フリー台本:悪役令嬢に転生したので諦めました【無料】
ご利用にあたって
演劇、朗読、配信、練習用などでご自由にお使いください。ただし無断での転載や譲渡はお辞めください (団体での利用のため、代表者が関係者に配布するなどの場合は可能です) 。
内輪でのご利用 (団体内での練習用、声優事務所に提出するオーディション用などの非公開でのご利用) の場合は、報告は任意で構いません。脚色もご自由に行ってください。
何らかの形で公開される場合のご利用はヒートンの著作である事を必ず明記してください。脚色はご自由に行っていただいて構いませんが、脚色がされている点についても明記してください。ご報告は任意ですがして頂けると喜びます。なお著作の明記が難しい場合はご一報ください。
If you use this script in public, please make sure to mention that it is the work of "Heaton". You are free to adapt the script as you wish. However, please also mention that you have adapted the script.
如果这个剧本被公开使用,必须清楚地标明是 "Heaton "制作的。 你可以按照自己的意愿改编这个剧本。 但是,请同时说明你改编了这个剧本。
問い合わせはTwitter (@onigiri1104tao) までお願いします。
PDF形式でのダウンロード
見本:横書き
見本:縦書き
登場人物
・悪役令嬢エリザベス (脚本表記:リサ )
・主人公ソフィア (脚本表記:ソフィ)
・トカゲのサラ (脚本表記:サラ )
・同僚 (脚本表記:同僚 )
本文
【シーン1:未来】
サラ 「街を一望できる丘へとやって来た。俺はオレンジ一色に染まる街には目もくれず、隅っこにヒッソリと聳える墓石へと向かって歩く。それはかつて処刑された、ある令嬢のものだ。俺は墓石の前に立つと、持参してきた花を添えてから…かつて彼女がそうしたように、ニッと笑ってみせた」
【シーン2:執務室】
ソフィ 「もうよろしいです。リサ様が民のことを考えてくださらないという事、よくわかりました。いつか貴方に正義の鉄槌が下される時が訪れます!! その時に反省なさっても、遅いのですからね!!」
リサ 「そう言い捨てると、スミス子爵家令嬢のソフィア…通称ソフィは、私の執務室を去って行った」
サラ 「まーた怒らせちまったな、エリザベス」
リサ 「机の上の水槽から声がする。中には赤いトカゲ…使い魔であるサラが私を見つめていた」
リサ 「エリザベスはやめろ。リサと呼べと言っただろう」
サラ 「おっと悪りぃ悪りぃ…んじゃ改めまして、リサよ。本日はどうして、ソフィ様はお怒りなんだ?」
リサ 「運河開通工事の件で、民を労働力として使っていることにお怒りらしい」
サラ 「運河開通?」
リサ 「川を作ることだよ。あの水が流れている」
サラ 「ああ、川か。んで?」
リサ 「ソフィに言わせると」
ソフィ 「民は貧困で苦しんでいるにも関わらず、あのような重労働を強いるなんて!! 私の下には『お父さんを苦しめないで』『夫を返して欲しい』と悲痛な声がたくさん届いてます!!」
リサ 「という事だ。流石はソフィ様、民からよく慕われている」
サラ 「感心してる場合じゃないだろ」
リサ 「それから、ディラン伯爵をタロシマへと左遷したことも文句を言われたな」
サラ 「は? え?」
リサ 「爬虫類特有の魔法陣のような瞳をパチクリとさせながら、サラは動揺の声を挙げた」
リサ 「どうした?」
サラ 「いやいやいや。そりゃ不味いだろ、エリザ…」
リサ 「リサ」
サラ 「リサ」
リサ 「何がまずい?」
サラ 「そんなん伯爵に『死ね』って言ってるようなもんだろ」
リサ 「タロシマは国の最南端…一番南の端にある島のことで、辺境の田舎な上、海を越えてやってくる他国からの侵略者と常に小競り合いが生じている。つまるところは国で最も危険な場所であり、ここに左遷されたものは事実上、『邪魔だから死ね』と言われているに等しい」
サラ 「しかもデュラン伯爵と言えば国民から大人気じゃねーか。どうしてあんないいやつを…」
リサ 「ああ、ソフィにも言われたな、それ」
ソフィ 「あの方は貧しい民を助けるため、自らの財を投げ打った素晴らしいお方でした。なのにどうして!! タロシマなんて危険な地に!!」
サラ 「いやほんと、マジでどうしてなんだよ?」
リサ 「なぁ、サラ…素晴らしい人をタロシマに送るのがいけないのなら、それは素晴らしくない人なら送ってもいいという意味なのか?」
サラ 「…」
リサ 「サラは何やら呆れたような顔で、こちらを見つめていたが、暫くすると口を開いた」
サラ 「あのよぉ、リサ。なんでそうソフィ様と対立しやがるんだ」
リサ 「別に対立などしてないぞ」
サラ 「あんなに怒らせといてよく言うぜ」
リサ 「彼はその可愛らしい足をトテトテと動かして水槽から出ると、
勢いよく私の右手の甲へと飛び移った」
サラ 「いくらソフィ様が聖なる巫女だっつったって、あんたはサリンジャー公爵令嬢…身分は上だろ? 別に目の敵にしなくたっていいだろ」
リサ 「ソフィはこの世界の神、『光の精霊』の祝福を受けた巫女である。そのため国の内外を問わず人気が高い」
サラ 「まぁ嫉妬する気持ちはわからなくもねーけどよ」
リサ 「また彼女は慈愛に満ちており、悪を見過ごせない心の持ち主である。そのため彼女の下には多くの仲間が集っているのだ。狭い執務室で黙々と政治を取り仕切り、国の内外どこに敵がいるかもわからないような私とは、まさに正反対と言えるだろう」
サラ 「でもあんまり虐めすぎると、そのうち罪人として処刑されちまうかもしれねーぜ」
リサ 「ああ、3年後に私は処刑されるよ」
サラ 「へ?」
リサ 「私の言葉がよほど予想外だったのか…サラは呆気にとられた顔で、こちらを見つめた」
【シーン4:執務室】
リサ 「まず本当の私は、エリザベス=サリンジャーなる公爵令嬢ではない。本当の名前は松平理沙という、日本のごく普通の…ちょっと歴史に傾倒しているだけの、ただのOLだった。信じがたい話ではあるがある日、
私は巷でそこそこ流行っていた乙女ゲーム、『聖なる巫女と7人のイケメン貴族』に登場する悪者、エリザベス公爵令嬢となってしまっていたのである」
サラ 「なんだ? その『聖なる巫女となんたら』ってのは…」
リサ 「『聖なる巫女と7人のイケメン貴族』はそうだな…お人形さん遊びをイメージしてもらえばわかりやすいか。主人公ソフィアの役となって、7人の貴族の中から好みの1人を選び、その者との愛を育みながら、この国を平和へと導く遊びだ」
サラ 「え? ソフィア?」
リサ 「ああ。対して私、公爵令嬢エリザベスは、主人公の恋路を邪魔すると同時に、悪政を敷いて民を苦しめる魔王でもあるわけだ」
サラ 「だから最終的には処刑されちまうって?」
リサ 「ルートによってタイミングこそ異なるが…いずれにしても私の結末は処刑と決まっている」
サラ 「…」
リサ 「ちなみにソフィアは幼馴染のリチャードルートを選んでいる節が見られる。あのルートだと私は3年後に処刑される」
サラ 「…」
リサ 「しかし何故リチャードなんだ? 7人の中からなら私は俄然、ハリス財務大臣を推すというのに。あの老紳士は包容力もさることながら、剃刀のように頭が切れる。何より薄毛を気にしているという弱みが何ともチャーミングで…」
サラ 「リサよぉ」
リサ 「ん?」
サラ 「俺たちがお人形さん遊びの世界ってのは、あんまり信用できねーんだけどよ」
リサ 「安心したまえ。私もいまだにゲームの世界にいることが信じられない。実はこれは単なる悪夢で、明日にでも目が覚めることを期待している」
サラ 「まぁでも、俺はリサの使い魔だ。リサがそういうならそうなんだろうって事で納得してるよ。でもよ。どーしても納得いかねーことが1つあんだわ」
リサ 「なんだ?」
サラ 「なんであんた、素直にエリザベスをやってんだよ?」
リサ 「サラのその言葉に、私は思わず『ほう』と感心の声を漏らした」
サラ 「本当にこの世界が人形劇ならよ、リサは未来のこと大体わかるわけだろ? ならなんで、自分が処刑されないように立ち回らねーわけ?」
リサ 「ダメなんだよ」
サラ 「ダメ?」
リサ 「例えばそうだな…ソフィアが外務大臣に楯突いた時、私が助け舟を出そうとしたことは覚えているか?」
サラ 「ああ、運悪かったよなぁあれ…助けてやったのに、本当はソフィに怪我をさせようとしたって、誤解されちまったんだからさ」
リサ 「ソフィアが舞踏会へ着ていくドレスが無いと聞いて、ドレスを送った時のことはどうだ?」
サラ 「あー役人の手違いで、サイズの合わないものが送られちまった時の? 嫌がらせってことになっちまったな…」
リサ 「そこまで言うと、サラは私の言いたいことに気付いたらしく、怪訝な顔を浮かべた」
リサ 「わかるかい? 私が未来を変えようと頑張ったところで、結果は常に悪い形に至ってしまう。何故ならこの物語は、聖なる巫女様のサクセスストーリーなのだからな。エリザベスは常に、意地悪で民を苦しめる悪者でなくてはならないのだよ」
サラ 「悲しい話だぜ」
リサ 「サラは吐き捨てるようにそう言った」
リサ 「そうかい?」
サラ 「そうだろ。何をしたってリサは悪者で、そんでもって最終的には殺されちまう…これが悲しい話じゃなきゃなんだよ?」
リサ 「悲痛な声を漏らすサラ…そんな彼が愛おしくて、私は人差し指で、その背筋を撫でてやる」
サラ 「リサは、このままでいいのかよ?」
リサ 「仕方あるまい。どう足掻いてもソフィに私は叶わない。何故なら向こうには神がついているのだからな。悪役令嬢になってしまったのが運の尽きだ。諦めているよ」
サラ 「…」
リサ 「しかしだな」
リサ 「私はサラを水槽に戻してやると立ち上がった」
リサ 「私はこれでも元歴女だ。だから知っている」
サラ 「知っている? 何を?」
リサ 「まったくもって無知な彼に向かって、私はニッと笑って語り掛ける」
リサ 「いま負けるだけと言うなら、未来で勝てばいいという事さ」
【シーン5:未来の学校】
サラ 「と言う訳で本日の授業は100年前、動乱の時代を生きた聖女についてです」
サラ 「当時は沢山の失業者で溢れていました。そこで彼女は失業者を運河の開通工事のための労働力として雇い、給料を払うことで救済を行いました。この政策は新ニューディール政策と名付けられています。何故、『新』なのかは不明です」
サラ 「新ニューディール政策は3年後、彼女が処刑されると共に中止されてしまいます。仮にこの政策が引き継がれ、運河が開通していれば、交通の便がよくなることで市場が活性化し、経済の回復が5年は速まっていたと言われています」
サラ 「聖女の逸話として有名なのは、『余分な1枚の金貨』ですね」
サラ 「7人の貴族に報奨金を支払う際に、彼女は本来支払う枚数よりも、金貨を1枚多く手渡したと言われています。後日、6人の貴族は金貨が多いことを報告してきましたが、デュラン伯爵だけが黙っていたことで、彼の本性を見抜き、タロシマへ左遷させたと言われています」
サラ 「事実、彼の屋敷痕からは、王都を焼き打つ計画書が見つかっており、もし彼女が左遷させていなければ、多くの人民の命が失われていたと言われています」
サラ 「記録によると、聖女様は『ヴラド三世にならった』と言っていたそうですが、ヴラド三世が誰のことかは謎です」
サラ 「他にも彼女は貴族階級の質素倹約令、飢饉に備えた囲いタロイモ、病院の衛生管理の指導など多くの政策を行いましたが…いずれも当時の民には理解されず…」
サラ 「おや、もうこんな時間ですか…それでは皆さん。また明日」
【シーン6:未来の学校の職員室】
同僚 「いやはや、良い授業でした。流石、炎の精霊サラマンダー様。100年前、聖女の生き様を直に目にしているだけの事はある」
サラ 「授業が終わり職員室へと戻ると、待ってましたと言わんばかりに、この学校の教員が俺に駆け寄ってきて、そう言った」
サラ 「ハハ。当時の私は、只のちっこいトカゲでしたけどね」
同僚 「またまた、ご謙遜を。ところでいかがですかな? これから一杯」
サラ 「すいません。今日はこの後、行くところがありまして」
同僚 「おっと。それは残念。それではまた今度にでも」
サラ 「はい。その際は是非に」
サラ 「教員が立ち去ると俺は、窓を開け、目を閉じる。室内へと流れ込んでくる風がより鮮明に感じられ、とても心地良い」
サラ 「いま負けるだけと言うなら、未来で勝てばいい…ねぇ」
サラ 「そして窓の向こうに広がる丘の片隅…ここからでは見えないが、恐らくは彼女の墓石が聳えるであろうあたりに向けて呟いた」
サラ 「どうだい? 歴史の勝者になった気分は」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?