暁星をもう一度
「爺さんの『切札』か。あれは使わせねぇぞ」
誠は、「来訪者」にすげなく言い放った。
「だいたい今の航空相撲にあれは無理があるだろうが」
しかし、来訪者もまた決然と言い返す。
「『あの手』を上回る初速を出すRTUはこの世に存在しません。だからこそ、なのです」
「おめぇさん、まさか」
誠の顔が俄に曇る。この男の……角光関のやろうとしていることは、本物の狂気の沙汰に他ならない。
「二段加速射出式立ち合い、それに賭けたいのです」
「何だと」
否、誠の予測を超えていた。
今から60年ほど前、力士ジェット、今で言うRTU(リキシスラスターユニット)は米・西独・英の三強時代であった。日本は航空戦力開発制限が故に国産ジェットを開発できず、結果として航空角界における日本人力士の割合は2割を切った年すらあった。そんな最中に『生身』で航空角界に参戦し、わずか3年で横綱になり日本の制空権を奪回した男がいた。
「それが爺さんだ……って、そんなことは知ってるよな、角光関さんよ」
誠は話しながら、シャッターを上げる。
「ええ、加速力と体捌きに全てを費やした末に海外勢を角界から駆逐した『東洋の暁星』……ふんっ!」
角光もシャッターに手をかけ、持ち上げる。
「それが大砲誠さん、あなたのお爺様でしたね」
そして角光は目の当たりにした。
正気ならざる執念の産物を。
小兵だった大砲関を横綱に押し上げた伝説を。
その名は、
1430mm級対艦砲改め対力士砲『俵投げ』。
「ここから両国まではおよそ4.6km。射出から20秒足らずで到着だ」
誠は改めて角光関を見つめた。
「鍛えが甘けりゃ即死する。それでもおめぇ、」
「やります」
角光は即答した。
「使うのは千秋楽の1度。減衰する速度と軌道調整はRTUでカバーします。そうしてでも、」
彼の目標は2つあった。
「綱取りを果たし、航空角界を次のステージに導きます」
これは、航空角界史上最も凄惨なる時代の幕開けである。
【続く?】
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