さらば架高、さらば民信研 #架空ヶ崎高校卒業文集

2001年 3年D組 柳 邦良

 新世紀もはや3ヶ月、今年も旧校舎裏の記念碑が薄橙に輝く季節となった。3年間勉学と研究に励んだ架空ヶ崎を巣立つ日がこんなに早く訪れるとは、正直実感がない。

 一般的な思い出の話は諸氏の筆に任せ、私は第50代民間信仰研究会副部長、あるいは01卒民信研の生存者として昨年の虚像祭の記録を残したい。
きっかけは部長の山崎君だった。彼女が挑戦していた「信仰の創造」については、ご記憶の諸氏も多かろう。架高の名にふさわしい、「ない信仰」を作りたい。50年の歴史をただ刻んだだけと評されてきた我々としては、過去最大の挑戦であったと言っていい。

  信仰の集積、共通項の解明、実行可能な奇跡の検証。同期諸氏とは明らかに違う形だが、虚像祭当日までのあの異様な熱は完全に青春のそれだった。虚像祭7日前、山崎君の放った薄桃色の輝きと夕焼けが交錯したあの瞬間は一生の思い出である。

 当日のことはご存知のとおり、肉体が光そのものと化した山崎君、いやさ「アカネ様」が旧校舎に降臨し32名がアカネ様と同じ世界に帰依したわけだが、あの事件には少しだけ内幕がある。人間だった頃の彼女と最後に話し、私は伝言を預かっていた。遺言というわけではないが、山崎君のメッセージをここに記す。

 私の挑戦は無謀なことだし、およそ正気の判断でないこともわかっています。それでも、架高の生徒として「ないもの、なかったもの」に挑みたい。だから、時々でいいし「民間信仰」の名を聞くたびでいいので「そんなアホな子もいたな」と思い出してもらえれば幸いです。

 民信研はあの日、伝説になったしあの日以降の民信研は「アカネ様の管理」という新たな責務も生じた。後輩たちに後のことを頼むのはいささか忍びないが、どうか架高に我々の「信仰」を刻み込んでほしい。

 架高に、アカネ様に、永劫の栄えあれ。


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