風吹く煉瓦の町へやってきた熊達
◇コールド負けの船出を覚悟
正直、コールド負けさえ覚悟して、集中力も切れかけていた。7回を終えて0-6、続く8回表には決定的とも思われた2点を失い、点差は8点に。7回の攻撃を終えた時点で放ったヒットはわずかに2本、走者を二塁まで進めることができたのはたったの一度、三塁すら踏めていない。「船出の初戦をどんな言葉で括って記憶しておこうかな」と考え始めていなかったと書けば嘘になる。
◇悲観でも楽観でもなく、理由のない直観
一方で「それでもまだわからないかもしれない」という想いが頭の片隅でコツコツと音を立てていたのも事実。たいした長さの観戦歴ではないけれど、信じられないような逆転劇は起こるものだし、その、どんでん返しを起こしてしまう考えられないミスもそれなりの頻度で起こることをなんとなく感覚的に知っているから。そして、それは起こった。
◇0-8から6-8に追い上げる
やはり始まりは四球から。まずは無安打で1点目。「ゼロで負けなくて良かった」スタンドではそんな声も聞こえた。確信はないけれど、少しでだけ期待してもいいですよ、と思う。すると、その後に、3本の適時打で5点、6-8と2点差まで詰め寄る。追い詰められたところから、勝負できる点差まで押し返す。9回の守り。二死後に四球を与えたことで、一瞬嫌な影が差したが、大過には至らず。「勝ってるのはこっち」あるいは「0-0のつもりで」といった掛け声が三塁側から聞こえてくる。結果、そうなったから言うわけではないが、リードしていることが重荷になって、逆に追い込まれたチームの咆哮あるいは祈りの言葉のように、耳にしたかつての試合の記憶が浮かんでくる。
◇9回、3点を奪い9-8で逆転勝利
その祈りの言葉をブルーインズ9回の攻撃が叶わぬ願いに変える。ブルーインズはひとつのアウトも渡すことなく3点を奪い9-8で大逆転勝利。2点で試合を振り出し、もう1点を加えれば、サヨナラ勝ちという整理された状況の中で集中力が高まったか。7回までの打撃とは一変、コンパクトに振り抜き捉えた打球は、ことごとくヒットゾーンへ弾んだ。3点中1点は押し出しによるもので、2点目に至る中で相手のミス(記録はヒット)も起きてはいるが、9回1イニングで3安打を集めた。ブルーインズの放った9安打はすべて単打。トランシスの8安打に2本の鮮やかな本塁打が含まれている点とは対照をなした。
◇煉瓦を積み上げるように
ブルーインズが今季より本拠地とする江別市。かつては煉瓦の生産地であったという小じんまりとした町。そのホームタウンでの記念すべき船出の試合、ブルーインズは煉瓦をひとつずつ積み上げるように、シングルヒットを連ねて、勝利で飾った。劣勢でもあきらめなかった熊達を、江別のもうひとつの象徴でもある、強すぎる風も後押ししていたのかもしれない、新しい仲間達を歓迎して。
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