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【七転八倒エオルゼア】#1

※このシリーズについて

ゲーム『ファイナルファンタジー14』における自機『Touka Watauchi』及びそのリテイナーキャラ『Mimino Mino』を主役とする不連続不定期短編企画です。ゲーム本編のメインクエストやサブクエスト、F.A.T.E.などの内容をもとにしたものが含まれます。

登場人物紹介

Touka Watauchi(綿打 灯火/トウカ):主人公(画像中央)。海を渡ってリムサにやってきたアウラ男性。リムサ渡航時点で20歳。
Mimino Mino(ミミノ・ミノ/ミミノさん):Toukaが雇ったリテイナー(画像右)。リムサにすっかり慣れたララフェル女性。年齢非公開。

【ソーダ水よし、岩塩よし】

チリン……チリン。
呼び鈴を力なく振るこの男、綿打 灯火。偶然立ち寄ったウルダハの都で錬金術に出会い、実用のために、もとい錬金術の真理を目指して修行に励む男である。
ここは海都リムサの宿屋、ミズンマストの一室。未だ家なきアウラであるトウカにとっては何においても替えがたい拠点に、今は重曹の入った容器がいくつも積まれている。

「はいよートウカちゃん、お待たせ……ってうわぁ!なんじゃこれ!」
トウカ専属リテイナーのミミノも、流石にこの惨状に腰を抜かすほかなかった。普段なら戦士の正装そのままで自分を呼び出し、マーケット出品の打ち合わせを始めるはずの雇い主が、虚ろな目で延々と一つの作業を進めている。

「トウカちゃーん、あのさ、これなに? 」
「何って……重曹ですよ、重曹。どこにでもある、ソーダ水と岩塩をウォーターシャードと合わせて錬成した、NQの、重曹ですよ……岩塩の在庫よし……」
「いや製法と品質は聞いてないんだよトウカちゃん。なんでこんな部屋中重曹だらけなのかー、って話」
「セヴェリアン先生からの課題ですよ。重曹を作って持ってこい、と言われまして……ソーダ水よし」
「ほほう、重曹ね……それでこんな山のように生産してたわけだ」
ミミノの背丈の2倍にも3倍にも積まれた重曹入り容器の山。ミズンマストの広い窓から取り込まれるはずの日光が、少し妨げられる程の量であった。

「何個作るって話だったの?50個?100個?」
「1個ですよ、1個」
「なるほど1個ね、そりゃあ確かにこんな……いらないじゃん!1個でしょ?!」
「1個ですよ、HQの重曹が1個。それさえあったらこんな重曹無限錬成アウラ男性にならなくて済むんだ……」
そう話す間にも、トウカの動きは止まらない。ソーダ水と岩塩を取り出し、倹約、イノベーション、加工、作業、マスターズメンド。それらを織り交ぜてできた重曹は……
「があっ!NQ!」
「あちゃー……」
またひとつ、トウカの後ろにNQの重曹が置かれる。見習い錬金術士の墓標か何かのように、丁寧な手つきで重曹容器が並べられていく。
「これを延々やってたのね?」
「はい……ソーダ水よし、岩塩よし……」
「待ちなさい」
ミミノの細い手指が、ひしとトウカの手首を掴む。
「あたしに策があるわ」
「はい?」
「とりあえず財布持って!外の空気を吸うわよ!」

◆◆◆◆◆◆

リムサ・ロミンサ下層、国際街商通り。
武器を用立てる者、薬を買い込む者、あるいはリテイナー契約の交渉を進める者。そして……
「マーケットボードですね」
「そう、マーケットボードよ」
トウカとミミノは通りの端に据えられた掲示板の前に立っている。ミミノのようなリテイナーを介し冒険者が余剰資材を売買するマーケットボード制度は、トウカも当然売買の双方で活用している。錬金術士にとってはありがたい制度だ。
「あたしね、思ったのよ。というかピンときたというかさ……」
ミミノは素早くボード上の掲示内容に目を通していく。
「HQの重曹が欲しい、セヴェリアン先生の依頼はそれでしょ?」
「そうです、なのでボードで探して岩塩とか調達してましたけど」
「それよ!」
「それ?」
重曹無限錬成装置と化していたトウカの頭の回りは、まだ遅かった。
「いい、トウカちゃん?ゴールに至る経路は、一つじゃないのよ?」
そう言いながらミミノが自慢げに掲げたのは、1枚の出品票だった。
「これって……HQ重曹1つ、770ギル?」
「なにもトウカちゃん自身が錬成する必要はない!上手くいかなかったらアプローチそのものを変えちゃえばいいのよ!」
「えええええ!?」
周囲の冒険者が軽く振り返る程の叫びが、街商通りにこだまする。

「全くそこまで考えついてなかったですね……」
大きな声を出したが故か、はたまた羞恥が故か、我に返ったトウカの声には少なからずいつもの活気が戻ってきていた。
「ミミノさん、確かにこれは最速の解決方法です。俺の、錬金術士の視点からは確かに出せない策だ」
「でしょでしょ?」
「ただ、『錬金術士の最適解』じゃない。少なくとも、素材を買うんじゃなくて成果物を買ってオシマイ、というのは錬金術士としての成長がないかな、と。今ここでやったら、あとあと絶対つまずきますし、ってミミノさん?」
「トウカちゃん、あなた……」
ミミノはしげしげと雇い主の顔を覗き込み、軽くため息をついた。
「なんです?」
「お友達に「生真面目」っていわれたことない?」
「クソ真面目となら、山のように」
「聞いたあたしが悪かったわ……まぁ、なんにせよすっかり元通りって感じね!」
ミミノはトウカを軽く叩きつつからからと笑った。
「さぁ、帰ってまずは」
「重曹の出品からですね」
「そこまで頭が回ってるなら問題なし!」

◆◆◆◆◆◆

数日後、ミズンマストの一室。
呼び鈴が鳴ったか鳴らないかのうちに、ララフェルは雇い主の仮宿に飛び込んだ。
「はいよートウカちゃん!今日は……って、すっかり部屋も片付いたわね」
山と積まれた重曹もすっかりなくなり、いつも通りの部屋に戻っている。
「はい!お陰様でHQの重曹も無事完成しました」
錬金術士の装いではなく、「本業」たる戦士の装いに戻ったトウカの声も明るい。
「で、早速なんですけど今日はこれを売りに出したくて」
トウカが懐から取り出したのは、ミミノもすっかり見慣れた容器だった
「トウカちゃーん、あのさ、これ……」
「何って……重曹ですよ、重曹!どこにでもある、ソーダ水と岩塩をウォーターシャードと合わせて錬成した、HQの重曹ですよ」
「もう重曹いやぁ……リテイナー権限で出品停止させてぇ……」

【今回の元ネタ】

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