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影討ち稼業

5/12 AM01:15

「冬眠中かお前は」
私は佐上先輩の声で目を覚ました。今月3件目の深夜通報。ちょっと堪える。
「気合い入れてけカメコ!」
「ひゃいっ!」
缶コーヒーを額に当てられ、完全に目が覚める。5月にホットとか正気か。
「もう着くぞ、ブツ確かめとけ」
私は後部座席に手を伸ばし、「商売道具」を改める。
異動してひと月、私の商売道具はPCから物騒なものに変わった。
対影棲生物用警棒及び特殊小銃。
美門市市民サービス課第9班、俗称「影討ち」専用の装備だ。

「各種メーター非稼働、郵便物半年溜めてますね」
「窓も扉も施錠済み、二重丸だな」
今回の現場は築40年の一軒家。まずは2人で影棲生物繁殖要件の確認に入る。今回は既に2要件クリアだ。
「窓割ります?」
「カメコにしちゃいい判断だ、行くぞ」
先輩と私は警棒を握り、勝手口に立つ。
「いち、にの」
グルアアア!
「うぐっ!?」
扉が佐上先輩ごと道路の反対側まで飛んだ。
百足じみた長い首、虎の四肢に人の胴。
大型3類、全長6.5m級。本来対処に4人以上要する手合い。
「先輩!」
「俺はいい、やれ!」
先輩の声と右前肢の爪がほぼ同時。咄嗟の警棒。鈍い金属音。警棒切断を視認。
一瞬の猶予を得た私は、ホルスターに手を掛ける。
指紋・静脈・虹彩承認クリア。
同行班員負傷による2項要件充足照合、クリア。弾薬装填。
照準補正完了。
「止まれ!」
警告無効確認。
「当たれェ!!」
対影棲生物用穿孔閃光弾、4発命中。
左側頭部、両前肢断裂を確認。
「核」は、奇跡的に無傷。
私は、早速3要件残り一つの確認にかかる。
頚部に扼殺こ……
「え?」

影討ち職員の大原則。
「核」の顔は見るな。
その理由をやっと理解した。

影棲生物。
その「核」は、埋葬されず閉暗環境に放置された死体であるとされる。
そして今夜、私が殺したのは。
「……嫌ぁぁぁぁ!」
私の就職を誰より喜んでくれた、高校の恩師だった。

(5/12 AM09:40へ続く)

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