【ニンジャ二次創作】「インヴィジブル・ハンド・アンド・ストリングス」(1)
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カンノギミ地区のデッカーであるサカモ・トシクマの朝は早い。今日は、というよりはここ数日は実際6時前の起床と出勤を繰り返す羽目になっている。まだ完全に覚めない頭でサカモが向かったのはカンノギミ署の近くにある立ち食いソバ屋「より良い・信濃」だった。
「やってます?」「ドーモ、サカモ=サン」「ドーモ、ヒラジケ=サン」奥ゆかしいアイサツ。穏やかな老店主。そして、名物の「スケ・ソバ」。実際カンノギミ署に彼が配属されたのは2年前だが、このソバ屋のとりこになってしまいすっかり朝のルーティンの一環と化していた。
「おやじさん、スケ一つ」「あいよ、スケ一丁ヨロコンデ―」最近はこれで通じるようになってしまった。新聞にさっと目を通し、それから壁際のTVを見やる。NSTVが早朝からここしばらくカンノギミ地区を騒がせる怪事件―実際、サカモが担当する事件も含まれている―の報道を続けていた。
「スケ一丁上がりましたよ」「アリガトゴザイマス」オジギしてからサカモは箸を付ける。ハーフ・細ネギトロ巻きとイナリ・スシ2貫が、ソバの上に乗るスケ・ソバ。実際デッカーの食事ではない、と同僚には言われるものの、その独特の味わいがサカモにはたまらなかった。財布をあまり痛めないのも、サカモにはありがたい話だった。
「ごちそうさまでした」「いつもありがとうございます、実際うちみたいな古い店わざわざひいきにしていただいて」「ウサギ・ソバみたいなチェーン店がどうもなじまなくて」「ははは、そういうことでしたか。それじゃ今後ともご贔屓に」
ヒラジケ=サンと話しているとつい話が長くなってしまう。後ろ髪を引かれる気分になりながらサカモは店を後にし、カンノギミ署に向かった。
――――――
同日、午前6時半過ぎ。コケシマート106号店の裏手。テンプラ・レストラン「リッシャク」の店主夫人であるコバナト・サモリは愛犬のトヨキチを連れて朝の散歩をしていた。夫のナオツジは食材の仕入れを終え、そろそろ家に着いているころだろうか。ナオツジが仕入れに出ている間、サモリがトヨキチの散歩をするのがここ4年ほどの習慣になっていた。
今日は違う道を通ってみようか、とサモリがとりとめもなく考えていたその時だった。CRAAAAASH!目の前に突然「繕修管道水」と書かれたバンが停車し、開けられた助手席の窓から何かが飛来し、爆発した。「アイエッ!?」突然の事態にサモリが狼狽えていると、バンからそろいのツナギを着た男が数人降りてきた。
「A班、回収重点!」「「「「重点ドーモ!」」」」「アイエエエ!」サモリは呆気なく担ぎ上げられ、包帯めいた布でフトマキ・ロールめいて縛られた。助けを呼ぼうにも人気の少ない通り、おそらく誰も来ないだろう。ツナギ男のうちの一人が諦念したサモリの顔面に何かを噴射した、と理解した数秒後にはサモリの意識は遠のいていた。
「B班、描画重点!」「「重点ドーモ!」」ツナギ男の中でもテヌギーを巻いた男2人がスプレーで何かをコケシマートの壁に書き上げるまでには2分とかからなかった。おそらく事前に打ち合わせを行っておいたのだろう。そうして壁には「テンプラ」「1」「夜な」などといったスプレー・ラクガキが描かれた。
――――――
「……以上が、今朝起きた事件の概要である。1車・2車は現状保全と現場の、3車、4車は周辺聞き込みを重点ドーゾ」「こちら3車、重点了解しましたドーゾ」サカモとコンビを組む先輩デッカーのドシチが無線とのやりとりを終えると、サカモは切り出した。
「ドシチ=サン、これで何件目でしたっけ」「もう5件目だよ、こんなご丁寧に朝からやらかしてくれてさ」「3日に1回、早朝か深夜の犯行、現場には毎度グラフィティ・アート」「毎回目撃される不審車両が違うのも相当凝ってるよね、ほんと」「感心してる場合ですか」
「これがカンノギミで起きた事件じゃないならのんびり見てられたけどね」「マッポスコアのせいで応援のマッポやデッカーも来ませんし」「かと言って死人も出ないから地獄の49課も来ない」「あんなの来たらカンノギミの治安がかえって悪化しますよ」「ごもっとも。でもまぁ、ノボセ=サンが動くとかいう噂もあるし」「それ、49課をつぶす方に動いてるんじゃないんですか」
とりとめのない会話を続けながら現場に向かうサカモは、この事件がのちに単なる謎めいた連続誘拐事件では済まなくなることをまだ知らない。
◇という形でちょっとトライしてみます◇コメント時は #hitotext を推奨◇生暖かい目で見守っていただけると実際うれしい◇
3/9追記:「登場人物設定集めいたもの」を作りました。無駄な設定なので読まなくても本編は分かりご安心だ。