後2試合目までを含めた経過と結果に関わるほとんどの要素があらかじめ含まれていた」と書いたが、これは守りについても同様。

第一戦1回裏、この2試合通じて合計7個の併殺を奪うことになる札大の守りがスタート。その後、第一戦は、2回、4回、6回、9回と5併殺、さらに第二戦では1回、4回と2併殺。「意味のあるアウトを重ねる」という言い回しがあるが、2試合を通して54個のアウトのうち、実に14のアウトを併殺で奪い函大に無為のアウトを積み上げさせた。

一方で、グラウンドコンディションが必ずしも良好とは思えず、簡単な併殺処理が少なくなかったことも記録しておきたい。ジャッグルになりかけそうところを粘って完成させたものも幾つか。その意味では球際の強さを見せてくれたと感じた。また、併殺処理に加えて、二塁手吉澤慈暖の好守が随所に光った。

そして、もちろん、第一戦完投の長谷隼兵、第二戦完投の宮田文仁の好投を忘れてはいけない。函大打者にほとんど満足にバットを振り切らせなかった麻原草太とのコンビネーション、そして内野陣との連携で併殺網に掛け続けた好投に拍手を送りたい。

□明暗分かれた6番打者
札大近藤が函館決戦で
爆発したことは前述の通り。
一方、函大の同じ
6番打者金丸竜大は第一戦3併殺、
第二戦で1安打を放つも、
最後の攻撃となった
9回裏センターフライに
倒れて最後の打者に。
両校6番打者の明暗が分かれた。

◇全国での1勝へ・・・

といったことで38年ぶりに明治神宮野球大会への出場を決めた札大。この流れに乗り、全国の舞台でのまずは1勝を期待したい。とはいえ、それが簡単ではないことは明らか。

秋季リーグ戦では、北大遠藤彰、東海小池響と橋本大昴に手を焼き、それぞれ1-2で敗戦。神宮ではさらにレベルの高い投手陣と対戦することは必至であり、その中でどうやって得点を奪うかを試されることになる。

一方、守りもほほ完璧な出来が求められることになる。函館決戦の2試合を通じて唯一の失点は四球と失策から喫しており、わずかな隙から失点がすっと生まれてしまうことは明らかである。投手はストライク先行、野手はしっかりと守り、流れの主導権を握り切ることはできなくとも、やすやすと手放さないしつこさと我慢が必要になる。神宮球場の人工芝と、全国レベルの打者の放つ打球速度への対応も求められる。この2戦、不運な打球による失策のあった久保田晃士、あまり心配はしていないが、守備の要たる遊撃手として、危なげのない球裁きを期待している。

攻守ともにまずは自分たちのリズムとペースで試合に入り、機を見て反転攻勢に出て最少点差で終盤に抜け出す、そういった試合展開が理想。反転攻勢の原動力は函大決戦の振り返りの中でふれた、佐野のセーフティーバント、または、内野フライでタッチアップ生還した桑田の隙を突いた走塁といった、ベースとなる形を一歩踏み越えるプレーを正しいタイミングで成功させることができるかが鍵になる。もちろん(秋のリーグ戦の振り返りになるが)一節道都戦で佐藤爽からこれ以上ないタイミングで右越本塁打を放ち勝負にけりをつけた近藤の一振りに象徴されるような決定力にも期待したい。

◇神宮大会を知るメンバーへの期待

そして、あらかじめ神宮大会を知るメンバーにも期待を寄せたい。2019年大会、白樺学園4強進出時を知るのが伊藤翼(大会パンフレットを確認したところベンチには入っていなかった模様だが)。このときは片山楽生、宮浦柚基、業天汰成、川波瑛平らに「連れて行ってもらった神宮」だったかもしれないが、今度は自らが1番打者として名実共に攻撃を引っ張る役割を得てグラウンドに立つことになる。

少し話はそれるが、白樺初戦は東京地区代表の国士館を相手にまったく怯むことにない堂々とした試合運びで見事初戦を突破した印象がある。伊藤翼が2019年の2試合から(間接的にかもしれないが)得たものはもちろん知りえないが、なんらかの収穫物があるならば、それが活かされるときが巡ってきたと考える。

また、2021年、2022年にクラーク記念国際で出場したのが麻原。九州国際大付属、大阪桐蔭といった関西以西の強豪チームと対戦。大阪桐蔭戦では2点適時打を記録したが、いずれも敗戦。グッドルーザーを越えるチャンスを掴んだと捉える。

◇10月、そして、ブラキストンラインを越えて

明治神宮野球大会、本選の抽選会は10月19日に行われる。これを書いている時点(10月17日)で大会ウェブサイトには札大のみが出場決定を果たしたチームとして掲載されている。一番乗りで出場を決めた札大は残り10校の決定を待ち構えている格好だ。願わくば、大会開幕後も札大が勝ち上がることで札大の名がウェブサイトへ残り続けることを期待したい。

「明治神宮野球大会出場、そして、優勝旗を北海道へ持ち帰って欲しい」秋季リーグ戦の開会式と閉会式の中で札幌学生野球連盟審判部部長高橋浩が発した言葉だ。2019年以来の神宮進出を果たしたことで、このメッセージが有効であることが何よりも嬉しい。そして、過分な期待であるかもしれないが、私の想いもまったく同じである。

しかし、そのこと以前に、札大が「10月越え」を果たしてくれたことで「11月まで真剣勝負に挑む札六勢の試合を見ることができる」ことにもまずは感謝をしたい。

10月を越え、そして、38年ぶりにブラキストンラインを越え、ふたつの「越える」を果たして神宮へ向かう札大。この先、さらに越え続けて行くことができるか・・・明治神宮野球大会の開幕は11月20日。

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