ダンジョン社屋24時
「班長、おはようございまーす」
ゴギッ……ギギゴ。
石の擦れるような音。床に土がちょっと零れる。班長の方を向くと、口と類推される部分がきれいな弧を描いている。
「いやぁ、昨日のラグビー凄かったっすね」
ゴゴッ、ギゴギギ……ズズッ。
班長はタックルの真似をした低い姿勢を取る。本人は真似のつもりだが、俺が仮にぶつかられたら確実に死ぬ。圧死請け合いだ。
身長132cn、推定質量3.5t。
俺らの暦で604歳、で合ってたはず。
社屋管理課管財一班、班長の是田さんは石衛。
ざっくり言えば……ゴーレムだ。
ギゴガッ、ゴトン。
班長は自宅から朝飯を持ってくる。今朝はハイゴケとスナゴケのハーフ&ハーフ。
モゾッ、モゾッ、ペタッ。
時々肩の辺りに貼っている。この前は頑張って背中に貼っていた。
ズモッ、モゾッ。
「そういえば今日からうちの班、一人増えるんでしたっけ」
ズズッ。班長は指……腕?で綺麗な机を示す。
ちょうど俺の真向かい、半年前に社内探索で殉職した影戸さんの後任がとうとう来るのだ。
ズゴギ。
「班長のお知り合いですか?」
ゴズズズッ。
頭部の球体が左右に回る。顔の広い班長が知らないとなると相当だ。
影戸さんの後任なら斥候担当を引継ぐのだろうが、爬人は弊社にも10人といない。森者は労使交渉の都合斥候職には着けないとなると、まさか俺と同じ汎人か?
ズゴガッ。
おもむろに班長が立ち上がる。俺も釣られて立ち、扉の方を向く。
ゴドゴ……スズガッ。
石衛だ。2人も石衛とか酷いパーティだな、と思ったが違う。確か人事課の人だ。班長よりやや黒い右腕、見覚えがある。
その後ろからおずおずと入ってくる人が……いない。いや、人事課石衛の前がちょっと濁って見える。
「本日から管財一班でお世話になります、助川と申します」
そうきたか。霊者の斥候。
俺はお辞儀する方向が分からなかった。
【続く】